有るか無きかのメサイア
ドゴオォン!!
凄い音がしてそっちを見て見れば、結構体格のいい人が拳を握ってた。その人の拳の下には、何だか面白い位に大破した調理台。その人は怒り心頭って具合に青筋を立ててメンチさんの事を睨みつけてた。「納得いかねェな。とてもハイそうですかと帰る気にはならねェな。」・・・周りの受験者の人達も大方同じ気持ちみたいで、同調するみたいでメンチさんの事を睨んでる。

「俺が目指しているのはコックでもグルメでもねェ!!ハンターだ!!しかも賞金首(ブラックリスト)ハンター志望だぜ!!美食ハンターごときに合否を決められたくねーな!!」

・・・ん?ぶらっくりすとはんたー?・・・・・・ん?ブラックリスト?悪人になるってことかな??・・・・・・あ、あぁいや、ハンターだから悪人を捕まえる人か。納得してる私の横で、リヴァイさんが腕組をしてあの人に視線を送りながら言う。

「あのデブ、目上の人間に対してなんつー口の利き方しやがる。」
「それ、リヴァイさんにだけは言われたくないと思いますよ。」
「馬鹿言うな。俺は立場と状況を見極めてる。」

言われた言葉に、取り敢えず「・・・はは。」って笑った。のに、その取り敢えずの辺りが気に喰わなかったのか「おい、何だその反応は」って睨まれちゃったけど。いやでも・・・はは。リヴァイさん、お客さん相手にも平気でスラング吐き捨てるから。・・・・・・まぁ、でも、確かに・・・ちゃんとお客さんを見て言ってはいるけど。

そんな話をしてた最中だった。さっきの人が「ふざけんじゃねェー!!」って叫び声をあげてメンチさんに突っ込んで行っちゃった。「あ」「死んだな、アイツ」言った直後。パァン!!!メンチさんの前に、その後ろにいたブハラさんが大きい掌であの人の事を引っ叩いた。・・・って、言うには表現が柔らかすぎるかな。弾き飛ばした。
結構重そうな人だったけど、綺麗な放物線を描いて宙を舞った。・・・で、地面に叩きつけられた訳だけど・・・失神位で済んでよかったね。メンチさん、後ろ手に何か持ってたし、戦っても全然勝ち目無かったよ。思っていれば、メンチさんがブハラさんを睨んだ。

「ブハラ、余計なマネしないでよ。」
「だってさー、俺が手ェ出さなきゃメンチあいつを殺ってたろ?」
「ふん、まーね。」

あ、怖。ちょっと優しそうなお姉さんだなあって思ってたんだけどな。やっぱりこの世界の人って基本的に感覚可笑しいよなあ。価値観が変。そう思って微妙な顔をしてる間にも、メンチさんはやっぱり後ろ手に隠し持ってた無数の包丁を手にソファーから立ち上がってそれを放り手で遊ばせた。「賞金首ハンター?笑わせるわ!!たかが美食ハンターごときに一撃でのされちゃって。」

「どのハンターを目指すとか関係ないのよ。ハンターたるもの武術の心得があって当然!!」
「えっ!」

メンチさんの言葉に衝撃を受けて思わず声を上げちゃった私に、メンチさんが「は!?なに?!アンタも何か文句あんの?!!」って睨みを利かせた。勿論私はメンチさんに対する文句なんて欠片も無かったから「いえ、全くないです話を続けて下さい」ってにこって笑んでから、隣のリヴァイさんのマントをぐいぐい引っ張った。

「ちょちょっ、リヴァイさん。何ですかどのハンターとか武術の心得とか、え?ハンターって・・・え?ハンターって・・・っていうか、プロハンターって、ハンター協会に務めてる人とかその協会からハンターライセンスって免許貰った人の事を指す言葉じゃないんですか?ハンターって言うのがひとつの職業なんですか?」
「まて、落ち付け。俺もよく分からん。・・・つまり、なんだ?ハンター試験に合格したらそれだけで就職してるって事になるって事か?・・・いや、だが美食ハンターに賞金首ハンター・・・?・・・・・・・・・ハンターって職業には役職があるという事か?」

ひそひそ。空気を読んでメンチさんの話を邪魔しないように小声で会議を始める。お、可笑しい・・・つ、つまりさっきメンチさんが言ってた美食ハンターっていうのもなんか・・・俗語的なものじゃなくって、そう言うひとつの単語だったんだ。サラッと聞き流してたけど、大事な言葉だったんだ・・・!!
ぐるぐる考えながら、リヴァイさんの言葉に考える。考えて、「食堂とか営業とか?外勤内勤みたいに、って事ですかね。」「それだ!」

「その中に、あれだ・・・なんか警察みたいな役職があるんじゃねェか?それで賞金首ハンター。」
「それだ!!」
「もしくはあれだ・・・あれ・・・ハンター協会ってのは人材派遣会社なんじゃねぇか?それであらゆる分野のテストをするハンター試験を合格した人間を派遣するとか。」
「優秀な人だけが登録出来る派遣会社って事ですね!もしくは派遣会社じゃなくってハローワーク的な方かもしれないですね。」

私の言葉にリヴァイさんもまた 「だな。」って頷いて、取り敢えず会議は終了したけど・・・ほ、本当にこの世界のシステムってよく分からない。難しい。そうして私達が会議をしている間にも、メンチさんは怒鳴り続けてた。きっと自分の仕事に誇りを持ってる人なんだろうなあ・・・ちょっと試験の合否判定については微妙かもしれないけど、格好いいなあ・・・・・・・・・「武芸なんてハンターやってたら嫌でも身に付くのよ、」

「アタシが知りたいのは未知のものに挑戦する気概なのよ!!」
それにしても、合格者0はちと厳し過ぎやせんか?

ん?突然頭上から聞こえてきた声に上を見上げれば、飛行船が一隻現れた。・・・と。それを見上げていたら、不意にパッ、って飛行船の・・・扉かな?が、開いた。そしたら間もなく降って来た・・・お爺さん。その人はドォン!って大きい音を立てて地面に着地すると、涼しげな顔でメンチさんの方へ歩いた。そんなお爺さんに向けて私はさっとスマフォを向けたけど、その最中にメンチさんが緊張した面持ちで言葉を発した。

「審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の最高責任者よ。」

へぇー・・・あ、じゃぁとっても偉い人だ。なんだか惚けたようなちょっと可愛いお爺さんだけど、凄く綺麗な纏だし・・・強そうだなあ。っていうか、試験官の人って皆念使えるんだなあ。武術が必要って言ってたし、この試験に合格したら念を使う勉強とかするのかな。そんな事を思いながら、スマフォに表示されたデータに目を通す。えーっと、アイザック・ネテロ[強化系能力者]ひゃくー・・・「げほっ!!?」噎せた。そんな私にリヴァイさんが怪訝に「おい、どうした」って顔を向けてきたから、す、っとスマフォの画面をリヴァイさんに見えるように向けた。

「いや、あの・・・これ・・・」
「・・・・・・・・・嘘だろう。」

愕然とした様子で呟いた言葉には、同意せざるを得なかった。私がリヴァイさんに見せたのは、スマフォの・・・ウィキペディアに表示されたあのお爺ちゃんのデータの中の・・・年齢の所だ。そこをリヴァイさんと2人して覗き込んでは、お爺ちゃんとを見比べる、を、繰り返す。

「し、信じられねェジジイだ・・・俺もロリババアなら知ってるが、流石に此処までは・・・」
「いやろりばばあって・・・」
「独り言だ。」

独り言ってそんな・・・本人いないとはいえ先生じゃないのかなあ。・・・思いながら。だけど今は目の前のお爺ちゃんだ。ひゃ、100歳を優に越えて・・・あんなに元気で、あんなに頭はっきりしてるの?う、嘘だ・・・念能力で補正してる、の、かな・・・?纏って使うと若さも保てるって言うし・・・いや、でも・・・流石に・・・・・・・・・わ、分からない・・・信じられない。

メンチさんとおじいさ・・・えーと、ネテロさんの会話もあまり聞かずにリヴァイさんと無言の審議をしていると、「よし!ではこうしよう。審査員は続行してもらう。」って、・・・ネテロさんが朗らかに提案した。

「そのかわり新しいテストには審査員の君にも実演という形で参加してもらう    というのでいかがかな。」

そう人差し指を立てて行ったネテロさんは、「その方がテスト生も合否に納得がいきやすいじゃろ」って言ったけど・・・ん?じゃぁまだ私達、二次試験不合格はなかった事にしてもらえるんだ。もう殆ど諦めてたは諦めてたけど、やっぱりもう一回試験してもらえるって言われたら嬉しい。1年に1回しか無いってテストだしね。「よかったですね」にこっと言えば、「あぁ・・・流石に年に1度は気が長ェからな」って嘆息を返された。
・・・と。ネテロさんの言葉に頷いたメンチさんは、す。人差し指を立てて言った。「そうですね、それじゃ」

「ゆで卵。」

・・・・・・ゆでたまご?メンチさんの言葉に首を傾げてるのは、私だけじゃなかった。リヴァイさんは勿論、他の受験者の人達も不思議そうだったり、怪訝そうだったりって顔をしてる。だけどそんな私達の傍ら、「会長、私達をあの山まで連れて行ってくれませんか」って指差し方向を言ったメンチさんに「成る程、勿論いいとも」って納得したように答えたネテロさん。そんなネテロさんに、あ、これは何かあるなって思いながらも、やっぱり・・・ちょっと不思議だ。

そんな疑問を抱きながら、私達は飛行船へ誘導されて・・・平地にぽっこり浮かび出た山まで運ばれた。・・・・・・・・・ゆでたまご。
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