掛け時計の呼吸
コツ、コツ、コツ。ゆったりとエクソシスト総本部であるこの黒の教団の長い廊下をヒールで踏み鳴らしながら、門番くんの元へ歩く。さっき門番くんがアウトって叫んでたから、きっと此処に来た人はAKUMA認定されちゃったんだろう。だけど今頃きっとユウくんが今怖い顔で刀を突き付けてるだろうその人は、十中八九AKUMAじゃない。す、と。右の掌に乗せた、卵型の宝石。どうしてなのか、こういうものなのか、それとも私が特別なのか。此処(・・)生まれて(・・・・)からも、私の命として存在していたソウルジェム。
魔女・・・AKUMAに反応して輝くそれが反応しないって言う事はつまり、そう言う事。






私が外に着いた時、そこにはユウくんと・・・白髪?の、多分年上じゃないかと思われる、恐らくお客さんの少年が対峙ていた。その様子を      門番くんがアウトって言った為に閉ざされてしまったドアを開ける事は出来ないから、そこから1番近い窓から外に出て      門番くんの扉の上から見下ろしながら。・・・けれど。そのユウくんが「この六幻で切り裂いてやる」なんて凄い顔で彼の愛刀・・・対アクマ武器の六幻を手に、少年に突っ込んで言ったのを見て、「あ、」と。これはマズイな、と。

ひゅ、と。胸元の紫色のリボンの端を掴んで解いて抜き取る。そうしてその逆側を少年の方へ向ければ、数十センチ程だったそのリボンが即座に長く伸びて彼の身体を拘束して、それを占め過ぎないようにユウくんの刀の切っ先から逸らすように引っ張った。

?!うわっ


壁に張りついていた少年が突然消えたにも関わらず、六幻を壁に付き刺すなんて失態は当然犯さなかったユウくんが、す、と。扉の上から降りた私の事をギラリ。音でもしそうな程の眼光で睨み据えて「テメェ・・・!何のつもりだ!!?」なんて、これまた物凄い声で怒鳴って来たものだから肩を竦めてしまった。そんな私の直ぐ真横で、私のリボンに縛られたままの少年が私達を仲裁しようとしてくれてるのを視界にとらえたけど、でも今喋られると余計面倒臭そうだから、その前に私が応える事にした。

「だってお兄さん、この人アクマじゃないよ。」
「・・・なに?」
「そっ、そうです本当です!僕は敵じゃないですって!クロス師匠から紹介状が送られてる筈です!!」

言った私の言葉に眼を細めたユウくんに、少年は今だ!と言わんばかりに口早にそう捲し立てた。だけどそんな彼の口から出てきた名前に私は「あら?」と瞬いて、ユウくんは直ぐに刀を翳せる姿勢で「元帥から・・・?紹介状・・・?」と、さっきよりも落ち着いた声で呟いた。それを見てから少年に視線を移したら、彼の考えている事が直ぐに分かった。冷や汗を流しながら「そう、紹介状・・・」と告げる彼は、間違いなく(怖っぇ〜)とかって思ってるんだろう。顔が真っ青だ。・・・まぁ、確かに(顔)怖いもんな、ユウくん。美人な人って怒ると凄みも増すしね。思った直後、少年が続けた。

「コムイって人宛に。」

その、次に出された名前に、一瞬空気が固まった音が聞こえたような気がした。そうしてスピーカー越しに聞こえる『ボクの机調べて!』とか『コムイ室長・・・』とか『あった!ありましたぁ!!』っていう、漏れてくる声。そうしてその直後に、今度は確かに私達に向けられて発せられた『神田攻撃を止めろ!』っていう、酷く焦ったリーバーさんの声に、「ほらぁ」とユウくんに笑えば、彼はチッて盛大に舌打ちをしてからその刀の切っ先を少年の鼻先ギリギリに突き付けた。それに「わっ」とのけぞった少年の横で、私はあれぇ?と首を傾げた。

『待って待って神田くん。』
「コムイか・・・どういう事だ。」
『ごめんねー、早トチリ!その子クロス元帥の弟子だった。ほら謝ってリーバー班長。』
『俺の所為みたいな言い方ー!!』

まるでコントだなあ・・・ぼんやりスピーカーを見上げていれば、『ティムキャンピーが付いているのが何よりの証拠だよ。彼は僕らの仲間だ。』っていう言葉。それに再び白髪の彼に視線を移せば、確かにクロスさんの持っていたのと同じティムキャンピー。そのティムキャンピーと言えば、ふわりと私の方に跳んで頬ずりして来たものだから、私もまた「久しぶりだね」と小さく笑んだ(のを、白髪のお兄さんは不思議そうに見ていたけど)。


・・・っで。そう言われてもまだ納得いってなさそうな顔をしてるユウくんに「早く入らないと門閉められちゃうんじゃないかな」と笑ってやれば、また盛大に舌打ちをされた。だけどその後直ぐに刀を完全に収めたユウくんを確認して、私もまた少年を縛っていたリボンを解いて元の長さにすると、それを首裏に回して胸元で結んだ。

「はじめまして、お兄さん。私は。取り敢えず途中まで案内するよ。直ぐ誰か迎えに来るだろうし。」
「あ、はい。よろしく。僕はアレン・ウォーカーです。」

一応・・・まぁ礼儀としてこのくらい言っておいた方がいいかなって言った自己紹介に返された言葉と、そして差し出された右手に「うん」と答えて握手。そんな私達の横で、早足にくるっと踵を返した奥に歩き出したユウくんにぱちりと瞬いた。

「あれ?お兄さんもう行っちゃうの?」
「いつまでもこんなトコいても仕方ねェだろ。」

まぁ、そうだね。と、相変わらずの愛想の無さに肩を竦めた私の目の前で、白髪のお兄さん・・・アレンくんが「あー・・・えっと、カンダ。」なんて声をかけた。それにおぉ、チャレンジャーなんて心の中だけでそれを茶化している最中。アレンくんに背中を向けたままギラッ、鋭い眼光を返したユウくんに、更に右手と共に「・・・って、名前でしたよね・・・?よろしく。」差し出した言葉に、うん。まぁ、予想通り。

「呪われてる奴と握手なんかするかよ。」

吐き捨てて、今度こそその場を去ったユウくんに、アレンくんが右手を打ち震わせていた。でもそれ私には全く関係が無い事だし、私にはこの後任務もあるから「?なに震えてるの?早く行こうよ」って声をかけてとっとと歩きだす。そんな私の少し後ろを付いて来ながら、彼が私に不思議そうに声をかけた。

「あの、はどうして僕がAKUMAじゃないって分かったんですか?」
「えー?私は分かる事なら何でも分かるんだよ。」

言われた言葉に一々全部答えてあげるのも手間だからそう答えたんだけど、よく分からなかったらしい。「は?」と不思議そうに声を上げた彼は、再び何かを問いかけようとしたんだろう。口を開きかけた所で、「!」前方から早足にかけて来た女の人の声にそれを遮られた。それに「リナリーさん」と、この1年弱で知り合った彼女に返事を返した。そんな私ににこっと笑いかけた彼女は、次に後ろのアレンくんに視線を向けて微笑んだ。

「私は室長助手のリナリー。室長の所まで案内するわね。」
「よろしく。」
も一緒に来るでしょ?」

当り前みたいに言われた言葉に、けれど私は首を振る。「ううん、私これから任務だから」答えれば、「1人?」と首を傾げられた。それにそっか。リナリーさんは聞いてないんだと納得してから、形ばかりの笑みを作って見せる。

「ううん、ラビくんと一緒。現地集合だって。」
「そう・・・気を付けてね。行ってらっしゃい。」
「うん、ばいばい。」

優しく微笑んだ彼女に手を振って、そうして2人が向かう道とは別の通路に向かう。そうしてその去り際。私に「えっと、気を付けて」って、まだ任務とかについて何も分かっていないなりにエールを送ってくれた彼にもひらっと手を振った。「うん。じゃぁ、生きてたらまたね。アレンくん。」
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