プリーズ・プレイ
「な、・・・なりません?」

けんもほろろ、取り付く島も無い。俺達に二の句も継がせず、がっしりと組んだ肩の力を抜いた一瞬を見逃さずに立ち上がりそのままぺこり。お行儀よく頭を下げて「おやすみなさい」と、とっとと部屋を後にしたに俺も含め誰もが言葉を失った。そうして俺と親父がを奴良組の三代目に据えると告げたその直後のその台詞を復唱した親父の横で、俺はぱちりと瞬いた。もう随分前から賢く礼儀正しく、可愛く可愛く育てて来た愛娘の放った言葉に一瞬固まるも直ぐに我に還った俺よりも、親父の方がショック受けてそうだな。・・・っていうか、まぁ俺の方は残念とは思いこそすれ、別にショックとかはねぇんだよな。

が生まれた時から決めていた。には、人としても、妖怪としても生きられるように育てると。だからぬらりひょんの技を遊び半分にでも教えてきたし、その反面人としての生活をさせて来た。・・・だが、「総大将」と。木魚くにかけられた声に振り返る。

「失礼ながら様は・・・本当に血の繋がりがおありか・・・?姿 形はもとより考え方もまるで人間ですなぁ・・・・・・」

言われた内容は予測していた通りのものだった。
だが、それでも「おい木魚。」

「次、それ言ったら許してやらねぇぜ。」

ゾワリ。自分でも大人げない位の怒気を出した自覚はあるが、それでもそれは許せない言葉だった。まぁ、直ぐにニッと笑って「当り前だろ。俺の可愛い可愛い愛娘だ」と返してしんとした空気を直ぐに取りつくろって元に戻す。・・・煮えくりかえってる事に変わりはねえが、仕方ねえ。そんな想いも込めて意識を切り替えた俺に、「カカカ」と笑い声を上げたのは、ガゴゼ会のガゴゼだった。

「しかし困ったもんですなあ。どうやら嬢は・・・まだまだ遊びたい盛りのお子様の様じゃな・・・」

その言葉に「アーン?」とガンを垂れた親父を「まぁまぁ」と諌める。おいおい、折角俺が泣く泣く戻した空気また悪くすんじゃねえよって思いも込めて落ち付けってと耳元でこそこそと言っていれば、「嬢には任侠より御飯事が似合いでしょう」なんて続けやがったガゴゼに「あ゛ァ゛?!!」と立ち上がる。「まぁまぁ」とかざけんじゃねぇぞ親父!!

思った俺を一通り宥め終えた後。だが無言でギロリとガゴゼを睨み続けていれば気圧されたように冷や汗を流しながら、それでも言葉を続けるガゴゼはそこそこには根性はあるようだ。

「総大将・・・我々にとって・・・辛いこのご時世、今一度・・・代紋に立てた誓いを確認すべきではありますまいか。」

それは本当に、意味を分かって言ってんのか?
思った言葉は口にはしなかった。だが、

「我々・・・妖怪は・・・"人間に畏れられる"ものとして存在せねばならんと言う事を        

お前は畏れってのが何なのか、本当に分かってんのかい?
は昔から賢い子供だった。

一部の妖怪や・・・人間からも、賢すぎて気味が悪いって言われる程には頭が良いし、手もかからない。赤ん坊の時から滅多に泣かねぇし、成長してからもおねだりも我が侭も問題も何も無く育つ様は、まるで大人が子供の皮を被ってるみたいだなんて言われる程で。それを、アイツ自身が気付いちまってる事が、余計に申し訳ないんだが。俺としてはどうして賢くって悪く言われるのかが分からねぇけどな。・・・いや、まぁ我が侭言ってもらいてぇなあとか、甘えてもらいてぇなあとは常日頃から思ってるんだが。

まぁそれは置いといて。は昔らから頭が良くて。だから・・・だから、家が、奴良家が妖怪任侠一家だって事を隠し通せなかった。本当は、人としても妖怪としても生きれるようにこっちの世界の事は知らせないで育てようと思ってたんだ。そうする事で、よりアイツの選べる選択肢が増えるだからだ。でも、ダメだった。

アイツは直ぐにこの家が普通じゃないって事にも、妖怪ってもんが人にとって異常だって事にも、そしてこの家がただの家じゃないって事にも小学校に上がるまでには全部気付いちまった。・・・いや。アイツが気付いてるって事に俺達が気付いたのがその頃だったってだけで、実際にはもっと前からアイツは全部知ってたのかもしれねぇが。それでも、アイツにとっての選択肢だけは奪わないように育ててきたつもりだ。初めから1本の道しか見せないんじゃなく、寧ろ何の道筋も見せないで育ててきた。

それでも今回の会議で無理矢理に推し進めたあの話し。それを無理強いするつもりなんて親父には悪いが端っからなかった。だが、あれをきっかけとして自身にもちゃんと考えてもらいたいって思いも込めての、アレだった。アイツにも、そろそろ第一歩を踏み出してほしいんだ。・・・それに、アイツにとっての転機を作ったのは、ついさっきだったが。だが、

「ほんとのきっかけは、お前が作ったんだぜ・・・。」

8年前。山吹の咲く、あの場所で。






「よぉ。確かに綺麗に咲いちゃぁいるが、こんな時間にこんな場所に居ると風邪ひくぜ。」
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