カステラを切るから
何故か卵を採って戻ってきたら誰もいなかった二次試験会場の中。まぁいっかって思いながらのんびりリヴァイさんと出汁巻き玉子を作る事十数分。ふんわり綺麗に出来た自分の自分の玉子をシャリに乗せる大きさに切ってから、なんとなくの形にシャリを握る。・・・お寿司なんてちらし寿司と手巻き寿司しか作った事無いからシャリを握った事なんて無かったけど・・・まぁ、多分、こんな感じの筈だって思いながら握って、卵を乗せて、細く切ったノリをくるっと巻いて、出来あがり。

・・・っと。そんな私に遅れる事数分。リヴァイさんの方も出来たみたいで、自分で作ったお寿司が乗ったお皿を無表情で見下ろしながら呟いた。「出来たは出来たが・・・」

「不格好だな。」
「いや、勝負は味ですよ!」
「・・・まぁ、試験でお前に作らせるわけにはいかねぇしな。こんなもんだろう。」

遠まわしに私の料理は上手だって褒めてもらえたみたいでちょっと嬉しい。・・・でも私も家庭料理としては上手にご飯を作れる自信はあるけど、流石にプロの料理人の人に美味しいって言ってもらえる自信はそこまで無い。だからちょっと不安に思いながら、だけどプロの料理人さんにご飯を食べてもらえるなんて事そうそう無いし、いい機会だと思ってちょっと弾んだ足取りでメンチさんの元へ向かう。

「お姉さぁん、お願いしまーす。」
「あら、卵?受験生は皆魚取りに行ったと思ったけど・・・さてはアンタ、知ってたわね?」
「え?あ、はい知ってました。やっぱり結構マイナーな料理なんですか?」
「そりゃぁジャポンって小さい島国の民族料理だからね。」

・・・じゃぽん?・・・・・・・・・あ、あぁ〜・・・あの何処からどう見ても日本にしか見えない国か。1回だけ、ダメもとで、でもちょっと微かな期待も持ちながらリヴァイさんに連れて行ってもらった事があるけど、実際には全然日本とは違ったんだよなあ。いや、名残はあるんだけど、なんか・・・大分時代その者も違う感じだったし、その上忍者とかそういう感じの人までいたし。

そんな事を思いだしてる私の目の前で、メンチがさんが「ま、いいわ。見た目も香りもいいわね・・・」なんて、ちょっと嬉しい事を言ってくれてから両手を合わせた。「いただきます。」

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・だめね、シャリの握りが甘い。この卵に対してのシャリの味の配合は良い線いってるけど、もうちょっとって感じね。」
「あ、はい。ありがとうございました。」

なんかやたら長い沈黙の最中。もぐもぐとゆっくり私の作ったお寿司を食べてながら、お皿を見て、私を見て、天井を見て、私を見て、お皿を見て、私を見て、私をじ〜っと見てって繰り返した後にようやく言われた言葉に、ぺこりと頭を下げてお礼を言った。な、なんだったんだろう・・・でも不合格かあ、残念。
思ってる私の傍らで、リヴァイさんの方のお寿司も食べ終えたらしいメンチさんがビッ!ってリヴァイさんを指差した。

「アンタは全然ダメ。卵焼く時の手際の悪さが味と固さにまで出てる。シャリの握りも強くて口の中でほぐれない。」
「そうか。」

リヴァイさんも不合格かー・・・うーん、メンチさんはお腹いっぱいになるまでいくらでも持って来ていいって言ってたけど・・・思いながら。さっきまで私達が料理してた調理台の方へ戻りながら、徐々にこの試験会場に・・・なんか、とっても個性豊かな魚を手に徐々に戻って来てる受験者の人達をぼんやりと眺めていれば、隣のリヴァイさんがぽつりと言う。

よ・・・」
「なんですか?」
「今年のハンター試験は運が無かった。お前でダメなら俺が受かる道理が無い。」

ぱちぱち、瞬いて。「この世界の人間は料理上手なんだな」なんてしみじみ呟いたリヴァイさんに、苦笑する。「ですねぇ・・・ちょっと自信あったんですけど、残念です。」そう言いながら手を洗って、他の受験者の人達の・・・なんていうか・・・とっても独創的な創作料理を眺めてると、ふと、目に付いた人がいた。黒い服に、坊主頭の人。周りを見渡しては吹き出して、料理を見ては吹き出してを繰り返してるその人を見て・・・・・・・・・、

「・・・あのハゲ、知ってるな。」
「ですねぇ。」

あんまりにあんまりなあの様子に呆れを孕んだ声で呟いたリヴァイさんに頷いて、あははって笑った。・・・と。視界の端にレオリオくんがメンチさんに料理を持っていく様子が見えて、ちょっと気になってその様子を眺めたけど・・・・・・・・・、「食えるかぁっ!!」レオリオくんの作った"お寿司"をお皿ごと放り投げたメンチさんに、今回は心の底から同意した。・・・あれは、無理だよ。なんか・・・お米団子のなかに生魚が生きたまま捌くでもなくそのまま刺さってるって・・・よくレオリオくん、あんなもの人に出せるなあ。

ちらり。横を見てみれば、そんな光景をリヴァイさんも見てたのか思いっ切り顔をしかめてたけど・・・はぁ。リヴァイさんはうんざりって様子で1つ溜息を零すと、腕を組んで私に言葉を向けた。

「しかし・・・料理が必要な資格ってのはなんなんだろうな?」
「さぁ・・・最初のは豚が凶暴なのもあったから体力とか判断力とかそういうのがあると思ったんですけど・・・今回は完全に味ですしね。・・・あ。でもお寿司の事を知らない人にとっては独創性とか想像力とか、あと分析力とかが見れたのかもしれませんねー。」

なんとなくの想像で言ったけど、なんかそんな気がする。そんな思いを込めて言った私に、「知識があった事が仇になったのか」って、またうんざりしたように言ったリヴァイさんに「今回は本当に運が無かったですね」って苦笑。でも、まぁ、運ばっかりは仕方ないもんなあ。

そう思ってから、ちら。またリヴァイさんを見て、でも直ぐに視線を逸らして、今度は調理台の上に視線を滑らせる。滑らせて、巡らせて、・・・・・・そわっ。お尻の後ろで両手の指と指を絡ませて、ど、どうしようかな、・・・どうしよう、い、言おうかな・・・言って、いいかな。言うだけなら、いいかな。・・・・・・・・・いいよね。そう自分の中で決心を固めてから、言う。

「あ、あの・・・えっと、リヴァイさん・・・」
「?なんだ、妙に歯切れが悪ぃな。」
「えーっと・・・あの、・・・此処、お米と、お塩、あるじゃないですか。」
「・・・あぁ、あるな。家にもあるが・・・それがどうした。」
「えっと、そのー・・・折角時間余ったし、お腹もすいたので・・・えぇと、」

・・・あ、だめだ。なんか恥ずかしくなってきた。そう思ってまた言葉を濁らせた私に、ものすごーく胡乱な顔で「おい、言いたい事があるならはっきり言え」って、ちょっとドスの利いた声で言われたものだから、即座に答えた。「おにぎり作って下さい。」・・・言えば、1回瞬きをした後で、今度は不思議そうな顔をされた。

「・・・・・・・・・は?」
「おにぎり作って下さい。」

・・・言って、物凄く恥ずかしくなった。ものすごく、恥ずかしくなった。なんかもうちょっとリヴァイさんの顔を見れなくなって俯いて気持ち顔を逸らせば、リヴァイさんはその顔を覗きこむって事はないけど・・・ほんと、なんかもう、呆れた、って感じの声で、「さっきからそわそわしてると思ったらそんな事か」って、・・・うん、完全に呆れられた。

「・・・俺が作るより自分で作った方が美味いだろう。」
「リヴァイさんのおにぎりが1番美味しいです!」
「行き成りでけぇ声を出すな、吃驚しただろうが。」

ぐっと拳を握って言えば、ちょっと嫌そうに言われたから「ごめんなさい」って謝る。・・・謝って、やっぱりダメかなってリヴァイさんの顔色を伺い見る。そうしたらリヴァイさんはそんな私の事をジッと見てから、嘆息。「・・・・・・別にかまわねェが・・・お前、本当に好きだな。」や、やったー!!あからさまに喜んだ私の傍らで、やれやれって風にしながらもちょっとだけ恥ずかしそうに手を洗い始めたリヴァイさんの背中を見て、へにゃっと顔を緩める。

手を洗って、塩を手の平にかけて馴染ませて、ご飯を手にとって握りこむ。そうして4つ並んだおにぎりはそれぞれ大きさが微妙に違ってまちまちで、不格好で。「ありがとうございます」ってお礼を言って、「いただきます」って手を合わせて。そうして4つの内の1つ、1番手前にあったおにぎりを食めば、強く握られたご飯は少しだけ固くって。口に入れれば塩加減もまばらでしょっぱい所や味の薄い所がある。・・・だけど、

私の横で、リヴァイさんもまた自分の握ったおにぎりを食べて、口に入れては微妙な顔をしてるけど。「おいしい・・・」私はぽつり。呟いた。中に何か具が入ってる訳でも、リヴァイさんがおにぎりを作るのが特別上手、っていうわけでもない。だけど、

「飯にするぞ。         俺も仕事上がりで家に米くらいしかねェんだ、悪いな。」

どんなに甘くてふわふわしたケーキより、どんなに高級なご馳走より、「リヴァイさんのおにぎりが、1番美味しい。」
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