まずは途方もない昼下がり
イノセンスの回収の任務を無事終えて、今日の汽車で帰ろうって時に突然大量のAKUMAの襲撃を受けた。それもこんな街中で100近い数の。しかも雑魚だけかと思ったらそん中に1匹Lv2なんて混ざってて、ほんと今回ユウと一緒で良かったぁとか思いながらAKUMAの群れを蹴散らしていた時、だけどふと気付いた。「ん、・・・あれ?」

「なんかAKUMAの数減ってね?」
「知らねェ。勘違いじゃねェのか?」
「違うって!ほんとになんか・・・俺等が壊した分差し引いても少なくなってるって。」
「・・・そういやさっきのLv2もいねェな。」

俺の言葉に周りを見渡して、ようやく納得したように言ったユウの言葉に、今度は俺の方があ、ほんとだ。と。さっきまで群れに紛れながら俺等を攻撃してきてたLv2の姿が見えない事に気付いた。それにどこ行ったんだ?ときょろきょろ周りを見渡しながら、巨大化させた槌を俺等に向かって来たAKUMA数体に向けて思いっ切し振りかざして叩きつけた。それにうっかりその先にあった建物も巻きこんじまったけど、まぁいっかと開き直った時。AKUMAを突き刺したユウが「・・、なんだ?」と怪訝な声を上げた。

「あん?どーしたんさ?」
「・・・あっちのAKUMAの群れが逸れた。」
「へ?あ、マジだ・・・」

見れば、確かに今まで真っ直ぐに俺等に向かって来ていたAKUMAの一部が、斜め後ろの方にそれて行っているのが見えた。しかもそっちに向けて弾丸を打ちこんでいるのもいる。それにどういう事だ、と。また数体AKUMAを薙ぎ倒した所で「おい、お前イノセンス落としたか?」なんて失礼極まり無い事言って来たユウに「んーな間抜けな事しねぇって!」と咬みつくように反論してしまった。ったく、ユウは俺をなんだと思ってるんさ!確かに教団に入ったのは1年くらい前だけど、いくらなんでも酷・・

ドォォオオオンッ!!!
びくっ!!?思考の最中、突然辺りに鳴り響いた巨大な轟音に肩を震わせた。それにその音のした方を振り返れば、さっき俺等の方から逸れたAKUMAが向かって行った方だった。と、ユウが間髪置かずその音のした方に走って行った。それに俺が「ちょっ」と声を上げた時にはもう後の祭り。・・・ほんとに行っちまった。此処にいるAKUMAの群れを全部俺に押し付けて。・・・、

「だぁあああもぉおおお!イノセンス第二開放"判"、(マルヒ)!!」






くっそー、ユウの奴。ほんと容赦ねェななんて毒付きながら。元々大分片付いていたAKUMAを一掃し終えてから直ぐにさっきの場所に向かった。そこは街中なだけあって俺達からは全く見えなかったけど、はっきりとAKUMAの攻撃を受けた痕があった。それを横目に見ながら歩いていた時。「動くな。」と。この先の角の奥から低いユウの声が聞こえて、僅かに足の動きを速めれば、俺に背を向ける形でユウが誰かに刀を向けているのが分かった。

「ちょ、なに女の子に刀向けてんさ?」

ユウが刀を向けていたのは、まだ10歳前後の女の子だった。まぁ女の子だろうがなんだろうが、AKUMAである可能性は0とは言えんし、襲撃を受けた直後だからそれはそれで責めたりせんけど・・・いくらなんでも露骨すぎんじゃねェかなって思っちまうのは、その女の子ってのがまだあどけない顔立ちをしていたからだろう。服装は学生服みたいだけど・・・と。注意は変わらずその子に向けながら、俺は視界に止まった地面に転がるグリーフシードの元に歩いた。

グリーフシードは、稀に破壊したAKUMAの中から落ちてくる黒い宝石のような物質だ。ただグリーフシードについては今だ何も解明されておらず、この名称が分かったのもつい4年前ってくらいだ。勿論ブックマンの持つ情報を持ってしても、それが存在するって事実こそあるものの、それがどういったものなのかって情報は1つも無い。
分かっている事と言えば、グリーフシードはLv2以上か、あるいは稀に進化直前のLv1のAKUMAが持っているって事くらいだ。

でもAKUMAから出てきた以上野放しにするわけにもいかず、数年前までは研究用に教団だいくつか保管しているだけで、それ以外にAKUMAが落としたグリーフシードは破壊する事に決まっていたらしいが、それが4年くらい前から厳重に回収・保管する事に変わったらしい。

そのグリーフシードを片膝をついて座ってひょいっと拾い上げて掌の中で転がして、だけど俺等、この辺りで戦ってねェぞと思い直してまたユウと女の子の方に視線を向けた。・・・これが落ちてるって事は、Lv2以上のAKUMAがいたって事で、それは間違いなく俺等が戦ってた筈のAKUMAだろう。ってことは、あの子が壊したんか?それならあの突然の轟音もあの子って事かね?・・・エクソシストじゃねぇだろうけど、まさか、あの子イノセンス持ってるん?思った、刹那。


カツン。


「それは私が倒したAKUMAのグリーフシードだから、私が貰うね。」
「え?あぁ、ういっす。」
じゃ、ねェだろうがこの馬鹿ウサギ!

ひょい、っと。俺が指でつまんでいたグリーフシードを浚って、あたかもそれが当然であるかのような声調と口振りに思わず頷いてしまったが、その直後聞こえたユウの罵声に瞬いた。瞬いて、気付く。・・・ちょ、え?・・・・・・、・・・?!!「ちょっ!!」

「お前いつの間に目の前に来たんさ?!!」

驚いて、バッと飛び退いてその子から3メートル距離取った。さっきのカツって音は、あの子のヒールの音だったんかと頭の隅で考えながらユウの方を仰ぎみれば、ユウもまた唖然と俺達・・・いや、この子事を凝視していた。その形相と、それに右手に握られたユウの愛刀、イノセンスの六幻の切っ先が真っ直ぐにこの子に向いている事から、目の前にいたユウもこの子の動きが見えなかったのだと理解して顔が引き攣った。時。チャキ、と。ユウの刀が鳴った。

「テメェ、エクソシストじゃねェな。何者だ。」
「魔法少女。」
ブッ殺されてェかテメェ?!!
「ま、まーまー落ち着けって。」

膝を立てて座っているこの子の後ろからこの子の首筋に刀の刃を向けて問うたユウにもさして動じることなく、あっけらかんとまた凄い事をのたまったこの子にユウがキレた。今にも斬りかかって行きそうなその様子に慌ててユウを止めたはいいけど、どうすっかな、この状況。「あー、えっと。」魔法少女ってのはまぁ、おいといて、だ。

「でもほんとお前誰さ?もしかしてイノセンス持ってんの?此処に住んでんのか?何で此処にいたんだ?」
「私はで、イノセンスは持ってて、此処には住んでない。此処にいるのはグリーフシードを集めてるから。」
「あァ?グリーフシードなんざ集めてどうするつもりだ。こんなもんAKUMAが落とすってだけの只の石じゃねェか。」
「えぇ?うーん・・・・・・そうだね。」
「お前今説明面倒臭くて適当に返事しただろ。」

ユウの言葉に説明しようとしたんだろう。思案してから口を1度開こうとして、だけど直ぐにそれを閉じると何かを考えた風に視線を上に上げてから数秒。その視線を俺等に移してにこりと笑んで肯定した、この子が明らかに省いたであろう言葉に突っ込んじまった。それにまたユウの米神がひくりと引き攣ったのを見て、だけど今度は俺が諌める間もなく溜息を吐きだしたユウは女の子に立つように言ってから舌打ちをして続けた。

「まぁいい。死にたくなけりゃ着いて来い。」
「へ?」
「イノセンスはどうあれ、敵か味方か分からねェ以上野放しにする訳にもいかねェからな。お前には教団まで同行してもらう。」

至極不服そうに「えぇー?」と顔を歪めた女の子の傍らで、ま、そーなるわなと俺も納得したから助け船は出さなかった。この物騒なご時世で、世界で1番物騒な職場で働いてるんだ。こういうちょっとでも危なそうな奴を野放しにしとくわけにはいかんし、そもそもイノセンスやグリーフシードなんて一般人が知っている筈のない物をこんなにあっさり享受してる事そのものが異常なんだ。関係者なら仲間に取り込まないといけないし、もしも敵側の人間なら始末せんと。・・・思って。
でもまぁ取り敢えず教団に行くまでの数時間は一緒に行動する訳だしな、と思ってにこりと友好的な笑みを張り付けた。

「ラビっす、ハジメマシテ。」
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