ふさわしい庭園
≪おはようございます。あと1時間ほどで目的地へ到着致します。≫
≪到着後、直ぐに三次試験が開始いたしますので、皆様それまでにご準備をお願い致します。≫






「・・・・・・・・・ん、・・・おい、おきろ、・・・。」
「・・・・・・・・・」

意識の外で、声が聞こえた気がした。だけどその声はいつもの聞き慣れた声だったから、身体から力が抜けてまた意識が夢の中に潜ろうとする。そうしていたらぽかぽかと温かかった右手が、急にすっとその熱を失った。それにもぞもぞと動いて、冷たくなった右手を逆の手でつかんであっためる。それにちょっとだけほっとして、また意識を鎮めようとした、時。

「おい。おら、起きろ。起きろってんだ。おい。」
「・・・・・・・・・」

ゆさゆさ。声と一緒に方を揺すられる。それがなんとも・・・そう、何とも言えず心地いい。なんだろう・・・ハンモックで揺られてる感じ。それにいよいよあ、これもう意識なくなるなぁ、と。完全に眠りに落ちる、直前。

ぱぁん!!
「!?!?!?!!!?!!!」

乾いた音に、ガバッと枕元のスマホを握りしめて起き上がる。な、なん・・・え?!なに!??バクバクバク。盛大に鳴る心臓を抑えながら部屋の中を見渡して、だけど直ぐ横で呆れたような顔でベッドに座って私を見るリヴァイさんを見付けて、ようやくほっと息を吐き出した。だけどドキドキしたものはしたから、はくはくと動く口は音を中々発する事が出来なかった。

そんな私の様子に苦笑したリヴァイさんは、べちっと私の頭に手を置いてからゆるく髪の毛をなでつけた。

「!・・・?!、!!?」
「目ェ覚めたか?」
「さ、さめた!」

聞かれた言葉にやっと言葉を返してから、時々リヴァイさんのやる起こし方だと思い至れば、ようやくドキドキが収まってきた。び、びっくりした。落ち着く為に大きく息を吸ってから、はぁ〜っと思いっきり吐き出す。吐き出して、耳元で思いっきり手を叩くなんて、リヴァイさんにしては随分可愛い起こし方だけど、これ普通に怖いんだよなあ。ねぼけてると銃声みたいに感じる事あるし。

思って、隣のリヴァイさんをジッと見る。・・・朝、寝坊してる時に起こしてくれる、なんて。思えば、自然と自分でもわかるくらいにだらしない笑みが零れた。それを見咎めたリヴァイさんに頬を抓られちゃったけど。

「とっとと起きて顔洗え。着替えたら飯だ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・なんだ。」
「おかーさん」

さっき思ってしまった言葉を、今言われた言葉で思わず言ってしまった。
これからシャワーを浴びに行くのか、上を脱いだ状態でタオルを抱えて立ち上がった後、私の言葉に「あ?」って眉を顰めた。そんなリヴァイさんの横でぐぐぐっと伸びをしてにこっと笑みを作る。

「って、時々間違えて呼んじゃいそうになります。」
「よせ、せめてお父さんにしろ。」

盛大に顔を歪めたリヴァイさんに、思わずあははって笑う。お、お父さんって!リヴァイさんが、お父さん!!でも多分本当にお父さんになったらいいお父さんになるんだろうなあ。思いながら暫く笑ってたら、突然思いっきりデコピンされた。「いたい!!」
なんだかお母さんって言って笑ってる事についてって言うより、何か他の事を理由でされた感じの攻撃におでこを抑えて抗議する。

「えっ・・・え?!な、なんですか行き成り!」
よ。お前、家でなら兎も角、出先で爆睡キめるのはやめろ。」
「はい?」
「ここは飛行船だぞ、もう少し警戒心を持て。」

言われて、思わず「え、まだそれ言ってたんですか・・・」って呆れる。言えば「当然だ」って返されちゃったけど、それを理由い警戒しなさいって言われても無茶と言う奴だ。思ってぐぐぐっと眉間に眉を寄せれば、折角今さっき立ち上がったのにまたどすっと勢いよくベッドに座りなおした。それになんだろうと思ってる内に私の方に顔を寄せると、今度は頬じゃなくってぐにっと私の鼻をつまんで来た。

「それもハンター試験は危険な試験って話だろう。よく分からねェが。殺人鬼がうろちょろしてるような船だぞ、危ねぇだろうが。」
「はにゃひれくらひゃい〜!」

やだー!顔も洗ってないのに鼻なんて摘まれたくないー!思ってべしべし私の鼻をつまんでる方の腕を叩けば、リヴァイさんは「ちゃんと聞いてんのか?」なんて言いながら手を放して、多分赤くなってるだろう私の鼻を見て一度笑った。ひどい!思って、ぶすっと至極不満です!って顔を作ってみせれば、リヴァイさんは今度こそ耐えきれなかったのかクッと言葉を漏らした。クツクツ笑うリヴァイさんに、今度こそちゃんと拗ねるてそっぽを向く。

「だってリヴァイさん一緒だと気が緩んじゃうんですよ。絶対何があっても助けてくれるって安心感凄いですもん。」
「お前な、そもそもいい年の男女がひとつ屋根の下どころか、ひとつベッドの中だぞ。それこそ警戒しろ。」
「・・・・・・・・・ふはっ」
「笑ってんじゃねえよ、真面目な話だぞ。」

拗ねてますってしてたのに笑わせに来ないでほしい。この時々思い出したように言われる、俺に襲われたって知らないぞアピールが毎回面白くてしょうがない。そもそも私を襲うリヴァイさんって言うのが全く想像できない。そうぞうしようとして、また盛大に噴出した。あ、どうしよう。笑い過ぎてお腹痛くなってきた。だけどこの野郎みたいな顔をしだしたリヴァイさんに、そろそろちゃんと言い訳しないと不味いぞと、震える声で無理やり言葉を発する。

「いやぁ・・・あはは。分かってるんですけどね、リヴァイさんが真面目に私の事考えてくれてるって言うのは。だけど・・・ふ、ふふっ。いい年の男女・・・あはっ」

駄目だった。言っててこらえきれなかった。

「でもリヴァイさんはそもそも我慢できないって・・・ふくっ!な、なるとして、そうなるならそもそも一緒に私と寝ないですよね?」
「そりゃぁ、当然だろう。」
「それでも一緒にいてへ、変な気・・・ッ、ッッ!」
「おい、そこで笑うな。」
「ふっ、・・・す、すいませっ・・・あはは、変な気それでも起こしたなら、何か理由があるって事だろうから。」

あ、どうしようこれ本当に呆れてるぞ。笑い続ける私から顔を反らして時計を見て立ちあがったから、本当に放っておかれるやつだと察して、そろそろ落ち着こうとは〜〜〜っと盛大に震える息を吐き出した。目じりにたまった涙を拭って、そんな私に気付いて振り返ったリヴァイさんを見上げて、これだけは、て。その言葉だけ、伝える。

「でも多分、リヴァイさんなら大丈夫なんです。」

リヴァイさんは、大丈夫。それだけ分かってれば十分。だから大丈夫。
これが甘えだっていう事は理解してるけど、リヴァイさんも私の事だけはちゃんと信頼してくれてるって言うのが分かるから、お互い様だ。特に理由はないけど無条件に信じてる。だから何も起こらなくても、何か起こっても、何もされなくても、何かされても平気。

「俺はシャワーを浴びてくる。その間にお前は身支度整えておけ。20分後に食堂だ。」
「はぁい。」

はー、面白かった。朝から沢山笑ったから、夢も見ないくらいしっかり眠ってたのを無理やり起こされた割には、しっかり意識が起きてる。取り敢えず顔を洗おうとベッドから降りたところで、ふと思う。・・・・・・・・・そう言えば、この船いつ目的地に着くんだろう。20分後にご飯って言ってたけど、こんなにのんびりしてて大丈夫なのかな?

思ったけど、でもリヴァイさんがその時間って決めたんなら多分大丈夫だろうと思い直して、今度こそ洗面所に向かった。
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