翼だけでも重いだろうに
「残った44名の諸君にあらためて挨拶しとこうかの。わしが今回のハンター試験審査委員会代表責任者のネテロである。本来ならば最終試験で登場する予定であったが、一旦こうして現場に着てみると・・・」

二次試験の合格者だけが乗り込んだ飛行船の中。ぼんやり。各々楽に話を聞くように、って言われた言葉の通り。私はどうせこれ実力だけの試験だしと思って、なんとなくネテロさんの話しを聞きながらスマフォを弄ってたら、雷で撃たれたみたいな衝撃を覚えた。覚えて、ぐいぐいとリヴァイさんのマントを引っ張った。「り、り、り・・・」

「何ともいえぬ緊張感が伝わってきていいもんじゃ。折角だからこのまま同行させてもらう事にする。」
「リヴァイさん!お、お風呂!!お風呂がありますリヴァイさん!!」
「なん、だと・・・?」

ネテロさんの話もそっちのけで、私はグーグルアースに表示されたこの飛行船の見取り図の中にあったお風呂を指差しながらスマフォの画面をリヴァイさんに見せる。この感じだと多分簡易シャワーブースが設置してある、って事なんだろうけど・・・あのゴミゴミした場所を走ったのに暫くお風呂にも入れないんじゃないかなって、せめて水道で髪の毛洗おうと勝手考えてた私にとって、まるでお恵みみたいな発見に目を輝かせた。

は、はやくはいりたい!そんな事を考えてる私の横で、リヴァイさんもまた「でかした、何処だ」って、気持ち顔が溌剌としてる。そんなリヴァイさんの問いに飛行船の奥の方を指さして「あっちですあっち!」って答えれば、リヴァイさんは「よし、このクソつまらねぇ話が終わったら直ぐに向かうぞ。」って、試験の時よりも真剣な顔を作った。・・・所で、

「ほっほ。そこ、聞こえとるぞ。」

ネテロさんに笑われた。おかしいなぁ、結構小さい声で喋ってたんだけど・・・「地獄耳にも程があんだろ」言ったリヴァイさんに頷こうとして、だけどそれも聞こえてそうだからやめた。やめて、取り敢えず「ごめんなさい」って謝った。

謝って。それを見届けてから、だけど直ぐにキリッとした顔を作ってリヴァイさんを見る。見れば、リヴァイさんもまた真剣な面持ちで「だが風呂の前に1つ、やるべき事がある」って告げる。それに「はい、分かってます」と私もまた返してから、グ。拳を握った。

「次の目的地へは明日の朝8時到着予定です。こちらから連絡するまで各自自由に時間をお使いください。」

ネテロさんの秘書だって言うビーンズさんの声を背景に、私とリヴァイさんは一緒に拳を振った。「「じゃん、けんッ・・・」」
ぶすっ。
シャワールームの中。硝子張りのシャワーブースに背を乗せて座ってる私の後ろでバサバサ服を脱いでるリヴァイさんの足音がちょっと弾んでる事にひっそり気付きながら、でもその音にまたぶすっと顔を歪める。シャワーブースは1室1つ。1室にシャワーブースが幾つも隣接してあるってタイプのお風呂場じゃなくって、小部屋にシャワーブースが1つと化粧室、それと洗濯乾燥機が1台入ってるってタイプの部屋。だけど受験生の数の方がシャワールームの数よりも多かったからリヴァイさんと2人で1室使う事にしたんだけど・・・

「リヴァイさんはおじさん気無いです。普通ぴっちぴちの若い女の子がお風呂に入りたいって震えてたら喜んで1番風呂を譲ってあげるのが普通のおじさんです。」
「世間知らずのガキに世の世知辛さを教えてやってんだ、感謝しろ。」

ジャンケンに負けちゃった所為で1番風呂・・・っていうか、1番シャワーはリヴァイさんに取られちゃった。後ろからシャワーを存分に浴びるリヴァイさんに羨ましい、恨めしいって思いながら、でも1番は何であの時チョキを出さなかったんだろうって思いでいっぱいだ。
そんな事を考えながら、試験官の人達は皆で何話してるんだろう、とか。レオリオくんとクラピカくんは2人でこんなに何にもない所でなにしてるんだろう?とか。ゴンくんとキルアくんはネテロさんと何してるんだろう、とか。グーグルアースに映る飛行船内にいる人の動きを眺めていた時。不意にグーグルアースの隅っこに表示されてる数字に目を向けて、瞬いた。「・・・・・・あれ?」

「リヴァイさん、何か人減りました。」
「は?空の上だぞ、そうそう減ってたまるか。」
「でも2人減りましたよ。」
「・・・・・・・・・」

受験生の人と、試験官の人達、それから飛行船の操縦士さん達の数が表示されてたんだけど、本当に2人減ってる。おかしいなあ、数分前に見た時には確かにいたんだけど・・・何で突然こんな空の上で人が減っちゃうんだろう?そう思って首を傾げていれば、ぺた、ぺた・・・。ぽたぽた。後ろから静かにシャワーブースから出てきたリヴァイさんの足音と、床に落ちる水滴の音が聞こえて振り返る。振り返って、・・・・・・・・・

「・・・・・・?水浴びでもしてたんですか?なんか凄い青い顔してますけど。」
「そりゃぁ、まさか・・・お、落ちたんじゃねェのか、それ。」
「は?」

腰にタオル1枚巻だけ巻いて着替えもせずに呆けて立ってるリヴァイさんに一瞬何を言われてるのか分からなくて呆けちゃったけど、直ぐにさっき私が言った『2人減った』についての返答だって事に気付いて「えぇ?」ってちょっと笑った。

「それどういう状況ですか?」
「どういうも何もねえ。空の、上だぞ?落ちるだろう、普通は。」
「いや、飛行船の中ですよ?落ちないですよ、普通は。」
「馬鹿言え、こんな風船みたいなもんが空飛んでる時点で可笑しいんだ。やはり此処は危険だ。直ぐに降りるぞ。」

何言ってるんだろうこの人。思いながら。だけどいつまでもタオル1枚でいられるのもあれだしと思って、取り敢えずリヴァイさんの着替え    試験が数日かかる事は知ってたから、一応服はトップスを1枚、肌着は2着ずつ多く持って来てた    の中からパンツを1枚抜き出した。そうしてそれを渡そうと振り返って、・・・まだ全然身体を拭いてないのかぼたぼた髪から身体から水を落とすリヴァイさんに呆れる。「あの、自分が何言ってるか分かってます?」

「落ちたら危険なのに率先して落ちるってどれだけてんぱってるんですか。」
「馬鹿言え!俺は飛行船に乗る時はいつもこうだ!!」
「もー分かりましたから取り敢えずとっとと身体拭いちゃって下さいよ、面倒臭いなあもう。」

普段ビュンビュン立体機動で高い所移動してる癖に、本当何でリヴァイさんって飛行船にこんな過剰反応するんだろう。やれやれ。思いながら、「リヴァイさん。」溜息を一緒に声を出す。

「大丈夫です。飛行船は落ちても立体機動装置があればまず、死にません。」
「そういう問題じゃねェだろう。」
「大丈夫です、この飛行船は9割落ちません。」
「残りの1割は落ちるんじゃねェか。」
「嘘をつきました、9割以上は落ちません。」
「つまり落ちるんだろうが。」

う、うっとうしい。ものすごく、うっとうしい。
リヴァイさん、普段はこういう面倒臭いの、『鬱陶しい』って蹴っ飛ばすくらい大っ嫌いな癖に・・・・・・我慢、我慢・・・・・・

「大丈夫です。リヴァイさんには隠してましたけど、私、飛行船が落ちないようにする念を習得してるので。」
「なんだそりゃぁ、おい。お前適当な事言ってるだろう。」
「まぁ言ってますけど・・・取り敢えず面倒臭いので大人しく身体を拭いちゃってください。そしてとっとと寝て下さい。」
「おい。」
「大丈夫大丈夫。心配ならちゃんと一緒にお手手つないで眠ってあげますから。いい子ですから早く身体を拭いて、寝て下さい。」
「おい、ふざけんなよ。30過ぎのおっさんになんつーこと「もー!リヴァイさんうるさい!!」べっちん!!「ッ!?」

リヴァイさんのパンツを思いっ切りリヴァイさんの顔に投げた。で。取り敢えずシャワーブースの入り口の前に立たれてても邪魔だからぐいぐい肩を横から押してリヴァイさんを退かせると、そんな私に「おい何する」って不満げに振り返ったリヴァイさんのほっぺたに思いっきり手の平を押し当ててぐいぐい壁の方を向かせた。

「ッ、ぐ!おい・・・」
「私、早くお風呂に入ってさっぱりしたいんです。そのお話はまたいつか聞いてあげるので、取り敢えずスマホお願いしますね。」
「・・・・・・・・・防水性だろうが、これ。」

しずしずと私のスマフォを受け取りながら、だけど不服気に言われた言葉に「えぇ?一緒にシャワールーム入ってからそれ言います?」って笑った。そんな私に大人しく背中を向けてシャワーブースの硝子板に背中を預けて座ったリヴァイさんにまた笑ってから、バサバサ服を脱いで洗濯乾燥機の中に埃にまみれた服を放りこんでいく。
そうして先に入ってたリヴァイさんの服と一緒に洗濯機を回してから、気持ち弾んだ足取りでシャワーブースに入る。入って、

「お願いしますね。」
「分かってる、とっとと行って来い。これ預かってんのも緊張すんだよ。」

1回ドアを閉めてから、また直ぐに開けて私に背中を向けるリヴァイさんににこっと笑んだ。そうしたらリヴァイさんは当り前にこっちを振り返る事無く、右手をしっしって言わんばっかりに振った。そんなリヴァイさんのしかめっ面が目に見えるようで、それにまた笑う。

「でも私はリヴァイさんに預かってもらうのが1番安心します。」
「やめろ、無駄なプレッシャー与えんな。」
「リヴァイさんに私の命がかかってますからね!!」
「いいからとっとと入れ、振り返るぞ。」
「いってきまーす!」

勿論そんなきがリヴァイさんに無いって事は分かってるけど元気よく返事をして、からるんるんとドアを閉めてシャワーコックを捻った。さぁあ。湯気と一緒に温かいお湯が肌を優しく打って、その心地よさに堪らず溜息が漏れる。

「はぁ〜・・・きもちい〜・・・」
「おい、変な声出すな。いい年したおっさんが変な気起こしたらどうする。」
「・・・・・・・・・ふはっ!」

突然言われたリヴァイさんジョークがツボに入っちゃった。「あ、あははっ!はひっ・・」せっかく気持ちよくシャワー浴びてたのに、なんか笑い過ぎてお腹痛くなってきちゃってお腹を抱えて座り込んだ。「ふっ、ふっ・・ふはっあはははは」

「そ、そんな事、い、いったら・・・ふっ!わ、私、も、もう既に百回は変な気お、起こされてますっ、ふっね・・・ふはっ!」
「目の前のおっさんは百回以上は変な気起こして1人静かにムラムラしたかも知れねェぞ。」
「あはっ、ひっひっ!」
「今もお前の裸をチラチラ薄眼で覗き見てるかも知れねェぞ。」
「っ!ッ、ッッ〜〜!!!」
「とっととあったまって上がれ。」

涼しい平坦な声でシレッと言われるのがまた可笑しくって、はいって言おうとしたのに「ひゃい」って変な返事になっちゃった。ふっ、わ、私にムラムラするリヴァイさ・・・「ッ、・・く、あっははは!!」だ、だめだお腹苦しい。






「あ!そうだリヴァイさん!私がシャワー終わったら一緒に飛行船の中探検しませんか!」

もうきれいさっぱり身体を頭から足の先まで洗い終わった後。勿体ないくらいシャワーをざーざー流しっぱなしにしてあったまった身体をバスタオルで拭きながら、シャワーブースを出て服を着て言う。そうしたら声だけでも伝わってくるようなものすごーく嫌そうに「ふざけんな死ぬ」って返されて、振り返る。振り返れば衣擦れの音で私が服を着終わった事を察して私の方を振り返ったリヴァイさんの・・・ものすごく。ものすごーく嫌そうな顔が視界に入って、思わず失笑が漏れる。

「・・・・・・まだ言ってるんですか?」
「おい、その心底呆れたっつー顔をやめろ。微妙にほくそ笑むな、腹が立つ。」

やっぱり、人間って良い所があればその分悪い所とか変な所ってあるものだなあ。しみじみ。本当に、冗談じゃなくって本気で飛行船を怖がるリヴァイさんに1度溜息を零してから、それじゃぁ探検はどうしようかなあ・・・って、天井を仰いだ。
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