いくつかの空白
「へー・・・此処がその洞窟なんだ。普通の穴にしか見えないけど、こんな所から水晶なんて取れるんだ。」

あれから10分くらい歩いて辿り着いて街の中央部の地下洞窟に繋がる入り口。そこで待機していた5人の探索部隊の人に挨拶をしてその入り口から中を覗き込んでいれば、探索部隊の人の内の1人に「はい、凄かったですよ。何処かしらには必ず眼に付く所に露出して」と言われて、また中を覗き込む。此処から覗きこんでも只の暗い洞窟にしか見えないけど・・・そんな事を思っていた私の後ろから、ザリ、と地面を鳴らしてユウくんが声をかけて来た。

「AKUMAは?」
「やっぱり洞窟に入ったみたいだよ。」

その問いに応えた私の言葉にユウくんが後ろの探索部隊の人に「入口は他にもあるのか?」と問いかければ、僅かな沈黙の後に「・・・はい。」と肯定の声。それに何かと思って振り返れば、「此処の他に後3つ。内1つからの無線が途絶えました」っていう言葉が帰ってきて瞬いた。それにユウくんの方は「ちっ、殺られたな」って漏らしてたけど、そのAKUMAをわざと逃がした私に対する文句はやっぱり言わなかった。・・・まぁ、私も謝らないんだけど。

「中にいるのは2体だけか?」
「うん、Lv2が2体ってとこだね。」

私が死ななきゃグリーフシードが1日で3つも手に入るなんて、ラッキーだな。Lv1のAKUMAは馬鹿みたいにいる癖に、そこから進化したAKUMAは探さないと見つからないから、本当に今回はラッキーだ。ソウルジェムで悪魔の位置を感知できるって言ったって、ある程度は近くにいないと分からないし。・・・いや。それともこれからはイノセンスのありそうな場所とかに優先的に派遣される訳だから、今までより進化したAKUMAに出会える可能性は高くなるのかな・・・?まぁ。これから教団が入手したグリーフシードを私が総取り出来るって言うんだから、どっちだっていいけど。

そう思っていた最中。「中の部隊と連絡が取れないのはイノセンスの所為か、AKUMAの所為かは分かりません」っていう、まだこの洞窟の中に取り残された人達が息てるかもしれないって事を暗に告げられたけど・・・どうだろうな。この洞窟も相当広いらしいけど、言ってしまえば密室みたいなものだもんな。仮に生きてるとしても、何人に来てるか・・・と。アルバさんがす、と声を仕事用?・・・なのかな。あのキリッとした表情と声色でもって告げる。

「中は私が案内いたします。外にいる探索部隊の中で、この中に入ったのは私だけなので。」

一割れた言葉に「・・・あぁ。」と納得する。つまり「イノセンスが奪われる前に外に出たんですか?」と、そう問いかければ「はい」と複雑そうな顔で返された。・・・別に、アルバさんが悪いわけじゃないんだから、そんな罪悪感、見たいな顔しなくってもいいと思うのに。それに比べたら本当私って、最悪だなあと。そんな自分に辟易しながら、けれどそれは顔には出さないで息を吐く。そうしてその、入ったらもう出られないかもしれないって言うAKUMAのいる洞窟へと一歩を踏み出す。

「お気を付けて。」此処に残る探索部隊の人達が深く頭を下げた。それに、一瞥もくれる事無く。



洞窟の中は一応電気が通っているみたいで、不自由しない程度には明るかった。それを見て、本当に頻繁に此処を利用してたんだなぁ、本当にイノセンス無くなって水晶取れなくなったらここの人達の暮しってどうなるんだろと一瞬だけ考えたけど・・・まぁ、生きてれば何とかするんだろうと納得をして、直ぐに思考を切り替える。

・・・中、結構入り組んでるって資料に書いてあったもんな。飛び道具よりは槍とか刀剣とかの方が安心できるかな。思って、だけど刀剣についてはあんまり自信がないから迷う事なく槍を右手に出現させた。

カツン、カツン、カツン。
技と音を立ててそれを洞窟の中に反響させながら歩く私にユウくんは何も言ってこなかったから、きっととっとと任務を終わらせたいんだろうなあとぼんやり思う。確かに私がいればAKUMAの位置は分かるけど、私が誰が敵かを判別できるならAKUMAの方から襲って来てくれるならそっちの方が良いに決まってる。それに、私はイノセンスの位置までは分からないからね。と、「・・・お兄さん、」言いかけて。その直後。

ゾァ・・・ッ
酷い、悪寒のような寒気が背筋を撫でた。そうして暫く遅れて聞こえた、音。この密閉された洞窟の中。何処かで音が生まれれば、それが大きければ大きい程遠くにまで反響する。その音が何か理解して、ギ、と奥歯を噛み締めた。アルバさんもそれい気付いたんだろう、顔を真っ青にさせている。・・・探索部隊の人、見つかったな。今から行っても間違いなく間に合わないだろう。思って、噛み締めていた奥歯の力を抜いて、音も無く息を吐いてユウくんに言葉を向ける。

「、お兄さん。」
「あぁ、分かってる。」

私の言葉を聞くよりも先にチャキ、と。刀に手をかけたお兄さんに、私もまた槍を1度くるっと回して持ち直す。遠く・・・探索部隊の人達が襲われた場所にも、AKUMAは行ったんだろう。だけど、それとは別にもう1体。この感じは、私が取り逃がした方じゃない。元々この中にいた方のAKUMAの感じ。      来る、

ドガァアアアアン!!巨大な破壊音に、この洞窟の壁を爆破させて現れたAKUMAに即座に左手に出現させたリボンでアルバさんのお腹のあたりを縛って一気に後ろに引く。それに「うわっ?!」と悲鳴を上げたそれには構う事無く、勢い余って壁に激突させちゃったアルバさんが邪魔にならないように鎖の障壁で彼を囲ってから、既にAKUMAの元へ斬撃を入れているユウくんに続く。

地面を蹴り上げて跳躍して、槍の柄の部分を伸ばして、持ち手の部分を残して数多に分割する。伸縮、湾曲、分割自在な多節棍にもなるそれをグイッと回して、鞭のようにしなる柄と、それを繋ぐ鎖の部分でAKUMAに打撃を与える。そうして更に分割した多節部分をAKUMAの身体に絡ませて縛り上げ、轟音と共に奥の壁にAKUMAを叩き付けた。それに槍を元の状態に戻して足を踏み込もうとした時。「六幻。災厄招来、」後ろから聞こえた声に振り返って、ギョッとした。

「界蟲"一幻"!!」

そう叫んだユウくんが六幻を振りかざすと、その軌道から大量の蟲が現れてAKUMA・・・っていうか、その前にいる私に向かって飛んできた。それを慌てて躱した所でそれが私の直ぐ真横を横切ったそれがAKUMAにドドドドドッ!と直撃して爆煙と壊れた岩壁の破片や砂埃を見送って、「ちょっとお兄さん!」とユウくんに文句を言ったけど、全然聞いちゃいない。それに小さく息を吐いてから、爆煙の中からヒュ、と現れたそれがユウくんに突撃した。

思っていたより素早いそのAKUMAはユウくんの横腹に一撃だけ打撃を入れて、だけど直ぐにユウくんに切りつけられてた。・・・うーん。なんか、弱いな。Lv1に比べればそりゃぁ格段に強いけど、・・・まぁ、ユウくんがそれだけ強いってことなのかな。思いながら、今度はそのAKUMAが私が作った鎖の障壁・・・アルバさんの元へ駆けた。それに僅かに眉を寄せて、でも私もアレを壊されてアルバさんが殺されるのも困るからそこに向かう。

鎖を何度も叩きつけて、血の弾丸を撃ち込んで。そんなAKUMAの元へ、後ろから回り込んで上に跳躍して槍の刃を下に柄を伸ばす。そうしてそれをAKUMAへ向けたまま、足元に魔法陣を作ってそれを足場に蹴り上げる。そうして一気に槍をそのAKUMAに落としてドガァアアア!!と、地面ごと叩き割ってAKUMAの身体を突き刺した。「ぐ・・ガ」と、声を上げるそれを見下ろして、止めを刺そうと槍をそいつから引き抜いて再び振り落とそうとした時。

ギュルッ、と。このAKUMAの腕が伸びてアルバさんの方へ向かった。障壁はさっきのAKUMAの攻撃で壊れていて、だけどアルバさんは「ひっ」と悲鳴を上げるだけで動ける様子がない。それに心の中だけで嘆息してその腕を切り落とせば、直後ガッ!っていう音を立ててユウくんがこのAKUMAの頭に六幻を突き刺した。アルバさんの方を見れば、咳き込んでるから何処かしらに腕がぶつかりはしたみたいけど、突き刺さったりとかはしなかったみたい。それに小さく息を吐いてAKUMAを見下ろせば、・・・そいつは何故か、笑っていた。

「ふ、・・ヒヒッ。でも、・・・やっテやったヨ。」
「なに、どういう・・」

その言葉に眉を寄せて問いかけていたさなか。けれどそのAKUMAは砂になって壊れた。・・・なにか、気持ち悪いな。そしてその気持ち悪さはユウくんも感じているみたいで、眉間に眉を寄せて、けれど何かを言う事はなかった。・・・取り敢えず、破壊はした。だけど、と、思う。進化したAKUMAなら、何かしらの固有の能力を持つ筈なのにあのAKUMAはそれらしい事を何もしかけてこなかった。だけどソウルジェムの反応から、これは間違いなくこの洞窟の中にいたLv2のAKUMAだって事は保障されてるし、なんだろう。

「・・・なんにもなきゃ、いいけど。」呟いた私の言葉は、再び無音になったこの洞窟の中で、嫌に響いた。
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