正しい毒の盛り方
「・・・結構頻繁に浄化作業するんさね。」

さっき壁に縫い止めたAKUMAからこの街に来た理由、そしてそのAKUMAの知っている事なんかを全部吐かせてから破壊した後。黒の教団の人間がエクソシストを派遣してきた事を知った千年伯爵の側が、此処のイノセンスを回収しようとAKUMAを派遣して来たっていうだけの事しか無かった事に安心しつつ。だけどつまりそれはこっちも迅速に動かないとイノセンスを奪われる可能性があるっていう事だ。その事にのんびりできると思ったんだけどなあ。・・・なんて思いながら、あのAKUMAから回収したグリーフシードをソウルジェムに当てていた最中。不意に横からかけられた声に「え?」とラビくんを見た。

「1回力使うごとに毎回ソウルジェムにグリーフシードあててっから、結構面倒だなあと思って。」
「あぁ、」

言われた言葉に納得して声を漏らす。だけどその質問は別に答えたくないものでも隠したい事でもないから「別に毎回毎回浄化しなきゃいけないわけじゃないよ。」と素直に応える。・・・それにしても、ラビくんとソウルジェムや魔法少女の能力についてお話しするのは気が抜けないから嫌だな、なんて思いながら続ける。

「例えばこれが真っ黒になってからでも、壊れる前に浄化させればそれで問題ないしね。」
「?んじゃーなんで毎回やってんさ?面倒じゃね?」
「面倒かどうかって言うのは考えた事無いけど・・・ソウルジェムを綺麗に保っておく方が戦いやすいんだよ。」

ソウルジェムはいわば私の魔力の貯蔵庫のようなもの。穢れが溜まっている状態はその魔力が消耗している事を指し、綺麗な状態を保てば貯蔵されている魔力の量も増える。だからソウルジェムを常に綺麗な状態に保っておけば、その分1度の戦闘に使える魔力が増える事になる。確かに浄化作業はグリーフシードをソウルジェムに当てるっていう簡単な動作で済むから戦闘中にも出来るけど、でも戦闘中じゃどんな不足な事態が起こるか分からない。だからこうして暇な時にソウルジェムを浄化しておくに越しておいた事は無いんだよ。

と。それを言えば、「へぇ・・・やっぱそれ面白いイノセンスだなー」なんて感心したようにまじまじとこれを見られる。

・・・そう。ソウルジェムは、魔力の貯蔵庫。消耗した魔力は、グリーフシードが回復させる。いや、グリーフシードにしか出来ない。他に手段が無いからこそグリーフシードは私にとって必要不可欠なもので、それによって魔力が補われるのだから、当然余分なグリーフシードを持っていればそれだけ魔力のストックを持てるって言う事になる。つまり魔法を出し惜しみせず、無駄遣いする事が出来る。グリーフシードを持っていれば持っている程、戦闘では有利になる。

それを教団側に説明すれば、教団が貯蔵していた大量のグリーフシードを貰い受ける事が出来た。勿論研究の為とかいろんな名目で全部を貰う事は出来ないけど、それでも有り余るほどのグリーフシードを入手できて、私としては万々歳だ。

         だって私は、普通より魔力の消耗が早いからね。・・・とは、勿論誰にも言わないけれど。



(面白いっつーか・・・益々不気味だな、イノセンスってのは。)
つまり、AKUMAを破壊すれば破壊する程力を持つって話しだろ?まさにAKUMAと対抗するイノセンスって感じだが、それにしたって薄気味悪い。でも裏を返せばAKUMAを破壊できなきゃ使えなくなるなんて、適合者を追い詰めるみたいな仕様。・・・だめだ、やっぱ気持ち悪ぃ。このソウルジェムってやつは、イノセンスその物の根本までもを気色悪く感じさせるようなイノセンスだ。

思いながら。だがそれはに言うべき事でもないと口には出さず、今度は「しっかしソウルジェムってほんとに便利なんだなー」と。思考と共に話題も切り替えた。

「実際話には聞いてたけど、マジで姿も見えないAKUMAの位置まで分かんだな。」
「まだ1つ見つけただけなのに断定しちゃっていーの?」
「いーのいーの。あのユウも言ってたし、本物だって事は知ってたからな。実際見てみて吃驚ーってトコ。」
「ふぅん。」

でも、実際俺、興味深々だったんだよな。のイノセンスにも、自身にも。
さっきも思った事だが。それは元々なーんか気持ち悪ぃイノセンスだったからってのもあるし、もっと言えばこないだユウと任務行った時にさりげなく聞いたへの感想が、最初は嫌いだーなんて言ってたのに、次に(がユウと初任務に言った後)聞いた時結構好感触なもんだったから、益々。      それに俺は、元々って人間にも、が持つイノセンスにも興味があった。

どういう経緯か理由かは知らんが、今までずっと1人でイノセンスを持ってAKUMAと戦ってきた子供。13・・・あぁいや、もう14だったか。そんな子供が一時とは言えクロス元帥と一緒に行動してたって事もそうだが、わざわざ元帥と別れて1人で行動していた事。どういう経験を積んできたのか、教団のホールにずらっと並んだ棺桶を見ても気にした様子すら見せない、当り前に戦争を享受した風に見える、薄気味悪いガキ。

あぁでも薄気味悪いガキとか何とかいっても、別に俺はの事が嫌いなわけじゃない。寧ろこの・・・東洋人独特の童顔っつーのか。この見た目14に見えない幼さとか、ちょっとした所で見せる(さっきのケーキの時とかの)可愛らしさには好感が持てる。なんつーか、妹分みたいな感じかも知れん。
・・・ただ1回ユウに「お前、アイツの事嫌いなんじゃねェのか?」って聞かれた問いにこれ答えたら、なんかスゲードン引きした顔で「ロリコンかよ」って吐き捨てられた。断じて違う。俺は守備範囲が広いだけだ。っていうかそもそもとはそんなに年離れてねーし!!

いや、まぁ話は逸れたが。今まで俺もジジイもと組めんかったし、今回組めてマジでラッキーさ。・・・んでも。


なーんか。こーゆー邪な事考えてんの、バレてるよーな気もするんだよな。


それに聞けば聞く程気持ち悪いイノセンス。
破壊したAKUMAを糧にする、なんともエグイそのソウルジェムっつー・・・見た目だけはめっさ綺麗な卵型の宝石。自身は魔法の力でそれを普段は指輪の形で持ち運び、必要に応じてその形を変えているらしい。

まぁ。イノセンスの形状を適合者自身が自由に変形させるってケースは非常に稀・・・つーか、初めて俺は聞いたが。

元々装備型のイノセンスってのは、寄生型と違ってイノセンスと適合者との間に身体的な繋がりをもたない分、発動するのにも色んな条件をそろえなければならないものだ。というのも、イノセンスってはそれだけで強大な力を持っている物質だ。その物質の原石をそのまま扱い発動しようとすれば、いくら適合者といえど、たちまちイノセンスの力によってその肉体が破壊されてしまう。

だからイノセンスは回収後も適合者が見つかれば直ちに使えるってもんでもない(勿論それも状況により変わるが)。イノセンスは回収後、イノセンスとその適合者の能力や性質を分析した上で加工・武器化(勿論イノセンスの性質上、武器の形状をしていないものもある)した上で、初めて適合者がそれを発動する事が出来るのだ。
・・・まぁ。教団側が加工・武器化する前から、イノセンス自体が元々何らかの形状を取っている場合もあるのだが。

まぁ、イノセンス自体が形状を変化させる場合があるって言ったって、それでも適合者の意志でポンポンその形状を変化させられるなんて、相当イレギュラーな事だ。それに、そのイノセンスの力で対アクマ武器になる"魔法武器"っつー武器を出現させられるなんて、相当だ。

俺でさえこの不可思議なイノセンスについてあれこれ考えてんだ。化学班の奴なんかは相当だろう。
実際、にイノセンスを調べさせてくれって化学班の奴等が頼み込んでるのを何度か見た事があった。・・・最も。どうしてかはそれに首を縦には振らんかったが。でも、ま。穢れが溜まって壊れるようなもんだし、デリケートなだけ自身も神経質になってんのかもな。・・・まぁ実際は知らんが。


で。俺はそんなとイノセンスの真意が知りたい訳だ。

エクソシストとしてじゃなく、俺個人として。とーっても興味深々。で。さりげなく色々聞きだそうとしてんだけど、返ってくる答えは元々知ってる事とか、気色悪い事ばっかりで何とも・・・。でもなんとなく、自身が大事な事は隠してるような気がする。何の根拠もないが、・・・まぁ、勘さね。ウソツキの、勘。

本当の事を言っていないだけなのか、嘘を吐いているのかまでは知らん。でもすっげーウズウズする。すっげー知りたい。知らない事を知りたい。元々分からんことばっかりのイノセンスの中でも、更に極めてイレギュラーな力を持ったソウルジェムっつーイノセンス。

知りたい。もっと知りたい。
にたり。ともすればそんな笑みが浮かびあがってきそうなそれを、にこりというそれに変えて。その笑顔をそのままに向けて、くるっと踵を返してこの薄暗い路地裏を出るべく歩き出す。今度こそ目指すは今回の目的地、大聖堂だ。

「んーじゃま。他のAKUMA共が来る前に、とっとと向かいますか。その、迷宮って奴に。」

相手は女でその上子供。今はまだ多少警戒心はあるんだろうが、こういうのは大得意だ。この欲求を満たす為の、ようやく巡って来たとの任務。それも2人きり。それで何か知れるのか、それともなんも分からんまま終わるのか。どっちでも楽しいような気がするが、なんかしらの収穫は得てやろうとひっそりほくそ笑む。実際に何か面白い・・・つーか、妙な事やおかしな事を知ればジジイにも報告する訳だが。それはついでとして、今回の任務。俺は俺で楽しませてもらうさ。
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