色硝子の硬度
もぐもぐ。おにぎりをのんびり食べる事数分。隣で私と同じように自分で握ったおにぎりを食べるリヴァイさんと一緒にせっせと"スシ"を作ろうと悪戦苦闘してる受験者の人達を眺めてたら、ふらっと歩いて来たキルアくんが物凄く怪訝そうな顔で「はぁ?お前等なに食ってんだよ?」って眉を寄せた。そんなキルアくんにぱちり、瞬き。何って・・・

「おにぎりだよ。」
「オニギリ?・・・って違ェ!そうじゃなくて試験はどうしたんだよ!?」

言われた言葉に「え?うーん・・・」って眉を下げた。これから頑張って試験に臨もうって子に諦めましたって言うのも悪いしなあ・・・「諦めた。」・・・あ、言っちゃうんだ。リヴァイさんってそう言う所あるよね。言葉を濁した私の横でサラッと言ったリヴァイさんにキルアくんを見て見れば、1度きょとんと大きい猫目を瞬かせてから「はぁ?!!」っておっきい声を上げた。

「ちょ、諦めたって何だよ?訳分かんねー!」
「お前らが魚獲りに行ってるる間に1品持っていったが、その評価を聞いて俺等に合格は無理だと諦めた。」
「む、無理って・・・だってあの女に美味いって言わせるだけだろ?」
「無理なものは無理だ。運も実力の内と言うだろう、今年は運が無かった。」

シレ、サラ。キルアくんに淡々と答えるリヴァイさんからは、だけど欠片もこれから試験に臨もうとしてる子に対する配慮とかそういうものは感じられない。本当に、自分は自分、余所は余所の人だからなあ・・・「後な、試験管を『あの女』呼ばわりするな」ってキルアくんの頭を鷲掴みにしてる光景をぼんやり眺めながら考える。リヴァイさん、自分はブハラさんの事聞こえてないと思って『豚野郎』とか呼んでたのに・・・
っていうか、基本的にリヴァイさんってスラング酷いもんなあ。多分、キルアくんがまだ子供だから一応礼儀とかそう言うのを指導してるって感じなんだろうけど・・・リヴァイさんが言葉づかい注意してるとか面白・・「お前何か変なこと考えてねェか?」「ません」

な、なんでバレたんだろう・・・私そんな思ってること直ぐに顔が出るとかって事無いと思うんだけどな。そんなちょっとした腑に落ち無さを感じてる私の横で、キルアくんがぐぐっと眉間に眉を寄せた。

「つーか、1回持ってって諦めるって事はそれ、相当な自信作だったんだろ?お前等料理上手いのかよ?」
「俺はまぁ普通だが・・・コイツの料理は美味いぞ。」
「えっへん!いっぱい研究しましたからね!」

胸を張った私に、なんかちょっとどうでもよさそうに「でも不合格だったんだろ」ってキルアくんに言われて「ねー、残念」って笑う。でも基本的に私の料理って私とリヴァイさんと・・・あとお客さんしか食べないからそれでもいいんだ。皆美味しいって食べてくれるから。そんな事を考えながらにこって笑った私の横で、「ハンターってのは大変だな。体力だけじゃなくて料理の腕まで必要なのか」って呟いたリヴァイさんに、キルアくんがまた「は?」って眉を寄せた。

・・・と。不意にキルアくんが伺うような眼で私の事を見て来たから首を傾げた。それに何かと思ってジッとキルアくんの反応を待ってたら、キルアくんはなんだか言い辛そうにもごもご喋りだした。

「・・・そんなに美味いの?」
「?さっき作った玉子の切れ端ならまだ余ってるけど、食べる?」
「・・・・・・・・・食う。」

ちょっとだけ照れたみたいにブスっというキルアくんにはい、ってさっきの玉子の切れはしを渡せば、それにちらっとお礼を言ってから口の中に入れた。・・・もぐもぐ。・・・・・・ごくん。「・・・ぅ、」

「美味ぇ・・・うっめぇ!なにこれスッゲーうめぇ!」
「本当?嬉しいなあ。」
「どうだ、羨ましいだろう。」
「う、らやましーけど、なんでオッサンが自慢げなんだよ。」
「俺はコイツの飯をもう10年以上食っている。」

本当・・・何でか自慢げなリヴァイさんに「ずりい!!」って咬み付いたキルアくんにあははって笑う。笑いながら、何だか懐かない猫の餌付けが成功したみたいな気分だなあってぼんやり思う。・・・あ。もしかしてギャルゲーとか乙女ゲーで好きなキャラクターを落とした時にこういう感覚になるのかも。でもこういう事考えたって分かるとキルアくんに怒られそうだから黙ってよう。ひっそり胸に仕舞った私の傍ら。「ん?」キルアくんが首を傾げた。「いや、ちょっと待て。」

「10年以上ってお前等どういう関係だよ?」
「見ての通りだ。」
「毛ほども分かんねーよ!!」

ちょっと怒ったように怒鳴ったキルアくんは、だけど直ぐにくるっと私の方を振り返って詰め寄って来た。・・・んん?

「なあなあ!お前お菓子とか作れねェの?」
「ん?作るよ?バイトしてるお店で日替わりスイーツとか作ってるしね。」
「マジで!なあなあ、今度俺にも作ってよ!」
「いいよー。じゃぁホームコードかメアド交換しよっか。お仕事休みの日にキルアくんと予定が合ったらご馳走するよ。」
「やり!約束な!ぜってー作れよ!」

何だかとっても子供らしくって可愛いキルアくんに「あはは、いいよー。」って笑いながら、ポケットからスマフォを出した。そしたらそのスマフォを見てきょとんと瞬いたキルアくんが不思議そうに言う。

「・・・?なにそれ、電卓?」
「んー・・・ケータイみたいなものだよ。」
「え、マジで?」

信じられないって顔で言ったキルアくんに「まじだよー」って返せば、私のスマフォの画面を覗きこみながら「でもボタンねーぞ?」って眉を寄せたキルアくん。そんなキルアくんに「タッチパネルなんだ」って指を滑らせてスマフォの画面を動かして見せれば「マジで?!」って眼を輝かせてくれた。
そんなスマフォに興味深々なキルアくんを見て、だけどふと、「あれ?」って思う。

「ねぇねぇ、そう言えばゴンくんとクラピカくんは?一緒じゃないの?」
「あっち。」

キルアくんが指差し言った方向にくるっと顔を向ければ、丁度クラピカくんがメンチさんに・・・・・・す、スシを提出してる所だった。だけどそれを一目見るなりメンチさんはぽーん!って後ろに放り投げた。「アンタも403番並!!」怒り心頭!って感じでそう言ったメンチさんに、何だか物凄くショックを受けたように真っ青になったクラピカくん。・・・・・・いや、それはレオリオくんに失礼だよ。

思いながらも、だけど頭の中はさっきクラピカくんが作ったスシでいっぱいだ。クラピカくん、ちょっとしか話さなかったけど、頭よさそうな常識人な人だと思ったんだけどなぁ・・・「・・・・・・・・・、」

「?なんだよ、黙りこんで。」
「・・・キルアくん。さっきのクラピカくんの、美味しそうに見えた?」
「いや・・・まぁ、見えねェけど。犬の餌以下だろ。」

酷い言いようだけどそれには同意だ。あれは・・・お寿司以前に料理じゃない。殆どレオリオくんと同じものだった。その事に何だか妙なショックを受けながらクラピカくんに視線を向けていれば、クラピカくんの方も私達に気付いたらしい。ゴンくんとレオリオくんも一緒にこっちに歩いて来たから・・・取りえず、肩を落としてるクラピカくんににこって笑んでみる。「えーと、」

「クラピカくん、すごーく斬新なもの作ったね。」
「・・・そ、それほど、だっただろうか。」
「それ程?お前・・・大丈夫か?普通生きた魚をそのまま出すか?鱗もそのままで・・・せめて捌くか火を通せ。あのままじゃ食う時に骨も処理できねェだろうが。それともお前の国では魚をそのまま食う風習でもあるのか?熊みてェに。」

私の言葉に少し戸惑ったように言ったクラピカくんに対して、リヴァイさんは本当に嫌そうに顔を歪めた。それに対してクラピカくんは「ぐっ」って言葉を詰まらせた。それをフォローしようか放っておくか悩んだんだけど・・・うーん・・・「いや、でもクラピカくんだってあんなのがレストランで出てきても食べたくないでしょ?絶対。」蟠りがあったから言う事にした。ら、「ッ、は、反論できない!!」って拳を握って項垂れちゃった。・・・ごめんね。
そんな私達の様子を今まで黙って見てたレオリオくんが・・・何でかちょっと感動したみたいに拳を握ってる。

「スゲェ、あのクラピカを論破したぜ!」
「論破じゃねェ、一般論を言っただけだ。言っとくが、テメェのあのクソみてェな生ゴミに対しても言ってんだぞ。」

ギロッ。とっても目つきを悪く鋭くさせたリヴァイさんにたじろいだレオリオくんの傍ら、キルアくんが「なぁ、おっさん2人になんか恨みでもあんの?」って怪訝に眉を寄せた。それに対してリヴァイさんもまたちょっとだけ眉を寄せて「?特に思い当たる事はねェな」って不思議そうに答えてたけど。

そんな様子を尻目に、にこっ。ちょっとだけ落ち込んでるクラピカくんにまた笑いかけて「クラピカくんはあれだね、頭はいいし知識もあるのにセンスが無いね!」って言えば、「もう・・・もうやめてくれ・・・・・・・・・っ」って、ついに顔を覆っちゃったクラピカくん。それに「うん、ごめんね」って謝ってたら、くいって後ろから服を引っ張られた。それに何かと思えば、ゴンくんが首を傾げて私の事を見てた。

「ねえ、。もしかして2人はスシの事知ってるの?」
「うん、知ってるよ。」
「え!」

答えたら、一気に(えっ?!)って感じで私を仰ぎ見た4人(ゴンくん、キルアくん、クラピカくん、レオリオくん)にあははって笑っちゃったけど。そんな私に目を輝かせたゴンくんがグイッと近寄って、それはもう遠慮なく言った。

「じゃぁ俺達にも教えてよ!」
「おいゴン、流石にそりゃぁ・・・」
「ん?いいよ!」
「いいのかよ!!」

何でかレオリオくんに怒られた。別に私・・・っていうか、私達、お寿司の作り方独占しようとか思ってないし。折角皆試験受けに来たんだから、一人でも多く合格できればいいなって思ってるし。だけどお寿司を知ってるってバレると判定厳しくなっちゃうから、ちょっと小声で教えてあげようって、ひそっ。小さい声で、言う。

「えーっと、お寿司って言うのは・・何だとー!?

ん?突然の大声に振り返ってみれば・・・さっきの明らかにレシピを知ってる風なスキンヘッドの人だった。その人はメンチさんの前で拳を握って・・・怒り心頭!!って感じに「メシを一口サイズの長方形に握ってその上にワサビと魚の切り身を乗せるだけのお手軽料理だろーが!!こんんなもん誰が作ったって味に大差ねーべ!?」って、声を張り上げてた。・・・・・・・・・、

「・・・って、料理だよ!」
「・・・・・・・・・ほう。しかし、今ので受験者全員が寿司を知ってしまった。・・・急がなければならないな。」
「お寿司はねー、知ってると大変だよ。」

キリッと真面目な顔をして言ったクラピカくんに言えば、「は?」って瞬かれた。そんなクラピカくんに「知識とセンスと発想力のテストじゃなくって、味のテストにシフトチェンジしちゃうから!」って教えてあげたけど・・・大丈夫かなあ。思って、ちら。メンチさんの方へ視線を向けた。
・・・さっきのスキンヘッドの人がメンチさんに胸倉を掴まれて凄い罵詈雑言を浴びせられてた。・・・・・・・・・だ、大丈夫かなあ。
大丈夫じゃなかった。

「わり、お腹一杯になっちった。」

ずずず。受験者の人の持って来たお寿司を飲み込んでからお茶をすすった後、メンチさんが二次試験終了を告げた。あのスキンヘッドの人がお寿司の作り方を大声で言っちゃった事で、お寿司を持った受験者がメンチさんに殺到しちゃったから、当然と言えば当然だけど。

あーぁ。今回は本当に皆運が悪かったなあ。・・・なんて。もう私とリヴァイさんは完全に諦めムードだったから何とも思わなかったけど、周りの人達はそうでもないみたい。少し離れた調理台から、ドゴオォン!!大きい音がした。
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