パステルに滲ませて
「たのむよ!!君等が顔出したら妖怪屋敷ってバレるじゃない!!」
「す、すいません。台所に居たので連絡網が回って来なくって・・・」

今日は清継くん達清十字怪奇探偵団の皆を家に招く事になって。皆には絶対に皆の前に・・・特に陰陽師だって言う花開院さんの前にだけは出ないでくれって頼んで回ったのに、皆が家について早々に(あり難いんだけど)お茶を持って来た毛倡妓には肝が冷えた。ホント・・・毛倡妓が妖怪だってバレなかったからよかったものの、本当・・・勘弁してよ。そんな思いも込めて言った俺に毛倡妓は顔を引き攣らせて「もう行きませんわ、そんな物騒な子。命拾いしたわ」なんて言ったけど・・・あぁもう先が思いやられる。頼むから無事に何事も無く全部済んでくれよぉ・・・

心の中で呟いて、僕はまた早々に部屋に戻る。後ろで「若、中学生になってからあんな悪い友人が出来てしまって・・・」とか「ほんと人間界って恐ろしいわ」とかって声も聞こえるけど・・・え?悪い友人?妖怪にとっては陰陽師が悪なのか?・・・・・・いや、まぁ確かにそうか。

(・・・・・・・・・あ。)
「・・・そういえば。この間はさん、どうしたんだろう。」と、ふと思い至った疑問を胸に呟いた。確かあの日はじーちゃんに?あれ?じーちゃんに会いに来たのか?いや、でも僕と会って直ぐにじーちゃんの部屋に行った位だから、きっとじーちゃんに用があったんだろうな。だけどもう夜も遅かったし、なんでか僕も途中から記憶が無いんだよなあ。

あの後、ちゃんと家まで帰れたのかな?いや。でもいくらじーちゃんでもあんな夜遅くに女の子1人で家に帰すなんてしないよな!そう思いなおして僕はようやく戻ってきた部屋の前で1度小さく息を吸い込むと、笑顔を作って襖を開けた。

「やぁ皆お待たせ。・・・・・・・・・アレ?」









「あぁ。そういえば今日はいっぱいお客さん来てるみたいだけど大丈夫?首無くんが慌てて出て行っちゃうくらい。」
「構わん構わん。皆リクオの客じゃ。一応挨拶くらいしとこうとは思っとるが、まぁ後でいいじゃろう。」

カッカ!と笑ったワシに「ふぅん・・・随分賑やかだねー」なんて返すは恐らくあっちに行ったりこっちに行ったりしているリクオの友人の気配を感じているのだろう、「本当に元気だなあ」と零して見せた。・・・まぁ、確かに元気と言えばそうだが、年相応といえばそうなんだろう。この家は広いからな。ちょっとした探検気分か何かなんじゃろう。
思ってから。だがその中にある恐らく陰陽師の小娘だろう気配に渋い顔をして不貞腐れたように膝に肘をついて頬杖をついた。

「ったく・・・たかが小娘1人に慄きよって・・・」
「あはは。皆怖がって隠れちゃってるものね。」

不快を示したのは小娘にではなく、こそこそとそこら中に隠れてるウチの連中にじゃ。それを思って「全く情けないのぅ」と零して見せれば、全く朗らかな笑みを浮かべて「可愛いものじゃない」なんて。アイツらより百倍も万倍も可愛い顔で言うに溜息を吐いちまった。・・・が。不意に漏らした「でも」と言う声にの顔をチラリと見れば、は何でも無い笑みを浮かべて首を傾げた。

「私の事は怖くないんだね。」
「そりゃ皆お前が何者か誰も知らんからの。でも聞いたら読経でも始めるんじゃねぇか?」

実際ワシの客人が来る話ならしたが、それがどんな奴かとかは一切話してねえしな。最初にが家に来た日なんて、完全に気配を殺してたコイツに気付けた奴なんてまずいなかっただろうし、そもそも陰陽師に慄いている真っ最中の連中の中にワシの客人が誰かを探りに来るような奴もいないしな。だが、がシャーマンだって言って紹介するのも・・・「それも面白そうじゃな」やってみるか。なんて。密やかな企みにもまた「ふふ」と笑うと、不意にあさっての方向・・・現在リクオの友達のいる方向の壁を見て囁いた。

「でもこんなに沢山いる妖怪に気付けないなんて、その陰陽師の子もまだまだ未熟だね。」
「可愛いもんじゃろ?」
「本当にね。でも、」
「あん?」
「気に入らないなあ。」

ごくり。口に含んだお茶を味わう事無くそのまま飲み込んじまった。最後の一口で冷めてたのが救いだが・・・いや、それよりもと思いなおす。なんじゃなんじゃ、何があった。珍しく怒っとるぞこいつ。それを思って内心ドキドキしながらの事を窺い見とれば、は・・・不快な様子なんて一切見せず、寧ろ愉快そうな声調でもって、言った。

「妖怪だからって問答無用でみんなやっつけちゃうっていう姿勢はよくないなあ。実によくない。」

言ってる言葉も声も顔も全部が全部不快さを感じさせないそれなのに、なのに雰囲気だけは恐ろしく不快気だった。そしてその不快さはコイツと仲のいいワシだから分かるそれであって、他のコイツを知らん誰かが見れば間違いなく気付かないようなそれだった事実に顔を引き攣らせた。・・・お、大人の反応と言えばそうだが、おっかなすぎるぞ。なんて。思ってるワシに間違いなく気付いている筈のは1度ワシを見て笑ってから「だけど陰陽師か」と、唐突に話題を切り替えた。

「花開院家・・・懐かしいなあ。」
「?なんじゃ、今の花開院に知り合いでもいるのか?」

怪訝に問うた言葉には答えこそしなかったが、にこーっという満面の笑みにいるのか・・・と直ぐに悟って苦笑した。
・・・まぁ。コイツが楽しそうで何よりだが、

「なら、会ってみるか?」

何気なく言ったワシの言葉に待ってましたとばかりに目をキラキラと無邪気に輝かせたに、あ。もしかして言うんじゃなかったか?なんて頭の片隅で思っても見たが、直ぐにその思考を吹っ飛ばして立ち上がるとの腕を引いて立たせてから襖の方へ向かった。向かう場所は勿論、可愛い孫の居る部屋だ。
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