真っ暗闇でひとりごと
全ては約100年前。1つの石箱(キューブ)が発見されてから始まった。

後生(のちお)いの者達へ・・・
我々は闇に勝利し
そして滅びゆく者である
行く末に起こるであろう禍から
汝らを救済するため
今此処にメッセージを残す     .

そこに入っていたのは古代文明からのひとつの予言と、ある物質の使用方法だった。その石箱自体もそれ(・・)だったが、その物質は「神の結晶」と呼ばれる不思議な力を帯びたもの。僕達はそれを『イノセンス』と呼び、そして『対アクマ武器』とはそのイノセンスを加工し武器化した物の故障である。石箱の作り手はそのイノセンスをもって魔と共に訪れた『千年伯爵』と戦い打ち勝った者だと言う。

だが結局世界は1度滅んでしまった。

約7000年前、旧約聖書にしるされた『ノアの大洪水』がそれだ。石箱はそれを『暗黒の三日間』と記しているけれど。そしてその石箱の予言によると、世界は再び伯爵によって終末を迎えるらしい。『暗黒の三日間』の再来だ。そして現在予言通り伯爵はこの世界に再来した。ヴァチカンはこの事実により石箱のメッセージに従う事にした。それがイノセンスの復活と、黒の教団の設立。

         使途を集めよ!イノセンスはひとつにつきひとりの使途を選ぶ。それすなわち『適合者』!!
         『適合者』なくばイノセンスはその力を発動しない!!

イノセンスの適合者。それがつまりエクソシストの事だ。・・・だが伯爵もまた過去を忘れていなかった。神を殺す軍団を作りだしてきたんだ。それがAKUMA。あの兵器はイノセンスが白ならば、黒の存在である暗黒物質『ダークマター』で造られている。進化すればする程その物質は成長し、強化されていく。伯爵はイノセンスを破壊し、その復活を阻止するつもりだ。そしてそのイノセンスはのあの大洪水により世界中に飛散した。

その数は全部で109個。我々はまず各地に眠っているイノセンスを回収し、伯爵を倒せるだけの戦力を集めなければならない。伯爵もまたイノセンスを探し、破壊すべく動いている。イノセンスの争奪戦そうだ。

我々がこの聖戦に負けた時、週末の予言は現実となる。

「戦え」
「それがイノセンスに選ばれたお前の宿命・・・」
「宿命なのだ・・・・・・・・・」



イノセンス、対アクマ武器、そして僕達の敵についての説明を終え、大元帥の方々が姿を消した所でちゃんに向けて笑みを作って「ま、そんな所だ。以上で長い説明はおわり♪」と、右手を差し出した。さっきの説明を深刻に受け止めている様子はあまりなくて、寧ろぽかんとした様子で聞いていたちゃんは、だけどきっと敏い子だ。色々な事が分かってしまっただろう。それでも僕が明るく笑んで見せたのを見て、彼女もまた表情を緩やかなものにした。

「一緒に世界の為にがんばりましょう。一銭にもなんないけどね。」と。その僕の言葉ににこっと笑んだ彼女は、僕の手をやんわりと握ってから、けれど直ぐに話を切り替えた。

「それじゃー私、ジョニーさんの所言ってもいいですか?団服の事とかでお話しする約束してるんです。」
「うん、いいよ。研究室までの生き方は分かるかい?」
「たぶん大丈夫だと思います。何かあったらその辺の人に聞きますし。」

そう言って最後に「それじゃぁ、」と歩いていったちゃんの背中を見送りながら、・・・本当。あの子が入団をすると言った時もそうだったけど、あっさりしてるなぁなんて思いつつ。その姿が見えなくなった頃。僕は後ろにいるヘブラスカにくるっと顔を向けた。「彼女も違ったね。」

「あぁ・・・14年前、確かに感じた臨界者の現れた兆候。また、違ったようだ・・・」
「でも、まぁ彼女はまだ幼いしね。それに14年前じゃぁ、ちゃんも生まれてないんじゃないかな?」

そう言えば、ちゃんって何歳なんだろう。健康診断をした時に年齢とかのプロフィールも書ける分だけ      こんな世の中だから、なかなか全部のプロフィールを埋めるって事が出来ない人も沢山いるのだ      書いてと頼んだから、後で確認してみよう。

「でもシンクロ率81%か・・・装備型の割に高い数値だったね。彼女には期待できそうだ。」

それに元々1人でAKUMAを破壊して世界を回っていたってくらいだから、直ぐにでも任務についてもらえそうだ、と。思っていた所で、「あぁ・・・」と相槌を打ったヘブくんの声が妙に低かった事に気付いてん?と首を傾げた。そうして「どうしたんだい?」と問いながら、だけどふといつもある筈の事が無かった事に気付いた。

「そう言えば、どうして今日はちゃんに予言してあげなかったんだい?」

と、問いながら。だけど即座にザッと血の気を引かせた。・・・まかさ、よっぽど悪い予言だったから彼女に聞かせなかったんだろうか、と。それを思った所で、僕がそう思ったことが伝わったのか、「・・・違うんだ・・・」と答えたヘブくんにホッとした。でも直ぐにそれを否定したヘブくんの声調が可笑しかった事に、益々訳が分からなくなる。「一体どうしたって言うんだい?」問えば、ヘブくんは暫く言い淀むような様子を見せてから、けれどポツリ、ポツリと、言った。

「私は・・・彼女を、見ようとしたんだ・・・だが、何も分からなかったんだ・・・」
「・・・え、」
「私の能力が受け付けられなかった・・・何も、見えなかった・・・こんな事は、初めてだ・・・」

ヘブくんの能力で・・・分からなかった?そんな事って、あるのだろうか?ヘブくんの持つイノセンスは寄生型のイノセンス・・・先の話で述べた『石箱』だ。それはそれのになった役割から作用するからなのか、先に起こりうる事を予言をする事が出来るのだ。勿論それは100%当たると言う物ではないけど、それでも予言その者が出来なかった事なんて、今までになかった。

それは彼女自身に何かあるからなのか、あるいは彼女のイノセンスに何かあるからなのか、それは分からないけど。だけど、彼女のソウルジェムがイノセンスである事は間違いないみたいだし、グリーフシードによって消耗したイノセンスの力を補うって言うのも、まぁイノセンスなら無しじゃないだろうと僕は考えている。それでも、あの時はあえて聞かなかったけど、どうしてグリーフシードがイノセンスにそう作用するようになったのかの理由も聞いてない。・・・何か、あるのだろうか、彼女には。

そしてきっと、彼女は僕がこうして彼女に不信感を抱いている事すら知っていそうなのだ。なんだかそれは、「少し、悲しいかな」

あんなに幼い子供が背負わされている運命とは何なのか。あんなに幼い子供が隠している、隠さなければならない事実とは何なのか。そして、あんなに幼い子供を、それでも疑わなければならいない現実。それはなんて、かなしい事だろうか。
「ふー、危ない危ない。最初にラビくん何されるのか聞いておいて助かったなあ。」

コツ、コツ、コツ、と。ヒールを鳴らしてゆったりこの長い廊下を歩きながら、私は周りに誰の気配も無い事を確認してやっと息を吐いた。そうして本当に助かった、と。心の中だけで(ありがとう、ラビくん)と頭を下げながら、そうしてその息と一緒に吐き出したその言葉に、あのヘブラスカとか言うエクソシスト?らしい人?と会う前、ラビくんに言われた言葉を思い出す。


食堂で頼んだオムライスを食べ終わるだろう頃。エクソシストは人間かどうかの検査の他にも、必ずイノセンスの審査を受けるらしい。その際にイノセンスとそれによって造られる対アクマ武器とのシンクロ率の検査をしなきゃいけないんだ、と。そう言われた言葉に一瞬だけ固まってしまった。そうしてその言葉に「え?シンクロ率?」と問えば、またとんでも無い言葉が帰って来た。

「おー。シンクロ率ってのはつまり対アクマ武器発動の生命線になる数値なんさ。それが低きゃ発動が困難になる上に、適合者も危険になる。逆に適合率が高きゃ高い程イノセンスの力をより多く引き出せて強力な武器を作れるってわけさ。んで、そのシンクロ率が100%を越えた奴は元帥っつって、高位のエクソシストに任命される。」


・・・と。あの説明された言葉には「へぇー」と適当に、感心なさそうな風を演じながら。けれど内心はひたりと冷や汗を流していた。その説明を聞くに、適合率が高ければ高い程エクソシストとしての力の善し悪しが決まるって言う事なんだろう。だけど、それは私にとっては非常にマズイ事だった。

対アクマ武器とのシンクロ率というよりは、イノセンスとのシンクロ率なんだろうな。でも、それで言うなら私とイノセンスとのシンクロ率が低い筈がない。だからイノセンスの力を多く引き出せてるかと言えば、それはそうじゃないんだけど・・・だけどシンクロ率っていう数値だけで言えば、普通に考えれば100%の筈なんだよね。それは私とソウルジェムの関係(・・)を考えれば当然の数値なんだけど、只でさえグリーフシードがあるのに、それまでバレるのは上手くないだろうな。

そもそも私がこの教団に入ったのは、私の為であって、世界とかAKUMAとか伯爵とか別にどうだっていいんだよね。だからまかり間違って『元帥』なんてものになっちゃったら最悪だ。多分こんな小娘に凄い地位を当てたりなんてしないだろうけど、それでもそれだけ強いシンクロ率を持ってるってだけで目付けられそうだもの。私、此処で働くのはいいけど、この組織にも世界にも深入りするつもり、ないもの。・・・と。思って、私はさっきヘブラスカという人に見せた『疑似』イノセンスを取りだした。

「初めて作ったけど、上手く出来るものね。流石、魔法少女の力・・・ってところかな。」

パキン。親指と人差し指の腹で潰したそれは、呆気なく砕けて砂に消えた。あぁ、本当・・・幻惑系の力を持っていて助かったな、と。小さく笑んだ。そうしてポケットから取り出したリングを指にはめると、その強い輝きに目を細めた。
「一緒に世界の為にがんばりましょう。」
・・・悪いけど、それは無理かな。ある時までは、誰かを守る為にこの力を守るんだって、そう思っていたけれど。今ではもう私は私の為だけに戦って、そうして私の為だけに生きるって、もう決めた。それを変えるつもりはないし、そうでなきゃいけない。だから、



         だから。私はこの戦争に"終戦"されると困るのだ。それが教団の勝利であっても、敗北であっても。
<< Back Date::110427 Next >>