氷の中で読んだ絵本
あれから案内された個室に入って。椅子に座るなりバサッと資料を広げて(俺に関わってくんな)オーラを出してるユウくんの前の椅子に座って(流石に隣に座ると拳が出てきそうだから)、だけどユウくんの出してるオーラなんて私には全く関係がないから彼の方に視線をジッと向けて口を開いた。

「お兄さん、」
「・・・・・・・・・俺はテメェの兄になった覚えはねェ。」
「ユウくん、」
「刻まれてェのかテメェ。」
「そんなに変な呼び方してないのにユウくんは器が小さいお兄さんだね。」
あァ?!!
「それで、ねぇ。どうして怪奇現象の所調べたらイノセンスが出てくるの?」
・・・・・・・・・

物凄い嫌そうな顔された。ともすれば拳でも出てきそうな程の形相に、取り敢えずいつでも回避できるように心構えをしながら。だけど取り敢えず笑んで見せて「ほら。教えてくれないとお兄さんがコムイさんに怒られちゃうよ。」と続ければ、彼は相変わらずの顔のまま、そして相当な間を開けてから「・・・・・・・・・・・・・・・・・・チッ!」と舌打ちをして続けた。

「イノセンスってのはだな・・・」
「(うわ、凄いな・・・対象者を前にこんなに露骨に舌打ち出来るって。)」

大洪水(ノア)から現代までの間に様々な状態(・・)に変化している場合(ケース)が多いんだ。初めは地下海底に沈んでたんだろうが・・・その結晶(いし)の不思議な力が導くのか、人間に発見され色んな姿形になって存在している事がある。そしてそれは必ず奇怪現象を起こすんだよ。何故だかな。
と。視線は資料に向けたままそう説明するユウくんの顔を見ながら、ぱちり、瞬いた。

「"奇怪のある場所にイノセンスがある。"だから教団はそう言う場所を虱潰しに調べて可能性が高いと判断したら俺達を回すんだ。」
そこに在るだけで影響を及ぼす程のエネルギーがあり、"適合者"が持てば対アクマ武器にも成る・・・か。不思議な結晶(もの)ね。私のソウルジェムもイノセンスって言う扱いになってるけど、ソウルジェムにはその力を生み出すに足るだけの"根源"と"犠牲"がある。イノセンスにも元々はそう言う物があったのかもしれないけど、それを作るのに一体どれだけの犠牲を生んだのか、あるいはそんなもの無かったのかは分からないけど・・・なんにしても、

「本当に薄気味悪いね、イノセンスって。」
「・・・あぁ、そうだな。」






ガタガタ、と。あれから何回か汽車を乗り換えて、都会の雰囲気から徐々に寂れた木々に囲われた場所まで来た時だった。まだ10月前なのに息が白くなる程寒い地方まで来て、来る前にコートを渡された理由が分かった。フィンランドって、地方にもよるんだろうけどこんなに寒いんだ。なんて思っていた時。もう夜更けた時間帯だからか、それともこの田舎だからか。この頃にはもう乗客なんてほとんどいなくなっていて、汽車そのものも個室どころか一両しか無いような。そんな寂れた場所を走る汽車の走る音以外何も聞こえないその中で「、」と。顔を上げて窓の外を見上げた。そうすればそれに気付いたユウくんが「なんだ」と眉を寄せけど・・・、

「いや、・・・なんか、AKUMAが近付いて来てるみたいなの。」
「なに?」
「偶然近くにいるだけだと思ってたんだけど、違うみたい。どんどんこっちに近付いて来てる。」

言いながら、徐々に強い力を放ち始めたソウルジェムを右手に乗せてそれを見下ろした。・・・随分前からAKUMAのいる感じはしてた。だけどそれは目的地が近いから、その目的地に留まってるって言うAKUMAを感知してるんだと思ってた。だけどこの汽車がその場所に向かっているとはいえ、この速度で接近するのは、おかしい。間違いなく、こっちに向かって近付いて来てる、と。それを言った私に、ユウくんが僅かに目を細めて横に置いてある真っ黒い刀に手をかけた。
そうして。丁度汽車が崖と崖を繋ぐ長い橋を渡り始めた頃だった。「・・・あ、」と声を上げた私に「・・・なんだ、その不吉な感じの声は。」と顔を歪めたユウくんに返事をする間もなく、慌てて後ろの窓を上げて外に顔を出して、ギョッとした。

「、お兄さん!」
ドガァァアアアアン!!!

視界の端にAKUMAを視認した、と。そう思った直後の事だった。私がまさかと思って外を見た時、この先の場所・・・この汽車が渡っている橋が爆発した。それに運転士さんが慌ててブレーキをかけたのかギギと凄い音を立てて失速しようとしてるけど、到底止まれる速度じゃない。それに試しにこの橋がどのくらいの高さなのか見て、(あぁ、これは即死コースだなぁ)と。崖の底の全く見えない真っ暗闇にあーぁと思っている間に、グラっとこの汽車が前に傾いた。「げ、」言いながら。私は目の前にユウくんが運転席の窓をたたき壊しているのを見て、グ、とソウルジェムを握る手に力を入れた。あぁもう!



「ギャハハハハハハハ!!!」

酷い金切り声が、下に続く崖の奈落の底にまで響いた。「殺してやった!」と、「殺したやったヒヒヒヒヒッ」と、その酷い声を歓喜に歪ませて叫ぶそれは、AKUMAと呼ばれる生きた悪性兵器で。醜悪な姿を晒したそれは、つい数秒前に自身が打ちこんだ血の弾丸によって崩れ落ちた橋から落ちた汽車を見下ろしながら、その底の果てでそれが潰れる音が届くのを今か今かと待っている様子だった。

この橋を越えれば、直ぐにイノセンスがある町がある。このAKUMAはきっと、その街から出てこないAKUMAがでてくるまでに来るエクソシストや教団の人間を足止め・・・もとい、始末する為にいたんだろう。だからそのAKUMAも対エクソシスト用になんだろう、Lv2だ。・・・まぁ、

ヒュ・・・ッ
「ギャハハハハハハハハ、・・ハ?」

そのAKUMAが馬鹿みたいに無防備に笑っている最中。私の身長よりも長い槍の槍頭で、そのAKUMAの背後に跳躍して頭の先から真下に一閃した。それにAKUMA自身は何が起こったのか分からないように身じろぎしたけど、その直後にはそれは爆発して呆気なく破壊された。随分高く跳んだその場所から爆発に巻き込まれなかった橋の上に着地して槍を地面に突き刺すと、頭上から落ちてきたさっきのAKUMAのグリーフシードを右手で掴んで橋の下を見下ろした。「・・・ふぅ、」

「だいじょーぶー?!ゆーくーん!」
「テメェ次そのふざけた名前で呼びやがったら刻むぞ!!」

結構な大声で、この暗い崖の下・・・此処から視認するのが困難な程には下の方にいるユウくんに問いかければ、返ってきたその声に「・・・大丈夫みたいだね」と苦笑した。視界の端に、爆発して崩れた橋と橋の向こう側。その底面から崖の下に伸びる、1本のリボンがチラ付いていた。
<< Back Date::110501 Next >>