盲目メリーゴーランド
スペイン某所の栄えた街。その中央部に聳える大聖堂。

観光地としても有名なその大聖堂のある街は、美食の街としても有名で、大変栄えた街である。日々観光客が足を運ぶその大聖堂には、けれど一般人の入れない地下聖堂がある。そこには本来ある地下聖堂と違わず、礼拝堂がある他、納骨所として高位の聖職者等の棺や聖遺物を納められている。

その地下聖堂で怪奇は、ほんの1か月前から起こり始めた。

スペインの名の有る皇族の亡き骸を安置する為、その棺を地下に安置する為に地下聖堂に入った聖職者が、その後戻って来なかったのである。それを不審に思った聖職者と警備の人間数人で地下聖堂に戻った所、けれどその者達もまた戻ってくる事は無かった。

教会側は直ちに地下聖堂への立ち入りを禁止。また、こう言った怪奇現象に明るい・・・寧ろ専門家と言ってもいい。黒の教団に、地下聖堂へと入った者達の救助、そしてこの現象の解決を求めた為、比較的早い段階で教団側はその現象に知る事が出来たのだ。      そうして教団側は直ちに探索部隊の人間を派遣し、中の現象について調べに向かった。

そうして分かった事実。地下聖堂の中は、地下へ向かう為の階段。その階段を降り切った所からが非常に複雑な迷路になっており、その階段を降り切ってしまえば再び元の階段を上る事は不可能だと言う。階段を下りその迷路へ迷い込んだ探索部隊の者達と通信による交信は可能だが、彼等の力のみでその迷宮を攻略する事は不可能だと判断した探索部隊の人間は、直ちに教団本部へと連絡。エクソシストの派遣を要請した。


         地下聖堂の迷宮。それが今回の怪奇である。
「エクソシスト様。エクソシスト様、お起き下さい。間もなく到着いたします。」
「・・・・・・・・・はぁい、」

例の如く無料で一等客室の個室を貸し切っていた私は、コンコンという控え目なノックと、扉の外に待機していた探索部隊の人の声に、ベッドの中で身じろいだ。流石一等客室だけあって寝心地の良いベッドから起き上がるのは辛かったけど、ごしごしと目元を擦って直ぐに外に出た。

そうして汽車から出て駅構内を歩いていれば、見覚えのある明るい赤毛を視界にとらえた。そしてたった今彼を見つけた私と違って、もっと前から私に気付いていたんだろう。その赤毛をゆらゆらと揺らして、ぶんぶんと私に手を振る彼は、眼帯に覆われていない左目で笑顔を携えて私の方へ駆けて来た。

「久しぶりさね、!元気だったか?」
「うん。ラビくんも元気そうで何よりだね。」

向けられた笑顔に私もまた笑顔を返して、私達は2カ月ぶりの再会を果たした。






「そういや、との任務は初めてだな。」
「そうだねー。ユウくんとは何回か組んだけど、ラビくんは初めてだね。」

川に囲まれた丘の上に建てられたこの街は都市化に開発が進み、全体的に整備された綺麗な街並みを展開している。丘の上に建てられた街の、更に小高い場所に建てられた大聖堂。そしてそれに次ぐ高さを誇る時計塔が築かれた街は、成る程確かに観光地として有名と言うだけある美しさを誇っていた。

その街並みをラビくんの隣で歩きながら、それでも視線を彷徨わせてしまうのは大目に見て欲しいと思う(因みにさっきまで一緒にいた探索部隊の人は、ラビくんが大聖堂までの道を知っているからっていうので、先に本部に連絡をする為に別行動だ)。・・・だから、あんまり私の事を微笑ましいって顔で見下ろさないでほしい。興味が惹かれるからどうしてもきょろきょろしちゃうけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
そんな事を思いながら歩いていた私にそう言葉を落としたラビくんに視線を移して、私もまた彼に頷いた。

ラビくんとは案外教団では話す・・・っていうか、ラビくんの方から構ってくるんだけど。だけど任務で組む事は実は1年経った今回が初めてだった。とは言っても、元々人数の少ないエクソシストだ。1年経っても出会った事の無い人すらいる中で、教団内で結構な回数会えるって事自体が珍しいのかもしれないけど。
でも、と。思った所で、その私の思考にかぶせるようにラビくんが私に向けてにこーっと笑って見せた。

「でも今回は俺とがベストコンビだからな。よろしく頼むさ、あーいぼ!」
「ん、そうだね。ラビくん暗記凄いもんねー。私そう言うの特別得意な訳でもないし、お願いね、先輩。」

ベストコンビ・・・っていうか。私の能力は色んなところで重宝されるから、今回の任務にそれこそ適任、って採用されたのは寧ろラビくんだけだとも思う。1度見たものならほんの些細な・・・それこそ壁のひび割れの数どころかその形状まで記憶出来るラビくんの記憶力は、今回の任務にフルに生かされる能力だ。

今回の迷路がイノセンスの起こしてる怪奇である以上、1度通った道がそのままの状態で通った後も変わらず保たれてるかどうかは怪しい所だけど、それでももし仮に道が変化したとして。1度通った道が変化してるかどうかに気付けるってだけでも結構利になる筈だ。で、その何でも覚えられる人間コンピュータみたいなラビくんと、(まぁ多分おまけみたいなものだけど)魔力を探知してAKUMAの待ち伏せなんかにも対応できる私は、確かに今回の任務は適したコンビではあると思う。

本当はイノセンスの魔力も近付けば分かるんだけどね・・・こういう怪奇の起こってる場所だと、その場所全体に魔力が拡散しちゃってて実際どの辺りにその魔力の発生源であるイノセンスがあるのかよく分からないんだよね。まぁ、最近はイノセンスの魔力も感じ慣れて来たからある程度近付けば何処にあるか分かるようにもなって来たけど。こっちこそオマケみたいなものだけど、それこそどうなってるのか全く未知の空間に行くに当たっては有るに越した事は無いってところだろう。

そこまで思ってから、・・・にしても。と。隣を歩くラビくんを視線だけで覗き見る。1度見たものなら壁の罅割れですら覚えられるって言うんだから、ラビくんの頭って結構疲れそうだよなあ。とは、思う。まぁその記憶力もあればきっと便利なんだろうけど。そしてラビくん自身もその力を正しく上手に利用してるんだと思う。一見軽薄に見えて、その実ラビくん頭いい上に結構周到そうだしな。この能力が才能なのか努力なのか(たぶん両方だろうけど)、その技術は純粋に凄いと思う。

でも、と。だからこそ思うのだ。あんまり、下手な事が出来ない相手でもあるな、とも。どんな些細な事でも記憶されてしまうと言う事は、その瞬間には大したことは無いと切り捨てた事でも、後々になって大事な記憶だったって引っ張り出されてしまう可能性があるって言う事でもある。

まあ私もそんなにばれたくない事をばれるような事なんてそうそうやらないから大丈夫だとは思うけど・・・でも、それを心にひとつ留めておくだけでも引き締まる。だからこそそれをもう1度念頭に置いてから彼に視線を向けた私に、やっぱりラビくんはへらっと笑うのだ。

「ま。適度に頑張るさー。も魔力探知よろしくな。」
「うん、適度に頑張るね。」
<< Back Date::130209 Next >>