色めく灰
ヒャヒャヒャヒャ!!殺してやった!殺したやったァァアヒャヒャヒャヒャ!!

洞窟内に響く不快な声。崖の底を覗きこむAKUMAは、ほんの数秒の内に崖の底へ落ち、そして自身が爆発させた探索部隊の人間と。そして血の弾丸を浴びて跡形もなく其処から消え去ったエクソシストに高笑いを響かせる。そうして数メートル先に転がるもう1人のエクソシストへ視線を向けると、その笑い声を響かせたままそこへ向かう。その、背後。

カツン。

「誰が誰を殺したのかしら。」
「ヒャ・・・ッ?!」

ヒールが地面を踏み鳴らす、その、音。それをAKUMAが認識した時には、既にそのAKUMAの身体は壁に叩きつけられていた。
ドガァッ!!瓦礫が飛び散り、岩壁に埋まるAKUMAの身体。そこから起きあがろうと身体を動かしたAKUMAより先に地面を蹴り、その腹部に槍の先端を突き刺した。ドッ!!「ギ、」

ギァァァアアァァアアアアア!!!!!

耳の奥にまで響くそのAKUMAの悲鳴を聞きながら、私はAKUMAの目前に立ってそれを見下ろす。突き刺した槍を引き抜いて、ぐるっと手元でそれを1回転させてからAKUMAの額にその先を向ける。

「イノセンスは何処にあるの。」

問い掛けて、けれどそれに答える様子を見せないAKUMAはグァ!と巨大な・・・私の身体程の大きさのある右手を私に向けて振りかざす。けれど、

「・・・、?・・・?!!」
「イノセンスは何処にあるの。」

AKUMAには、自分の掌が私の身体を通りぬけたようにすら、見えただろう。その違和感に訳が分からないと言った風に目を瞠るAKUMAに、再び問う。そんな私に、次はグァッと開けた口の中から血の弾丸を撃ち込んだ。それに、再び私は"力"を使う。カチッ

「ッ、な、なン・・・どうなっテ・・・?!」
「イノセンスは何処にあるの。」

きっと、このAKUMAには血の弾丸が私の身体を通りぬけたようにすら、見えただろう。この、能力。
左腕にある、丸型の盾。無限に物を収納できる、なんて言うのはただの補助効果。これの本来の、能力。

時間停止。

この円形の盾に内蔵された砂時計。この砂時計の砂を遮断して止める事で発動できる能力。
崖から登る際。血の弾丸を放たれたその瞬間に発動させてから足元に作った魔法陣の足場を元に上へ登り、その背後に回った所で時間を動かした。AKUMAに振り上げられた右手。それが私に触れる直前に時間を止めて、その手の軌道の外に立ってから時間を動かした。AKUMAの口から放たれた血の弾丸。それが私に触れるその直前に時間を止めて、その弾丸の軌道の外になってから時間を動かした。ただ、それだけ。

ただし、この魔法。時間停止は、使えばこの世界全ての時間を止める、世界に対して多大に影響力のある、数ある魔法の中でも極めて特殊で強力な魔法。だからこそ、この能力はそれ単体で使う分にはそれほどでもないけれど、この能力を使っている最中に他の魔法を併用すると、通常の倍以上の膨大な魔力を消費する事になる。だから極力時間停止を使う時には他の魔法と併用しないように、必要なら魔法武器を出現させた後や、先程の魔法陣の足場を出現させた後に使うとか、そう言う風に使うようにしている。

      最も。この能力は、私以外の時間全てを止めるもの。全てを、等しく、何もかも。だから、私以外のものには、私以外の時間が全て止まっているだなんて気付くよしもない。だから能力を使われた相手は、私が瞬間移動か何かでもしたように見えるのだろうけど。

そんな事を思いながら。けれど、未だに質問に答えを返す様子の見られないAKUMAの右腕を槍で切り落とす。それに悲鳴を上げたAKUMAの喉元に槍の先端を向け、再び、問う。「イノセンスは何処にあるの。」問えば、今度こそAKUMAは狼狽えたように1度身体をひく付かせてから口を開いた。

「ッ、ぐ・・・そ、ソこの、崖の・・下ニ・・・」
「そう。」

成る程。確かに相当深そうな崖だったから、人が降りるのは大変そう。でも、ただ崖を降りるだけなら私じゃなくても出来る人が多いだろうな。そう思っていれば、余所事を考えているのが分かったんだろう。その隙を逃さずに、目前のAKUMAが手を向けた。だけどこの程度の速度なら直ぐに時間停止出来るから、その手を視認してもボケッと突っ立っていたんだけど、

「へっ?!」

ぐいっ。突然襟首を後ろに引っ張られて身体が後ろに倒れると、その鼻先を横切るAKUMAの腕。と、
ドシュ!音と共に地面に落ちる、その腕。そして、後ろに引かれるままに尻餅を付いた私の前に立つ、後ろ姿。うそ・・・なんで?絶対死んじゃったって・・・っていうか、仮に生きてても動ける訳・・・あまりの出来事に瞠目して、その、背中に流れる髪止めの切れたさらさらと長い黒髪を唖然と見上げる。「ッ、・・ぐ、げほっ」と咳き込んだ彼は、間違いなく「、お、にいさ・・・」ユウくん、だった。

呟いた私に気付いたのかどうなのか。お兄さんは顔だけをぐるっと振り返らせると、ゼイゼイ荒い息を漏らしていたのに、なんか・・・もう冗談じゃない位怖い顔で私の事を見下ろしてくあ!っと、咬みつくように怒鳴る。

ボケッとしてねェでとっとと立て!ブッ殺すぞ!!
「!は、はいっ」

あまりに突然の事とユウくんの剣幕に裏返った声で返事を返して慌てて立ち上がる。
そうしてユウくんがお腹を爆発させられたなんて信じられないような動きでAKUMAの攻撃を刀で防いでいるその後ろで、前方から跳んできた血の弾丸を上空に飛ぶ事で躱して、そのまま手元に巨大な銃器を召喚した。「お兄さん!!」彼に声をかけ、僅かに私を振り返って私の持つこの巨大な銃器に目を見開いたのを確認してから砲口をAKUMAに合わる。


「ティロ・フィナーレ!!」
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