瞼の裏で横を向いてて
暫く教団の中を歩き回ってからようやく辿り着いた食堂の中。思っていたよりも広く、閑散とした冷たさすら感じられるそこに入ると、けれどそんな場所とは裏腹に活気にあふれた厨房に顔をのぞかせた。そうすればそこにいた屈強な体格のサングラスの人がぱっとこっちを見た。それに横でひそっとラビくんが「本部総合管理班料理長のジュリーってんだ。」と、因みにオカマなんさ、っていう余計な情報を告げ終えた所でその人が私の方へ妙に高いテンションで歩み寄って来た。

「アラん!?新入りさん?んまーこれはまた可愛い子が入ったわねー!」
「はぁ、どうも。」
「何食べる?何でも作っちゃうわよアタシ!!」

ほんとだ、一人称も喋り方もなんか変・・・思いつつ。結構大きい中華鍋を片腕で簡単に扱っているその人の腕にちらりと目を向けて、それから直ぐにその人の顔に顔を向け直して笑む。「じゃぁオムライスお願いします。」



そう告げたのは今から数分前。・・・そして今私の目の前には、確かにオムライスがある。あるには、ある。・・・けど、「お子様ランチ?」そう、膳に乗ったそれは見紛う事無くお子様ランチだった。可愛らしい大きさのオムライスに刺さったこれまた小さい英国の国旗。その隣に並んだハンバーグにポテトにサラダに海老フライにプリン。・・・いや、美味しそうだけど。確かに私の年齢じゃ頼めないから時々憧れたりもしたけども。

「おぉ!よかったなー。」
「へー、いいの作ってもらったな!」
「美味そうなのもらったなー。」

完全に小さい子供に対する体である。最初に掛けられた言葉はラビくんのものだけど、以降は私の座っている席を横切る間際に掛けられた、主に子供のいそうな感じのおじさん達のものである。・・・・・・・・・、

「ねぇ、お兄さん達の中で私って何歳くらいの設定になってるの?」
「あん?10歳・・・下くらいか?そんなもんじゃねぇんか?」

あんまりにあんまりな私の扱いに隣でビーフストロガノフを飲み込んだラビくんに尋ねれば、そんな台詞が帰ってきて瞠目した。10歳、下って・・・いや、別にいいんだけどさ。年下に見られる方がなんやかんや要所要所で扱い優しそうだし。日本人って海外の人に比べて童顔だからな・・・っていうか、私からすれば外国の人が大人っぽいって感じなんだけど。いや、でも、それにしても日本で言えば中学2年生の年で小学生に見えるとか・・・しかも10歳以下じゃ高学年にすらみられてないかもしれない。

前の人生の分とか年齢足したらラビくんより年上なんだけどな・・・まぁ、でも確かにラビくんより年上になった瞬間の記憶はない、けど。ひたり、影を落としそうになった思考をブツリと切った時にそれを振り払うように少し間を開けて「・・・、はぁ、そう。」と言った私に、ラビくんが「ちょ、なにそれ。すっげー気になんだけど。実際いくつなん?」と詰め寄って来たから、チラリと彼の事を覗き見てから言った。「13だよ。」

「ははっ、んーなまっさかぁ!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・え、マジで?」
「どんな反応より1番傷付く反応だったよ。」
「すまん。」

実際欠片も傷付いてはいないけど取り敢えず会話として行った言葉に、ラビくんは別に申し訳なさそうな風でもなく謝罪したラビくんに「そう言うラビくんはいくつなの?」と問えば、ぱちり、瞬かれた。そうしてから直ぐににこっと笑うと「俺?俺は17さー。ついでにユウも同い年だぜ」と答えてくれた。・・・そっか。同じくらいの歳だろうとは思ってたけど、やっぱり同い年なんだと思いつつ。「へー。」と返せば、「自分で聞いといてどうでもよさそうさね」なんて言われちゃったからにこっと笑っておいた。・・・と。

「あ。ねぇねぇ!もしかして君がちゃん!?」

突然現れた人に妙なハイテンションで詰め寄られて後ろにのけぞった。そうしてでも取り敢えずと「・・・そうですけど、」と答えれば、その人はやっぱりそのテンションのまま「やっぱり!」と声を上げた。・・・物凄いビン底眼鏡にヘッドホンをしたその人はジョニー・ギルと名乗ってから「身体のサイズ教えてくれるかな?団服はどんなのがいい?!」とテーブルに乗り上げて聞いてきた。・・・のに、隣のラビくんが「すっげー既視感」と呟いた。・・・あぁ。つまりこの人が団服を作る人なのかな、と納得してごくんと口の中の物を飲み込んだ。

「別にサイズとか着れさえすればどうでもいいですけど、見たまんまですし。」
「(あ、俺と同じ事言ってら。)」
「ちゃんと身体にあった団服の方が防御率が上がるんだよっ!」

防御率・・・その言葉に瞬いて、だけど私には必要ない物だなと思ったけど、ジョニーさんが「それにやっぱ動きやすいしさ、アクマとの戦闘でもきっと役に立つから」なんてキラキラした目で続けて来るもんだから、戸惑った。だけど取り敢えず「じゃぁ後で検査する時にでも一緒に測ってもらっておきます」と言っておいた。ら、話しが終わるかと思ったら、今度は「どんなデザインがいいかな?!」と来た。・・・団服なのにデザイン個人で違うの?と、隣のラビくんに聞いたら「俺とユウの服もちょっと違っただろ?」と言われてあぁ、そう言えばと納得。
・・・だけど、と。思い至る。団服・・・って、指定された奴じゃないといけないのかな。そうすると私、戦う時の服が・・・・・・、

「あの。団服って、いつも着てないといけないんですか?」
「いつもってか・・・団服のローズクロスがねェとエクソシストって証明になんねぇから不便だろ?」
「あぁ、そうなんですか。」

・・・・・・・・・、

「あの、じゃぁそのろーずくろす?っていうの、自前の服に付けてもらうとかって、大丈夫ですか?それでも使えるんですか?」
「は?自前の服?・・・なに、団服嫌なん?」
「や、そうじゃなくて・・・・・・戦闘装束?みたいな?もの?、に。」

何て言えばいいのか分からなくて言ったその言葉に、「いやそんな聞き返されても、」と戸惑ったように眉を寄せたラビくんにそんな事言われてもな、と私も眉を寄せる。だって、変身した時の服、なんて。いくらそれが事実とは言え、いい年して言うの恥ずかしいもの。正直、大技出す時の技名?みたいなのすら言うの憚られるのに・・・そんな事思いながら、だけど敢えてそれを口に出すことはせずに、ジョニーさんに「で、大丈夫ですか?」と確認を取れば、簡単に頷いてくれた。「うん、勿論大丈夫だよ!」

「それじゃあ後でその服持ってきてもらえるかな?大体俺、研究室にいるから!」
「研究室?」
「さっき行った部屋さ。」

「それじゃぁ団服もその服と似た感じのが良いかな?」
「いや、別に私は極端に変な服じゃなきゃ何でも・・・」
「やっぱり女の子だしリナリーみたいな服が良いかな?!でも神田くんみたいなロングコートもいいよね!」

他人の話聞きゃしないな、この人。っていうか、好い加減テーブルから降りないだろうか・・・思いながら。私はようやく綺麗な色形のオムライスにスプーンを刺した。口に入れたそれはまだ温かくて、それにホッとしながら、そう言えば、誰だろうりなりーって。あぁ、でもエクソシストなのは間違いなさそう。と今更それを考えた時、「あ、そーだ。」と、そうラビくんに名前を呼ばれた。

「なに?」
「イノセンスの審査もするんだろ?ヘブラスカに会っても吃驚すんなよー。」

その訳の分からない言葉に「は?」と瞬いたけど、それを応えてくれる気がなさそうな事に気付いたから、私もそれについて言及するのは止めておいた。・・・っていうか、へぶらすか、って、誰だろう?テーブルの上では、未だにジョニーさんが声を弾ませていた。それを横目に、そろそろ検査だか審査だか受けに行こうかな、と。ようやく食べ始めたそれを食べる速度を速めた。
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