スカートの裾がちらつく
予定していた汽車は完全に逃したが、丁度発車される汽車があったからそれに乗り込んだ。そして俺はその事を伝えるついでに・・・いや。そっちをついでにさっき出会った女の子の事を電話でコムイに伝えた。そしたら『え、?』なんて、予想してなかったリアクションが帰ってきて瞬いた。それに「知り合いなん?」と問えば、コムイは『あー・・・ちょっと待って』とか『どっかで聞いたことあるな、何処だったかなー?』なんて考えだした。が、直ぐに答えが出る見込みはなさそうだなとぼんやり思った所で、早々に思考する事を諦めたのか、コムイは話題を切り替えた。

『でも、まあいいや。取り敢えずそのまま連れて帰って来てくれて問題無いよ。その子がイノセンスを持ってるなら、なんにしたって1度教団に足を運んでもらわないといけないからね。ただ、くれぐれも慎重にね。あと、門番の所で身体検査受けさせてね。』

ま、当然さねと思いつつもそれに応えてから、「んじゃ。まー今日中にはそっち着くと思うから。」と言って『気を付けてねー』なんて暢気に言ってくれるコムイに適当に頷いて電話を切った。

そうしてからユウと女の子・・・のいる一等車両の客室に「ただいま〜」と笑って入ったら、ユウは当然の事ながら無視。でもの方は「おかえりなさい」と俺の顔を見てちゃんと挨拶してくれた。・・・でも、ユウとは多分向かい合って座ってんのに会話とか全然なかっただろうな、とか。ずっとユウに怖い顔され続けて不安だっただろうな、とか。まだ小さいに少し同情した。だから俺はニコニコと笑みを作ったままの隣に座ると、トランプでもすっかねと懐に手を伸ばした所で、ギラリとユウに睨まれた。何故。と。そのユウは俺に向けていたその目を容赦なくに移して口を開いた。

「・・・おいガキ。さっきグリーフシードを指輪になった変な卵に当てて何かしてただろ。アレはなんだ。」

ぱちぱち。瞬いて、「指輪?卵?」とユウとの顔を交互に見れば、が左の掌を上向きに胸の高さまで上げた。そうするとその中指に嵌っていた指輪が突然光ったかと思うと、次の瞬間にはそれが数センチ程の卵みたいな・・・宝石、か?に変化した。はそれを俺に見せるようにしてくれたから遠慮なく観察する。それは薄紫色の綺麗な光を発していて、俺が「これがお前のイノセンスなんか?」と問えば、「はぁ、まあ」と気の抜けた調子で返された。

「さっきそれにグリーフシードを当てたら、その卵から出た黒い靄みたいなもんが吸収されてるように見えた。説明しろ。」
「もや?」
「あぁ。それを吸われたら卵の光が増した。」

なんだそりゃ。何が起こったかって事は分かったけど、全然分からん。それを思って「そうなん?」と俺が問うたと同時に、はその卵型の宝石をさっきの指輪に戻すと「はぁ、まあ」と。またつれない返事を返してから「じゃぁ、また後で」と続けたは、それきり手も元の位置に戻してしまった。それに当然ユウは「あァ?今言えよ」と眼光を鋭くさせたが、の方は全然それに動じた様子を見せずに1度俺とユウの眼をチラリと一瞥してから言った。

「だってどうせ後で説明する事になるのに、今同じ事説明するの面倒臭いし。」

ビシリ。その言いように、この部屋の空気が凍った。あらゆる意味で。・・・ちょ、勘弁してくれ。
「ソウルジェム?」

問い返された言葉に「はあ。」と気の抜けた返事を返しながら、心の中ではあ〜ぁと盛大に顔を歪めている。
      汽車に揺られる事数時間。大枠で言えば何事も無く辿り着いたエクソシスト総本部『黒の教団』。大体5年前・・・私がまだまだ7歳だった時に聞いた話では、此処はヴァチカンによって世界の終焉を阻止する為に作られた対AKUMA用の軍事機関。そしてその時にAKUMAって言う物の事も聞いた。AKUMAっていうのは千年伯爵っていう奴が生み出す生きた悪性兵器。それは千年伯爵に絶対服従であり、罪に苦悩し、己の姿に絶望し、現実を憎悪して、人間を標的に殺りくを繰り返す物。

死者の魂をその人と絆の深かった人間によって冥界から呼び戻し、ダークマターから作られた物質でその魂を拘束する事によって生まれる。そして魂を呼び戻した人間はその場で自分自身の生み出してしまったAKUMAによって殺されて、AKUMAはその人間の皮を被って人に擬態する。そしてAKUMAは人を殺す事で進化して自我を持ち、知能を増す。
そしてAKUMAは殺戮を繰り返す程に快感を覚え、そのAKUMAのエネルギー源として使用される魂はその度に傷付け苦しめられる。その魂を救うにはAKUMAを破壊する他なく、そのAKUMAを破壊できる物質はこの世にイノセンスだけ。

黒の教団っていうのはそのイノセンスを所有、管理、回収してAKUMAと、そしてAKUMAの製造者である千年伯爵との戦争に勝利する為にある。

だけど厄介な事に、「神の結晶」と呼ばれる物質で構成されているイノセンスは、この世に109個しかない。当然それは伯爵側にとっては邪魔なものだから、実際にはいくつか破壊されていて109個にも満たない。その上イノセンスの全てを教団が有しているわけではなく、今でもイノセンスは世界中に散らばって眠っている。だけどそれを発見したらそれで解決って言うわけでもない。
イノセンスには1つに付き1人の『適合者』という物が必要になる。そしてその適合者は誰でもいいわけではなくて、イノセンスを使ってAKUMAを破壊する為には、この世にただ1人しかいない適合者を探し出さなければいけない。只でさえ少ないイノセンスは、例え発見されたとしても適合者がいなくちゃ只の石ころに過ぎない。


・・・正直、だから来たくなかったのよね。だけど私がAKUMAを壊した事はバレて、それはつまり私がイノセンスを持っていて、さらにそのイノセンスの適合者が私であると言う事がバレたって言う事だ。そしてAKUMAと戦える戦力である、イノセンスの適合者。『エクソシスト』と呼ばれる人間は、更に少なく、ごく数人しか存在しないって言う話だ

しかも適合者だってイノセンスを使った戦い方を覚えてそれなりの経験を積まなきゃ使えない。そこにパッと現れた、Lv2程度のAKUMAとの相手なら出来る適合者。そんなの絶対見逃してもらえるわけがないし、捕まったら最後、死ぬまで・・・あるいは戦争が終わるまでずっと教団の中でAKUMAを倒す兵器として使われ続けなきゃならないって事くらい馬鹿でも分かる。まぁ、それについては今でも似たような物だから文句は無いけど、『教団』って組織の中の一部に入らないといけないのが嫌なのよね。

だけどグリーフシードには替えられないって自分で決断してあの場で戦ったのは自分で、あの時こいつらから逃げないで着いてきたのも自分だと早々に諦めた。・・・それに仮にあの時逃げたって、顔がばれてるんだから教団・・・あるいはバチカンの力を総動員してでも私の事を見つけようとしてくる筈だ。正直そんな凶悪犯が脱走したから捕まえろ、的なノリの指名手配犯なんて冗談じゃないから着いて来たんだし。

そうして辿り着いた黒の教団は断崖絶壁に位置している場所で、私はそこを登った変な顔のある門(門番って呼ばれてた)によって身体検査を受けたうえでこの教団の中の一室で・・・室長、正式名称『黒の教団本部長代行監理官兼中央統合参謀司令室室長』って呼ばれる      適合者じゃないにも関わらず、この黒の教団って言う組織内でのそのその重要性はエクソシストにも匹敵する      地位を持ったコムイ・リーって男の人に、卵型の宝石・・・いや、イノセンスであるソウルジェムについて説明していた。


「このイノセンスは、これその物にはAKUMAを破壊する力はないです。だけどこのイノセンスの力で、私だけが扱えるAKUMAを破壊できる対アクマ武器を出す事が出来ます。また、これによってある程度の距離にいるAKUMAなら感知する事出来る。それが私のイノセンス、ソウルジェムの力。」

部屋の中にはコムイさんの他に、私を此処まで連れて来たお兄さん2人。目線は斜め下の床に淡々と話していた私に、その人達は私の言葉に一切口を挟む事無くそれを聞いていたけど・・・取り敢えず話す事は全部話し終わったとひっそりと一息吐くと、ソウルジェムを指輪の形に戻してから床の汚れに向けていた目線をコムイさんに向けた。「で?」

「私はこれからどうすればいいんですか?」
「そうだね。まずは君が本当に人間か検査をするよ。それから次はイノセンスのね。」
「え?つーかさ、。俺等が連れてきといてあれなんさけど、親とかいいんか?」
「は?」
「いや。勝手に連れてきたから誘拐ーとかってなってたらヤベェかと。」

・・・本当に今更だな、と。思った言葉は口には出さなかったけど呆れはした。まぁ、確かにあれって誘拐数歩手枚どころか、実際完全アウトだったけどね。刀持って脅して無理矢理此処連れて来たんだもんね。なんて事を頭の片隅で考えながら答えようとした所で、コムイさんが「あー・・・いや、大丈夫でしょ」なんてあっけらかんとそれに答えたものだから瞬いてしまった。そうしたらそれに対して長髪の・・・ラビくんにユウって呼ばれてた人が「何を根拠に言ってやがんだテメェは」と物凄い怪訝に眉を寄せた。と、そんな彼に向けてコムイさんの方はやっぱりさっきまでと同じ調子で応えた。

「だってちゃん、身寄りないんでしょ?」
「・・・私、お兄さんと知り合いでしたっけ?」

問われて、私の方が問い返してしまった。っていうか気持ち悪い。そう思って若干引いた顔をすれば「嫌だなあ、そんな顔しないでよ」なんてなんか・・・鬱陶しい笑みを向けられた。それに遠慮なく顔を歪めた私に彼は相変わらずその笑みを携えたまま、「いやね」と続けた。

「『』って名前聞いてずーっと気になってたんだよね。それで昔の資料とか手紙調べたら、クロス元帥からの手紙に書いてあったんだよ。それでさっきのイノセンスの説明を聞いて、本人だって確信した。」
「・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・おじさんの知り合いだったんですか?」

自然と顔が物凄く嫌そうなものになってしまったのを、だけどもう今更取り作りようも無いからそのまま盛大に溜息を吐きだした。・・・おじさん、クロス・マリアンさんは、私にAKUMAやイノセンスについて教えてくれたおじさんだった。あの人の説明で、私はようやくこの世界を"納得"する事が出来たから、その点については感謝してる。         でも、私は逃げたけど。

「4年前かな。クロス元帥から僕宛に手紙が届いたんだ。AKUMAの落とす物体の事が分かった、ってね。その時にそれがグリーフシードって言う名前だって事を知らされて、更にそれを有効に利用できるイノセンスの適合者がいるから、これからは破壊するんじゃ無くて、回収・管理しろってね。」

「その適合者の名前が、『』。君だ。」と。その言葉に、瞬いた。・・・教団がグリーフシードを集め出した事は、知っていた。それについては別にAKUMAに数の限りがあるわけじゃないからどうでもよかったけど、何の為だろう?って、そう思った事はあった。それがおじさんによるものだった事に、驚いた。っていうか、グリーフシードは私以外の人が持ってても全く意味のない物だって言ったのに、信じてなかったのかあの人、と。ぼんやり思ったことろで、耳を疑う言葉を、聞いた。

「なんでも『俺の育てが悪かったのか家出しやがった。まだ10にもなってねェガキだが、身寄りはねェ。もし教団に来る事があったら保護してグリーフシードを渡してやってくれ。グリーフシードに関する詳しい事はそいつに訊け。』ってね。」

その、続けられた言葉に、眼を見開いた。直ぐにそれは平静のそれに取り繕ったけど、どくり。鳴った心臓は、誤魔化せなかった。
・・・4年前って事は、私がおじさんの元からエスケープした時くらいだ。勝手にいなくなった私の事なんて放っておけばよかったのに、私の事を保護しろとか、・・・その上、グリーフシードを、私の為に・・・私に渡す為に、集めろって、言ってくれたのか、って。勿論それが嘘の可能性だってあるし、口八丁で私を無理矢理教団側に引き込もうっていう魂胆かもしれないけど、それでも。それでもグリーフシードがあるだけで、それは私の、糧になる。

それについて顔を歪めそうになった所で、直ぐに罪悪感なんて感じるな、と。自分自身に言い聞かせた。・・・ところで。コムイさんと目があった。けれどそれは偶然じゃなくて、意図的にである事が分かって1度気持ちを切り替える為に瞬いた私に、彼は言う。

「さて、ちゃん。まだ君に話してもらっていない事が1つだけあるんだけど・・・いいかな?」

そういえば、と。コムイさんの言葉を聞きながら考える。そう言えばこの人達って、完全に私の事舐めてるよなぁ、と。いや、舐めてるって言うかこれは多分・・・私の事、スッゴイ子供だと思ってそう。だから聞けば何でも話してくれるって思ってる感じ。・・・まぁ、

「どうしてグリーフシードを集めているのか、だよ。」

この人達が私の事を舐めててくれてるなら、私もやりやすくていいんだけどね。
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