かつて連星だった痕跡
あーぁ。キルアくんはお風呂だし、クラピカくんもレオリオくんもお休みだし、ゴンくんもあれからあの場所で全然動いてないからきっと寝ちゃってるんだろうし、・・・一人で探検するのも楽しいけど、もっとこう・・・修学旅行のお布団の中みたいにさぁ、もっとさぁ、楽しくお喋りとかさぁ・・・広い飛行船の中を歩きながら、「んー・・・他に誰か仲良くしてくれそうな人いないかなあ」なんて呟いた。呟いて、

「ん?」
「ん?」

ちょうど角を曲がったその時。ぱちり。視線と視線がかち合って、次の瞬間にはぱぁっと自然と笑顔が出来上がった。









「わぁあおいしい!私、お茶とか詳しくないんですけど、このお茶凄く美味しいです!」
「ほっほ、そりゃよかったわい。ほれ、練り切りもあるからこっちも食べなさい。」
「わぁい!」

ネテロさんが今日寝泊りをするって言うお部屋に入れてもらってから暫く。最初は楽しくお喋りをしてただけだったんだけど、ふと思い出したように「そう言えば、二次試験会場に向かう前に茶請けをもらったんじゃが・・・食べるかの?」っていう言葉に二つ返事をしたのがそれから更に数分。きっととっても偉い人なのに、私にお茶を淹れてくれたネテロさんが差し出してくれたお茶菓子。

見た目もお上品に鮮やかで綺麗な、ふわりとやわらかい彩の和菓子。差し出されたそれを一口含めば、ふわりと広がる甘さに頬を抑えて身もだえした。自然とバタバタと暴れる両足を見て笑ったネテロさんは、だけどそれを咎めることなく、どころかすっと桜色の練り切りを差し出してくれた。・・・・・・・・・ひょいっ、ぱくっ。っ〜〜!!!ばたばたっ

「ほほっ。女の子は夜中はあまり菓子は食べんもんだと思っとったんじゃがの。いやはや、いい食べっぷりじゃわい。」
「もう、あんまり意地悪言わないで下さいよ。いいんです、食べた分ちゃんといっぱい動いてるから。」

わざと頬を膨らませて拗ねたように見せれば、楽しそうに笑って口だけの謝罪をぺろっと言うネテロさん。そんなネテロさんと冗談めかした会話を続けていれば、不意にネテロさんがす、と顎鬚を撫でながら口を開いた。「・・・お主、」

「もしや、念能力者じゃないかの?」
「けほっ」

折角の美味しい和菓子が味わう前に喉の変な方に入ってった。それにげほげほと咽返る私にネテロさんが差し出してくれたお茶を飲み込んで、ようやく落ち着いてきたころ。だけどバクバクとなる心臓に、盛大に咽たせいで涙目になったままネテロさんを仰ぎ見た。

「え、・・・えっ?!そ、そんなに分かりやすいですか?」
「ほっほ、分かりやすいどころか全く分からなんだ。なに、長く生きとるとこういう勘も成長するでの。」

言って、「そうじゃないかと思っただけじゃよ」って続けられたネテロさんの言葉に「えええ、なんかショックです」って返した通りに、ちょっとショックを受けた。いや・・・大分ショックだった。・・・誰にもばれない自信があるって胸を張れるほど自惚れてはないつもりだけど、それでもやっぱり、”こう”してからは今まで誰にも気付かれたことはなかったし、気付かれない努力も惜しんでこなかったから消沈はする。

「しかし、ワシでも目視するのは相当至難じゃの。それは隠の応用か?」
「応用って言うか、まぁ、はい・・・はぁ、」

「結構自信あったんだけどなあ」、思った言葉はそのまま声にも出ちゃったけど、それは気にせずそう言ってふっと隠を解けば、ネテロさんは驚いたって言わんばっかりの顔をして、だけど直ぐにさも愉快そうに笑った。

「隠で練のオーラを隠し、その上から敢えて一般人のようにオーラを垂れ流している風に発をしておるわけか。ほほっ、また面白い事を考えるお嬢さんじゃ。」
「えぇぇ?生きる知恵ですよ、知恵。物騒じゃないですか、世の中。」

ネテロさんに指摘された事はまさにその通りで、否定してもまた笑われちゃうだけだから素直に肯定した。
私は、私自身の才能をよく理解してる。私はリヴァイさんみたいに、戦うのに必要な才能っていうのを殆ど持ってない。それでも今私が人並みにこの世界で生きていけるのは、リヴァイさんに効率よく死ぬ気で鍛えてもらったからに他ならない事を知ってる。だけどだた1点、ほかの人よりも優れていたのが絶だった。一方絶については大分リヴァイさんは雑で、教わるのはちょっと大変だったけど・・・。

最も、念能力を使えない一般人に擬態するだけなら隠なんて使わずに、オーラを垂れ流しっぱなしにすればいいだけなんだけど・・・。それをせずにわざわざ隠と発を同時発動し続けるなんて非効率な事をしてるのは、自分の絶の能力を磨く為だ。怠ける事は簡単だけど、この世界で生き抜いて行きたいなら、技を磨け。リヴァイさんに何度も言われた言葉だった。私の場合はゲームで言う所のパラメーターをほぼ絶の方に振ってるような極端な鍛錬の仕方をしてるから、ますます他を突かれないような、突かれても対処できるような努力はするべきだ。って。

そういう理由で、常に隠と発を発動し続けたまま、だけど戦わないで済むように、戦いに巻き込まれても相手が油断するように、無防備な一般人を装う事にした。それが今のこのスタイルで、このスタイルを利用した制約を作る事で、それなりに使える念能力も完成した。

この制約があるから、他人様のプライバシーも何もあったようなものじゃない個人情報も、私のスマホアプリで覗き見放題というわけだ。もちろん、深い情報なら深い情報なだけ、制約もきつくなっていくわけだけど。
そんなことを考えながら、「でも、」と、にこり。目の前で相変わらずの笑みを浮かべるネテロさんに、笑む。

「人類最強って人に見辛いって言って貰えるなら、私の隠もまだまだ捨てたものじゃないですよね!」

そう言って、ぱくり。最後の一口を放り込んだ。何度食べても飽きが来ない柔らかな甘さに、落っことしちゃいそうなほっぺたを抑える。はぁ〜おいし。飲みこんじゃうのが勿体ないなあって思いながら、ごくん。そうして暖かな御茶で喉を潤してから、「所で、」と。折角念能力者って言う事を暴かれちゃったところで、遊びじゃなくってお仕事の方のお話も聞いてみようと言ってみた。

「おじいちゃんもハンター試験に合格した人なんですか?」
「ほほっ、また面白い事を聞くのう。勿論じゃとも。最も、ワシが試験を受けたのは1世紀は昔の話じゃがの。」
「あはは、やっぱりとんでもないですねえ。」

1世紀って、1世紀だよ?その時には既に試験を元気に動ける年齢で、今もこんなに元気なおじいちゃんなんだもんなあ。念能力で若さを保てるっていう話は有名だけど、ネテロさんはそれとは別次元な気もする。うーん・・・

「それじゃぁ、いっぱい生きてるおじいちゃんに、相談事とかしてもいいですか。」
「若い娘が老いぼれの話し相手をしてくれるというに、断るわけもなかろうて。なんでも話してみい。」
「わぁい、ありがとうございます。」

両手を合わせてにこにことお礼を言ってから、だけど心臓はどくりと嫌な鳴り方をし出した。聞きたくないなあ、でも聞きたいなあ。そんな気持ちで、「おじいちゃんは、」と続けた言葉は、やっぱり緊張に固くなっていた。

「おじいちゃんには、どうしても見付けられない探し物ってありますか?」

言葉にしてから、すぐに言わなきゃよかったなって後悔した。探しても見つからない、なんて、言いたくなかった。だけど一度言ってしまった言葉は取り消せないし、だから後悔は先には立ってくれない。
顔には出してないつもりだけど、ちょっとと言わず大分落ち込んだ私をネテロさんはジッと見て、言う。

「そんなものばかりじゃよ。」

きっと、私の真剣が、伝わった。さっきまで和やかに笑っていたネテロさんは、とても静かにそう言った。私の真剣に、きっと誠実で返してくれている。それが分かるから、だけどずっと聞きたくて、だけど誰にも言えなかった事を、聞く。

「そのなかに、諦めてしまったものって、どのくらいありますか。」
「数えるのも嫌になるほどの。じゃがひとつとして忘れたことはない。」

少なくとも一世紀は生きているネテロさん。そんなに長い間忘れられないもの、事。

「生きている限りは諦めんよ。どこにあるのかも分からない物ばかりじゃが、今でも在るものすべて、失われていると決まっていない物全て、諦めてはおらん。じゃが、ワシが生きていたとしても、失われてしもうたものは掴めん。失われることが分かっていて、諦めたものもある。」

それだけの時間がかかっても、そうやって情熱を燃やし続ける事が出来る。追いかけ続ける事が出来る。ネテロさんの言葉を聞いて、どうしようもなく。そう、どうしようもない程に、

「お主の探し物は、失われてしまうものかの?」
「・・・・・・・・・いいえ。」

安心した。

「ずっとあるって、信じてます。」

どんなに時間がかかっても、何処にあるかが分からなくても、それでも諦めずにい続ける事が出来る。それが出来る人がいる。その事実に、どうしようもなく安堵した。

私も、リヴァイさんも。もう何年もずっと、何処にあるのか、あるのかどうかも分からないそれを探し続けている。今はまだ、諦めてない。だけどいつか、諦めてしまう日が来るんじゃないかって、それが、怖い。今のこの現状を、仕方がない事だと受け入れてしまう日が来るんじゃないか、って。

「信じていればいつかは叶うなんて無責任な事は言わん。叶わない事ばかりじゃ。じゃが、それでも追い続けている内は必ずそこにある。追わなければ手に入れられん。」

ずっと燻っていた思いを、だけどこうして否定できる人がいる。その事に、いつの間にか力の入っていた肩からふっとそれを抜く事が出来た。そんな私の空気管に気付いたのか、ネテロさんもまた「ほっほ」と笑って見せた。

「足腰が立つ内は、必死に張り続けるとよい。お主には、きっと最高のパートナーもついておるようじゃしの。」

ばちり。お茶目にウインクをして見せたネテロさんに、ぱちぱち。二度瞬きをしてから言われた言葉を咀嚼すれば、自然と顔の緊張も解れて笑えた。

「はい、そうですね。」

きっと、最高のパートナー。これ以上ない程、勿体ないくらい、最高の。それがきっと私の人生における最上の幸福だっていう事を、分かってる。
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