小鳥たちは鼻で笑う
「その戦いを勝ち抜いてシャーマンキングになるのは私だよ。」

はっきりと。今までのどんな言葉より重たい言葉に思えたそれを、今までのどんな表情より声より強く鋭く、なのにとても穏やかに言ったさんに、息をのんだ。多分、惹きつけられるって言うのは、こう言う事を言うんだ。だけどそれと同時にひたりと伝った冷や汗にも気付いていた。そうしてどういう反応を返そうかと悩んでいた、時。さんが口を開いた。「そういうわけで、」

「力になってよ、リクオくん!」
「ぇ、・・・・・・・・・ぇえええぇぇえええ?!!!

す、と。当然のように差し出されたさんの右手と言葉にに一瞬何を言われたのか理解出来なかった。だけど直ぐにその言葉の意味を理解すると、思わずそんな声を上げてしまった。だけどそれは僕だけじゃなくて、隣の雪女も同じような声を上げて、首無も驚いたように目を見開いてる。ただ爺ちゃんだけがまるでそれを分かってたみたいに苦笑してたけど、いやいやいや、いや!

「いやあ、私は別にぬらくんでもいいんだけどね。ぬらくんの方にその気が全くないみたいで・・・」
「ちょちょちょ!ちょっと待ってよ!力になってよって・・・そもそも僕幽霊じゃないし!」
「勿論妖怪だって大歓迎だよ。だから頼んでるの。」
「僕は人間だよ!!」

ぱちくり。大きい眼を瞬かせて、けれどさんは直ぐに笑った。何が彼女のツボにハマったのか、さんはくすくすと口元に手を添えて笑って「・・・ふふ、そうだね。確かに、今の君に言うのはルール違反だったかもね」と僕を見た。その目に何だか訳も分からず全部を見透かされてるみたいな、そんな不思議な感覚を覚える。まるで、透明な、眼で、・・・

「今日は取り敢えず帰るよ。シャーマンファイトはまだ先だしね。その間に考えが変わるかもしれないもの。」
「か、変わらないよ!!」
「それに、今日はリクオくんも忙しくなりそうだしね。」

さっきまでの吸いこまれそうな目が一瞬にして変わって、一転。1番最初の時と全く変わらない朗らかな笑みを浮かべたさんの言葉に慌ててそう返してから。だけどその次に言われた彼女の言葉に瞬いた。・・・忙しく?別に俺、今日はもう何も予定とかないけど・・・それを思って「え?」と首を傾げた俺に、さんはにこっと笑って立ち上がる。

「また来るよ。今度は、正しく君に頼みに来る。」
「いや、正しくって・・・意味が、」

分からなくて眉を寄せた俺を見下ろしたさんに立ち上がろうと腰を上げた俺に、彼女はそれを制してから眼を細めた。・・・その目、に。ドキリとした。その目はまるで、射抜くような、

「でも、覚えておいてね。リクオくん。」

酷く強い意志を感じざるを得ない、強い、瞳。まるで脳髄を討ち抜かれたような衝撃に、眼が、逸らせなくなる。
さっきとは全く違う意味、違う色をしたそれに、どうしてか、どうしてか。どうしてこんなにも、強い眼なのに。

「必ず君にも頼みに来るよ。だから、考えておいて。」

泣きだしそうに、なった。
それに戸惑いながら、だけど

「シャーマンキングになるのは、私なんだからね。」

そう、やんわりと断言した言葉に、心臓が止まるんじゃないかって思った。だけど当然そんな事はなくて、所か僕の心臓はどくりと一際大きい音を立てると、それきりどくどくと平静のそれより激しく脈打って静まらない。そんな俺の横を音も無く横切ると、さんはふわり。そんなやわらかさでもって歩んで、微笑んだ。

「じゃぁ、またね。」
「・・・殿、」
「うん、そうだね。女の子1人に6人なんていけないなあ。実に大人げない。」

そう言って笑って見せれば、幸村くんは困ったように「殿ぉ」なんて情けない声を出した物だから笑ってしまった。そうすればますます眉を下げて困ったような顔をするから、分かってるよと頷いて首にかけていた六文銭に指を触れさせた。ちゃり。服の下から聞こえたくぐもった音にふ、と口端を上げた直後、ようやく後ろから低い声がかかってきた。

「アンタ等三代目の知り合いだろ?」

声は後ろからする3人のものだけだけれど、あと3人は前と横に隠れてるのが分かって本当に大人げないなあと心の中だけで呟いて、だけど私の方も眉を下げて困ったように笑ってしまったけど。

「人質は1人でも多い方がいいからなあ!!」

突然そうまくし立てて襲ってきた集団・・・ホスト風の格好をした"妖怪"、旧鼠組の彼等の刃が迫るのをゆったりとした動作で見つめながら、六文銭を手に囁いた。「幸村くん。」

「O.S.」呟いて。私を庇うように背を向けて、2本の槍をもった幸村くんはもう既に、武人のそれだった。
<< Back Date::110917 Next >>