日ごとに薄らぐ陽射し
この世界に生まれ落ちた時。私は自分の幸運に感謝した。

魔法少女になる契約を交わして、戦って。そうしてあの日(・・・)、私が自害したあの瞬間。ナイフの切っ先をソウルジェムに振り下ろす刹那に、渇望した。あれで終われるなら、それが1番いい。だけどもし。もしもまた、次を強制されるなら、その時は、『普通』に、生きたい。輪廻とか、転生とか。そんなもの信じていなかったけど。それでももし、私に降りかかったこの不幸がまた繰り返されるなら、今度こそ、と。そう、願った。

本来ある筈のない、"前"の世界の記憶を持って生きていた私には、それを理解してくれる人なんて誰1人だっていなかった。誰も私を理解出来ないし、こんな話し、私だって誰にも話す事なんて出来なかった。"同じ年"の"子供"と心を通わせる事なんて出来ないして、"同年代"の"大人"とだなんて、もっと通じ合えない。

そうしてそれを切り捨てる為に(・・・・・・・)魔法少女として生きる事になった後でも、頼れる人も、弱音を吐ける人も、一緒にそれを競ってくれる仲間も、手を取り合って戦える友人もいなかった。たった独りで戦い続ける中で、私が魔女を倒す事で救われる人がいる、その事実だけが救いだった。その為だけに生きて、戦ってきた。私が魔女を倒す事、その事だけが、私が生きている意味がある。まだ、世界と繋がれているんだって言う実感を得られる事だった。      だけど。だけど、と。思わずにはいられなかった。

普通に笑いあって、友達と一緒に笑いう人達。
支え合う人達。

前世なんて知らず、ただ普通に子供として生きて、大人になって行く人達。魔女の存在なんて知らず、孤独な戦場に身を投じる事も無く普通に、普通に生きている人達。周りの、ただ普通に過ごす、私と同い年の、私と変わらない女の子。前の記憶を持って生まれた事は、私の望んだ事じゃなかったけど。それでも、自分自身で選びとった魔法少女として生きる人生でも。それでも、

普通の子供に、なりたかった。

前世なんて物の記憶なんて持たずに、ただ何も知らない子供になりたかった。子供になって、そうして大人になりたかった。友達と一緒に遊んで、勉強して、時には怒られて。平凡で何処にでもある日常を送る。戦いなんて何も知らない、平和に浸かった人生。その中で、普通に生きて、普通に成長して、普通に死にたい。何処にでもあるありふれた人生。それが、欲しい。


そう渇望して生まれた、この世界での、人生。

私はこの世界に生まれた幸運に、この限り有る幸福に、感謝した。相変わらず記憶は持ったままだったけど、無かった方が良かった記憶だったけど。だけど、それでも。前の人生よりはずっと、前向きに生きられた。前の世界に未練はあるけど、それでも、ようやく私は"生き方"だけでも、普通を得る事が出来たんだから。だって私は、今度こそ、"自分で選んだ死"の果てに、この世界に生まれる事が出来たから。         そう、思っていた。だけど、



繰り返すんだろうか、これを。永遠に。
他の魔法少女も、そうなんだろうか。死んで、そうして生まれ変わって、そうしてまた、魔法少女として・・・あるいは、それと同じような者として存在し続けなければいけないんだろうか。それともこれは本当にあり得ないような、私にだけ起こった、偶然?だけど、

その日(・・・)。穢れを孕んだソウルジェムを見下ろして。私は初めて、この世界に生まれ落ちた事に、絶望した。
ドドドドドドドドドドッッ!!
激しい破壊音と共に吐き出される無数の血の弾丸を、鞭状にしならせた槍の柄で弾きながら、どんどんさっきのあの広い空洞の場所へとAKUMAを誘導する。ギンギン、ギギ、ダァアアアン!!酷い轟音に洞窟を揺らして、いつかこの洞窟潰れるんじゃないかな、なんてちょっと洒落にならない事を想像して早めに片付けた方がよさそうかな、と再確認する。

おかしいな。さっきは私の腕、爆発させたのに。今回は全くしてこない。・・・って事は、やっぱり人を爆発させるには条件があるって事なんだろうけど・・・触られたらアウト、ってところかな?安易に断定はできないけど。でももう1回爆発させて来る気配が見えないって事は、1度触れた場所を爆発させる事が出来る回数は1度きり。あるいは、触れた個所を爆発させる事が出来る回数は、その触れた回数と同じだけ、って事かな。

なんにしても、もう触れられないようにするか・・・もしくはこの仮説を組み立てる為に適当に何処か爆発させた方がいいかもしれないな。私はまぁ"大丈夫"だけど、ユウくんとアルバさんじゃ死んじゃうもんな。思って、背後にさっきの通路を抜けた広い空間への出口を確認した所で、背後にいるAKUMAがニタリ。口元に嫌な笑みを浮かべたのに眉を寄せようとした瞬間、真横の・・・少し色の変わっていた岩壁の隙間から閃光が走ったのを確認した刹那、

ドガァアアアア!!

その岩壁が、爆発した。光を確認する事は出来たから、身体ごと木端微塵になる前に出口に跳びはしたけど・・・それでも爆風に身体が弾かれてさっきまでいた空間の地面に思い切り叩きつけられた。多分、あそこの岩壁だけ色が違ったのは、多分あの中に探索部隊の人か何かを埋め込んでたんだろう。流石、進化したAKUMAは知恵があってやり辛いな。思いながら「ッ、ぐ・・げほっ」咳き込んで、だけど直ぐに身体を起こそうとした瞬間、頭の上に影がかかった。そしてそれが私に手を伸ばすAKUMAのものだって気付いた時には(あーぁ)思うだけだったけど。その思った時、黒い影が横からAKUMAに切りかかった。

ぱち。瞬けば、「とっとと立て!このウスノロ!!」なんて酷い暴言と共に、さっきの黒い影・・・ユウくんがAKUMAに向けて刀を薙いだ。それにユウくんって本当に言葉にも態度にも遠慮が無いなあなんて思いながら、私は立ち上がると胸元のリボン帯を解いて、それを地面に向けて伸ばす。そうすればドッ!と音を立てて地面の奥深くまで突き刺さり、その数瞬後にはユウくんに切りつけられて倒れたAKUMAの足元に私の手元から地面を通し伸びた無数のリボンが突き出て来た。
それにギョッとしたのはユウくんも同じみたいで。今まさにAKUMAに切りかかろうとしていた所から後ろに飛び退いた。その間にはAKUMAの身体にリボンが絡み付き、それから逃れようと立ち上がろうとしたAKUMAの身体を地面に縫い付けていた。

それを見ていたユウくんが私・・・の、手元の地面に伸びるリボンと、それからAKUMAを縛るリボンを見比べて、「・・・・・・・・・お前の武器はホントに訳が分からねェな。」なんて零したけれど。それに「そう?」と答えながら、アルバさんに借りたマフラーに触れてみる。・・・結構ボロボロになっちゃったな・・・まぁ、私が戦う事知ってて貸してくれたんだろうから、別にアルバさんも気にはしないだろうけど。それでもなんとなく漏れたふぅ、って言う息にまた嘆息して、ツカツカとAKUMAの方へ歩いて刀を向けたユウくんの後ろ姿をぼんやり眺める。

「おいAKUMA。お前が持ち逃げしたイノセンスは何処にある?」
「ヒ、ヒヒッ・・・聞いタ所で取りになんて行けないヨ・・ヒヒヒ!」

ガッ!!AKUMAが笑った刹那、容赦なくAKUMAの眼球目掛けて刀を突き刺して「うるせェ」って吐き捨てられるユウくんに流石だなあなんて息を吐く。眼球を指されて悲鳴を上げるAKUMAの声を聞きながら、そう言えばアルバさんは何処に隠れてるんだうって辺りを見渡せば、そう遠くない岩かげからこっちを覗き見てるのが見えた。・・・まぁ、逆側の通路に隠れるのとこの空間に隠れるのとどっちがいいかって言ったら微妙な所だもんなと納得する。

多分、ユウくんが言ったんだろうな。この空間に隠れれば、当然ここでの戦闘になる訳だからそれに巻き込まれる可能性がある。その場合は奥の通路に隠れていた方が安全だけど、もしも此処で捉える事が出来ずに逃げられた場合、通路の方で鉢合わせる可能性は高い。だから何処に隠れるかは自分で選べ、みたいな。何にしても優先順位はイノセンスで会ってアルバさんじゃないよって事は伝えた上で此処にいる事を選んだんだろう。・・・けど。AKUMAと直接戦う力もないのに教団に所属して、死亡率の高い探索部隊に所属してるなんて、正直理由を聞いた後でも私には今一ぴんとは来ない。まぁ、私には関係ないんだけど。・・・思って、

思った、時。不意に、AKUMAが甲高い声で笑いだした。それに私もAKUMAの方に視線を向ければ、「何が可笑しい」って、信じられない位冷たく低い声を出すユウくんの前で、AKUMAは相変わらず笑い続けたまま、言う。

「ヒヒッ、ヒヒヒヒヒ!!知っタ所で、取りになんて行けないヨ!ヒヒヒ!」
「あァ?そりゃどういう・・」

パン!!
弾けるような、音。ぐらり、崩れ倒れるユウくんの身体。突然の・・・そう、瞬きの間に起こった事に、思考が一瞬だけ固まった。ユウくんの言葉の途中、ユウくんの横腹が、爆発した。その爆発は、身体全部が吹っ飛ぶような物じゃないけど。それでも、その横腹が・・・程度は視認できないけど、抉れる程のものだった。ど、どうして・・・?だってユウくん、あんな所、AKUMAに触られてないのに。「お前ラ、此処で皆、死ぬかラね!ヒヒヒヒヒヒ!!!」

考えて、だけど、直ぐに思考を切り替えた。さっきのユウくんの爆発の衝撃で、AKUMAを拘束していたリボンの一部が切れたのだ。それに合わせて無数のAKUMAの血の弾丸によってリボンを完全に焼き切ったAKUMAが私の方に向かって来たのに、咄嗟に槍を構えた。だけどさっき固まってたタイムラグがいけなかったんだろう。槍を構えるのが数瞬遅れて、咄嗟に巨大な手を振りかざしたAKUMAの手をそれで防ぐ事しか出来なかった。「ッ、く・・」

AKUMAの手に直接触れる事はなかったけど、でもその衝撃に身体が吹っ飛んで地面に叩きつけられる。「っ、げほっ」咳き込んで、流石に痛覚を遮断してはいても感じた衝撃に苦虫を噛み潰したような心地になる。それも、吹っ飛ばされた場所も少し悪い。もう数メートル後ろが崖で、しかもアルバさんも近くに隠れてる。

全く本当いやんなっちゃうな。心の中だけで毒付いて、目前で笑うAKUMAの前に立ち上がって槍を構えた。
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