クジラ雲食べた
賑わう街中の大通りを歩きながら、周りの喧騒に普段よりも少し大きい声でお互い色々話していたが、不意に「あ。そう言えば今日、新しいエクソシストが入って来たよ」と言ったに「え、マジで?」と若干驚いた(その後に続けられた「ユウくんに襲われてた」って言葉には顔が引き攣ったが)。元々少ないイノセンスの、たった1人だけの適合者。それを見つけるってのは相当大変な作業で、そんな中でエクソシストが入って来たって事は喜ばしくもそれ以上に珍しいと驚くべき事ですらある。だからこそ興味を惹かれて「どんな奴?」と問いかければ、は少し思案している風な顔を作る。

「・・・多分私より年上で、ラビくんよりは年下くらいのおにーさん。それでしら・・・ハクハツで、なんか呪われてるって。」
「今白髪って言おうとしただろ。つーか、その説明じゃよくわかんねーんだけど、」
「だって私も自己紹介しただけだもん。あぁ、名前はアレン・ウォーカーくんだって。クロス元帥の弟子って言ってた。」

何でもこの任務に出発しようって時に訪れて来たらしく、本当に挨拶しかしなかったらしい。それにタイミングちょっと悪かったなーなんて思いつつ「へー」と漏らす。でもその訪れて来た時の話を聞いてみれば、の出発前、その新しいエクソシストは"呪われてる"所為で門番の検査に引っ掛かってユウにブッ飛ばされそうになったとか、また面白い事になってたらしい。新人なのにかわいそーだなぁなんてぼんやり思っている俺の横で、はまるで関心の無い顔で続けた。

「イノセンスは・・・なんか左腕から魔力感じたから、多分寄生型かなあ?実際見てないから分からないけど。」

言われた言葉に、ぱちり。瞬いた。でも口だけで「へぇー・・・そりゃまた珍しいな」と、それでも一応思っている事を答えながら。その実俺は全く別の事を考えていた。(・・・魔力を感じた、ねぇ?)

         魔法少女。
事実なのか自称なのか冗談なのか。でも時々こうして魔力云々とか、あとのイノセンスであるソウルジェム。そしてそのソウルジェムから生み出してる    いや、曰く召喚しているらしい    "魔法"武器。そういう言葉の端々から、なんとなく冗談で言ってるんじゃないような気もする、とも思ってる。ただ本人の方に魔法少女って事にちょっとした恥じらいもあるらしく、じゃぁ何でそう名乗るんだと思った事は1度や2度じゃない。

特にの団服から戦闘服への着替える過程・・・曰く、変身、は。の中でもトップクラスに恥ずかしいものらしい。未だにその『変身シーン』とやらを目撃した奴はおらんが、それでもAKUMAとの戦闘になると、今のこの団服から瞬時に戦闘服に変わってる。その早着替えも吃驚な速度に、確かにあれは変身してる気がする・・・との声もある。
んで。そんなに恥ずかしいなら別に変身しなくてもいんじゃね?つーか実際変身する意味あんのか?結構前に聞いたのは俺だったが、意味が無かったらするわけないよ!って、すっげー真っ赤な涙目で羞恥に震えて言われてからは、もうからかうのも可哀想になってその話題に触れてすらおらんが。

・・・じゃぁ変身の意味ってなんさ。会話の中の片隅で思ったそれを何度も思ったそれを口に出す事は無く、いつものへらっとした笑顔を貼りつけた。俺より随分下にあるのつむじを見下ろして、しみじみと言った風に声を出した。

「したらついにも下っ端卒業だなー。そういや、あと2か月くらいで教団入って1年経つもんな。」
「うわ、よく覚えてるね。そう言うの女の子喜びそうだよねー。」

それは・・・嫌味なんか?それとも本気で言ってんの??ちょっと判断し辛いびみょーな笑顔で言われたもんだから、取り敢えず「んじゃ、も嬉しー?」と投げてみる。そうすれば「ううん、別に」なんてシレッと返されたもんだから・・・もしかしたら嫌味だったのかもしれん。いや、分からんが。思って、いやいやいや。こんな事ぐだぐだ思ってても仕方ないと思考を切り替える。

「んじゃ、記念すべき1周年目に直接お祝い・・・ってのは難しーだろうから、それ過ぎてから会った時に何かお祝いやるさ。」
「ほんと?それじゃぁ何とか1周年記念日までは生き延びないとね。」

ふらり。俺に顔を向けて口元に笑みを作って見せたに「お互いに、な。」と笑い返す。でも、あんまりにものこの『生き延びないと』って台詞に現実味が無く、妙なとっかかりを覚える。でもそれを言及した所でが応えるとも、俺の中で答えが見つかるとも思え無くて、とっととその思考は余所へ追いやって今度はちゃんとの喜びそうな事を言ってみる。

「んじゃま。取り敢えず、この任務終わって生きてたら前祝いにおにーさんがケーキ買ってやるさ!」
「!!!ほ、ほんとう?!」
「おう、マジマジ。可愛い後輩の為に奮発するさー。」

へらり。笑ってぽんぽんとの頭を撫でてやれば、静かに(ほんのささやかにではあるが)嬉しそうに顔を緩めるにまた笑った。・・・こーゆーとこは、フツーにフツーな女の子なんだけどな。思いながら、もう1つ女の子の喜びそうな事を言ってみる。「それとな、」

「今回行く大聖堂、すっげーステンドグラスが綺麗なんだって。」
「へー・・・」

・・・想像以上に・・・・・・、
いや。想像してたのと間逆の反応にガクリと首が落ちた。「・・・・・・・・・そこはもちっと楽しみー、とかそういう反応返してほしかったさ。」言えば、白々しくも「わー、楽しみだなー!」なんて、とてもとても演技とは思えない迫真の演技でもって返されてひくりと顔が引き攣った。「演技がかって無い演技で返されんのも複雑なんだけど」溜息と共に吐き出して、ケーキの話してた時と随分な差だなおいと、やっぱってちょっと変わってんなーと苦笑した。所で、

かつん。横で不意に立ち止まったに、俺もまた2歩遅れて立ち止まる。何かと思って「どした?」と振り返って首を傾げれば、はふらりと視線を余所へやってからふ、と息を吐いた。

「AKUMA。」

簡素に返された言葉に、「・・・どんなもん?」と聞きながら。ほんっとソウルジェムってのは便利だなと、の掌の上を見ながら言う。ついさっきまで指輪として指に嵌っていたそれが、本の刹那に卵型の宝石に変わり、仄かな紫色の光を発している。その光の加減が時々変わるのは知ってるが、それにどういう意味があんのかないのかも知らない。別段知る必要もないのかも知れんが、でも興味がある事は事実だ。

のイノセンスから今度はそれをジッと見下ろすの方へ視線を向けて「この感じだと・・・Lv1が3体とLv2って所かな」なんて、そんなとこまで分かんのかよと脱帽。でもたった今知った現状に「あちゃー。って事は感付かれたか」と、頭を掻かずにはいられない。

「取り敢えず近くにLv2が近付いて来てるから、そっちに向かう?」
「ま、そーだな。」

頷いて。くるっとくびすを返して歩き出したの後を、さっきまでとは違い今度は数歩後ろに着いて歩く。その背中を眺めながら、その迷いない歩みにほんとにAKUMAの場所分かってんだなとひっそり感心している事数分。「見つけた。」

「あの路地裏入ってった奴だね。」
「え、・・・あ、マジで?!」

ぼけっとしてる内にがAKUMAを発見したらしい。が指差した路地を警戒しながら覗き込めば、路地の奥へ奥へ進んでいく1人の男。それを眺めながら、さて、と。自身のイノセンスをなんとなく意識しながら「んで?どーする?」と視線をふらりとに向ければ、「取り敢えず捕まえよう」なんてあっさり返される。それに「捕まえるったって、」言いかけて、振り返った時にはもう既にの服装が初めて出会った時の・・・つまり戦闘服に変わっていた事に、分かっていた事とはいえぎょっとした。

そんな俺の傍らで、がちょん、と自身のスカートの両端を両手で持ち上げる。そうしたらそのスカートの中から明らかにその中の質量と合わない剣がするりと2本落ちて来た。それに更にギョッと目を瞠っている俺を尻目に、はその剣を掴むと(俺等に気付いたらしい)逃げ去るAKUMAの方へと投げ付けた。 「ぎゃっ」そして直後にはAKUMAの身体を貫通したその2本の剣が、向かいの家の壁に突き刺さり、そのAKUMAを壁へと縫いつけた。「・・・おみごと。」「ありがと。」
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