苦いつもりのミルク珈琲
「此処はトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。此処が三次試験のスタート地点になります。」
「さて試験内容ですが、試験官の伝言です。」

「生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間。」


≪それではスタート!!頑張ってくださいね。≫






「・・・で?こりゃ一体どういう事だ?壁でも伝って下りりゃいいのか?」

ビーンズさんの説明の後。
塔の縁まで歩いて下を見下ろせば、ヒュオォ・・・と風鳴り。てっぺんって言われた此処の床は真っ平らで、覗き見たこのタワーの壁にも階段なんて親切なものはない。それを見て言われた言葉に「えぇ?」って首をかしげてから、「うーん」と考える。

「確かに私たちならそれ出来ますけど・・・何かあるんじゃないですか?」
「・・・」

試験を受けに来たの私達だけじゃないし、一応全員が下りれるチャンスがあるような方法が何かあるんじゃないかなあ。と思って言った言葉に、リヴァイさんは思案するように指を口元に当てると、唐突に"円"を広げた。ただ多分ヒソカくんとかだとそれ分かるからなのか、リヴァイさんを中心点としてってわけじゃなくて、足元から下にだけ広げてみせた。そうして数秒後、パッと円を解いて腕を組んだ。

「・・・下にいくつか部屋があるな。」

コツ。足で地面を叩いて言ったリヴァイさんに、ちょっと楽しい気持ちになった。聞けば、普通に生活するような広さの部屋じゃなくって、本当に狭い小部屋が乱立してるらしい。だけど部屋の数よりも受験生の数の方が多いから、一人に一部屋ずつが割り当てられるわけでもなさそうって事らしい。だけどこの真っ平らなてっぺんに降ろされたって事は、

「じゃあ隠し扉とかそう言うのがあるって事かな・・・なんだか脱出ゲームみたいでドキドキしますね!」
「?なんだそりゃ。」

トリックタワーって言うくらいだから、本当にリアル脱出ゲームなんじゃないかなあ。それを思えば自然とわくわくした気持ちになって、不思議そうな顔をしたリヴァイさんにそういう遊び感覚の施設がある事を説明すれば、「ほう」と感心したような声。

「そうと分かればさっそく扉さがし「うわああああああ」

意気揚々と言った言葉を遮るように響いた悲鳴に、それぞれ「うん?」「なんだ?」と音源・・・壁の下を覗き見る。見て、反射で飛び降りようとしたのを横から伸びた腕に制される。それにリヴァイさんを見れば、「無駄だ」と小さい声。その声の最中にも、さっきの悲鳴を上げた人・・・ロッククライムみたいに壁を伝い降りてたであろうその人の声は途切れた。それに一度グッと眉を寄せて、だけど直ぐにはぁと息を吐いた。

「ごめんなさい。」
「謝ることじゃねえだろう、普通だ。ただ今回は、遅かった。」

頷いて、さっきの人を食べ終えてバタバタと飛び去って行く不気味な怪鳥を見る。見て、二人して沈黙。こういう事も、もう一度や二度の経験じゃない。だから特別落ち込んだりって言う事はあんまりないんだけど、

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「わくわく感が死にました。」
「ハンター試験の立案者はクソ野郎だな。」

同意しかない。
リヴァイさんと2人して両手を合わせて顔を歪めた。歪めて、下を見下ろして、また顔をゆがめる。ゆがめた理由はさっきのの事もそうだけど、それ以上に記憶が理由だった。・・・よく、落とされたなあ。このくらいの高さから。その度にリヴァイさんには泣かされてきた。・・・あ、思い出したらまたムカムカしてきた。
・・・と。そんなタイミングで、「あ」と。視界に見慣れた二人組が入って来た。

「おはよークラピカくん、レオリオくん。昨日はよく眠れた?」
「あぁおはよう。そうだな、比較的休めた方だ。」
「俺は首とケツが痛ぇーよ。」
「あはは、あんな所で寝たらそりゃあ休まらないよ。此処のベッドふわふわで気持ちよかったのに勿体ないないね。」

笑って言えば、「え」「は」と同時にまのぬけた声。それに「なあに?」と首を傾げれば、「つかぬ事を聞くが、」と、少し顰めた声でクラピカくんが言う。何だろう。

「二人は昨日、一体どこで眠ったんだ?」
「?普通にお部屋のベッドで寝たよ。いっぱい余ってたから一等客室使わせてもらったんだ。」
「はあ?!部屋!??なんじゃそりゃ!!」
「え、お部屋って知らない?こう・・・扉があって、」
「そんな事知っとるわ!!」
「・・・?・・・・・・??」
「いや本気で何言ってるか分からないって顔やめんか!!」

レオリオくん、朝から元気だなあ。よくよく聞けば、朝リヴァイさんがシャワーを浴びに部屋を出たタイミングでレオリオくんと会ったらしい。その時は別に吃驚する事があって聞きそびれちゃったけど、考えてみれば私達だけあんな立派な部屋に寝泊まりしてるのはおかしい、らしい。おかしい?うーん・・・

「えっと・・・ここ、凄い豪華な飛行船でしょ?」
「?あぁ、そうだな。」
「貸切だよ?」
「うん。」
「食堂も風呂も使えるのに客室だけ使えねえなんて面白い事ある訳ないだろう、常識的に考えて。」
「「!!!!!!!!」」
「あ、ほらリヴァイさん言い方!ショック受けちゃったじゃないですか!」

私がわざわざ遠回しに言ってた事をはっきり言っちゃったリヴァイさんに、衝撃!って感じの顔をしたクラピカくんとレオリオくんに、そもそもこんな立派な飛行船なのに廊下で寝ようって発想が凄いなあと感心する。でも何故かそんな人達ばっかりだったからか、普通に乗務員の人にお部屋の鍵を頼んだら、何処でも好きなお部屋どうぞ〜って選んだ部屋の鍵を貸して貰えた。ので、遠慮なく一番いいお部屋を借りさせてもらった。

ベッドフカフカだったし、お部屋も広くて綺麗だったなあ。飛行船であんなにいいお部屋に泊まったのは初めてだったから、ちょっと楽しかった。それを思い出してにこにこしていた私に、クラピカくんが一度咳払いをして気を取り直したように言葉を発した。

「・・・と、所で。昨日は探検は出来たのか?」
「それはもうばっちり!ネテロさんが探検に付き合ってくれてね、操縦席とか絶対ダメでしょって所に座らせてもらったりしたんだよ!」
「なあお前のコミュ力どうなってんだ?なあ。」

クラピカくんの問いに両手でピースをすれば、二人から呆れた、みたいな顔をされて首をかしげる。そしたらそれにはクラピカくんの方が「いや、なんでもない。楽しかったようで何よりだ」って困ったみたいに笑った。
そんな二人にさっきの呆れ顔の理由を聞こうとしたら、その前にまたクラピカくんの方が首をかしげてまた問いかけてきた。「そういえば、」

は一体どうして不貞腐れていたんだ?先程顔を歪めていたようだが。」
「えぇ?んーっとね、リヴァイさんの不貞について、かなあ?」
「は?」
「酷いんだよ、リヴァイさん。訓練?っていうのか、鍛錬って言うのか・・・んー・・・」

何ていうのかなあ・・・そううんうん唸ってたら、「修行か?」なんて言われちゃって「えぇ?」と眉を下げる。「そんな格好いいものでもないんだけどね、」

「基礎体力付けるのにね、すっごい高い滝の流れてる所にね、突然蹴り落としたりすんだよ、リヴァイさん。」
「なぁ、基礎体力の意味分かってるか?」
「?分かってるよ?」
「・・・」
「それもね、人のお尻蹴っ飛ばして叩き落すんだよ?酷いよねえ。」

今思い出してもぐぐぐっと眉間に皺がよる。まだ2階の窓から飛び降りるのも怖かった時期にそんな事されたものだから、未だにこういう崖を見るとあの時の事を思い出す。これってもしかしてトラウマってやつじゃないかな!って思った事もあったけど、別に崖を見て身が竦むとかそういう事はないからそうでもないんだろうなあ。

そう言ってうーんって唸った私に、目の前のレオリオくんが正にドン引きって感じの顔をした。

「そりゃ・・・ひでーっつか・・・へたすりゃ死ぬだろーが。よくお前アイツと一緒にいるな。」
「ん?でもリヴァイさんが一緒にいなきゃそれこそ死んじゃってたと思うよ。」

言った私に「へ?」って変な声を出したレオリオくんに、私もまた「え?」と首をかしげる。そんな私達を見てたリヴァイさんが、「おら、無駄話してねえで行くぞ」ってとっとと歩いて行っちゃったから、「じゃぁまたね」と相変わらず変な顔をしてるレオリオくんクラピカくんに手を振ってリヴァイさんの後を追った。

そんな私をチラリと振り返ってから、うんざりって様子で溜息を吐き出したリヴァイさんは、その表情を直す事なく言う。

「お前、まだあの事根に持ってたのか。」
「?崖から突き落とされた事も、体術訓練だって突然刃物で切りかかって来た事も、家みたいな大きさの岩転がされた事も、全部根に持ってますよ?」
「・・・・・・・・・そうなのか?」
「そうですよ。」

頷けば、心外だとばかりの顔をするものだからこっちも心外だ。今ならされても大丈夫な事も、あの時は本当に毎日が毎日死んじゃうんじゃないかって事の連続で本当に辛かったんだから。・・・今となっては愛の鞭だって分かるけど、当時は本気で私の事殺そうとしてるんじゃないかって思ったりもしたもんなあ。だけど、・・・うん。

「でも、感謝もしてるんです。だからへそは曲げますけど、本気の抗議はしないので許してください。」
「へそも曲げるな。」

ぐに。頬をつままれて「やめへくらはい〜!」って叫べば、「自業自得だあほ」ってすげなく返されちゃってぶすくれる。だけど今度は私に目もくれずに目的の場所まで歩くと、「ここでいいか。」と立ち止まって床を蹴った。そんなリヴァイさんを見て、あははと笑う。

「まぁ、何処選んだって何があるか分からないから一緒ですしね。」

そう返した私にリヴァイさんは「そりゃそうだ」と肩を竦めてから「立体機動装置はどうする?」って聞いてくる。リヴァイさんは今現在がそうなように、基本装備としてお仕事がある時にはフル装備してるけど、私はそもそも私の能力でもないし必要な時にしか借りない。今回は別行動になるだろうからどうする?って事だけど、今回は立体機動装置を生かせる森の中ってわけでもないから「今回は大丈夫です」って笑った。そんな私に頷いたリヴァイさんは、自分が下りる隠し扉の前に立って、言う。

「何かあったら呼べ。また後でな。」
「はーい、また後で。」

がこん。
別れを告げれば未練もなくお互いに床の扉をくぐって下に降りる。そうして軽快な音を立てて降りた床の下。そこは小さい小部屋になっていて、私が下りたと同時に部屋の電気が付いた。くるっと回った回転床がスイッチになってるのかなあって部屋を見渡せば、その後でガチャって施錠音が聞こえる。しんと静かな部屋の中、早くも寂しくてリヴァイさんに電話したくなった。

だけど何にもないのに電話しても迷惑だろうしなあ、取り敢えず家探ししようと思う間もなく。この部屋にたった一つある扉にやたら大きく文字が書いてある事に気付く。

「?・・・二人三脚の、道?」

文字の書かれたプレートの前には、腕時計らしきものがふたつ。・・・・・・・・・うーん。
これは、別の誰かも入って来てくれないとゴールできないのかなあ。二人三脚って事は、あとひとりって事だよねえ。・・・リヴァイさぁん、なんでおんなじ部屋に入って来てくれなかったんですかぁ。心の中で文句を言った所でもう遅い。その事にはぁ、と溜息を吐いた、直後。

がこん。さっき私がここに下りたのと同じ音の直後。しゅた、と。格好良く片膝をついて上から降りてきたのは、割とよく記憶に残っている人。その事が少しだけ嬉しくて、部屋を見渡しながらも警戒するように私に意識を向けるその人に声をかける。

「こんにちは。」
「ん?おお、どーも。」

少し戸惑ったような声で、内心警戒心満々なのに、だけどそれは顔には出さないで挨拶を返してくれた事ににこっと笑んで右手を差し出す。

「よろしくね、ハンゾーくん。」
「・・・・・・・・・うん?」

不思議そうに首をかしげたのは、ぴかりん。輝く頭が特徴的なジャポン人、ハンゾーくんだった。
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