手のなかに燃える心臓
二次試験の内容は、あの2人の指定する料理を作るっていうものだ。2人の指定する料理を作って、「美味しい」って言ってもらう事。それが合格条件。その試験は最初にあの大きい男の人    ブハラさん    の指定するテストを受けて、そこでOKを貰った人だけが女の人    メンチさん    が出題する次のテストを受けられるって言うシステムらしいけど・・・人が食べられる量には限界がある。

・・・から、最初の試験。ブハラさんの出題した"豚の丸焼"を作る為に、私とリヴァイさんはまた森の中を立体機動装置を使って移動していた。そうして木々の合間を移動している最中、不意にリヴァイさんがひとりごちる。

「しかし、あのブハラって奴は本当に人間か?どう見ても巨人だったが・・・」

そう言って、剣を片手に剣呑な声を出したリヴァイさんにちょっと吃驚した。吃驚して、だけどリヴァイさんは今まで巨人を殺して、殺されるって言う世界にいたんだって思えば、自然とそうなっちゃうのかもしれないって思う。思って、だから敢えてそれを指摘せずに、けろっとした調子で答える。

「でもこの世界の人ってお化けみたいな人いっぱいいるじゃないですか。きっとあれでも人間ですよ、きっと。」
「まぁ・・・試験官なんてやってるくらいだしな。」

そんな事を話してる間に、「あ、いましたよ豚。」目的の"豚"を発見した。それに近くの木の枝に着地して取り敢えずその豚にカメラを向ければ、「えーと・・・グレイトスタンプって言うみたいですよ。」何でも世界で1番凶暴な豚で、大きくて頑丈な鼻で敵を圧死させるってデータが表示された。そうして弱点が大きくてかたい鼻でガードしてる額だって告げれば、「了解だ」って一言呟いてから、下に2匹いるグレイトスタンプを見下ろしていたリヴァイさんが動いた。

トスッ。2匹の内近くにいた方のグレイトスタンプの背の部分にワイヤーの先のアンカーを刺すと、即座に右手の剣を逆手に持ち直す。そうしてガスを吹かしてワイヤーを巻き取り、その勢いで身体を回転させてー・・・・・・はっ!

「リヴァイさん丸焼!丸焼ですってば削いじゃだめです!!」
「・・・あぁ、そうか。」

私の言葉にようやく気付いたように言ったリヴァイさんは、今まさに剣の刃を突き刺そうとしていたそれを止めて、身体を回転させて勢いをそのままに、逆手に持っていた右の剣の柄を思い切りグレイトスタンプの額に突き当てた。そうすれば、たったそれだけの事で気を失って倒れたグレイトスタンプ。そのグレイトスタンプの頭部に乗ったまま、リヴァイさんは私の方を見上げた。

「お前もとっととそっちを片付けろ。」
「はぁい。」

呑気に私を見上げてるリヴァイさんのその数メートル先には、今まさにリヴァイさんがやっつけちゃったグレイトスタンプの様子に気付いたもう1匹が、それに怒ったようにリヴァイさんに突進しようとしてる。それを見下ろしながら、私もまたそのグレイトスタンプの額にアンカーを刺し、ガスを吹かしてワイヤーを巻き取る。そうしてその勢いのまま、グレートスタンプの額に踵落としの要領で靴裏を落とした。・・・そしたら本当にあっさりと気を失っちゃったから、ちょっと吃驚したけど。

そんな私の目の前に聳える・・・本当に聳えるってくらい大きいグレイトスタンプを見上げる私に、ようやく地面に降りてきたリヴァイさんが、私にじっと視線を向けた。「で?」

「どうやってこれを料理にするんだ?焼けばいいのか?」
「いやいやいや、そんな動物じゃないんですから・・・ちゃんと毛とか内臓とか処理しないとまずいんじゃないですか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・こういう時こそクックパッド先生ですよね!実は豚の丸焼なら1回だけ食べた事あるので大丈夫です!」
「マジか、いつ食ったんだそんなもん。」
「ふふん、バイト先のおばさんと一緒にご飯食べに行ったときですよ。珍しいので写真撮っといてよかったです。」

ちょっとだけ自慢げに言えば、ちょっとだけ羨ましそうな目で見られた。から、「今度一緒に食べに行きましょ」って誘えば「無事に合格できたらな」って返された。合格祝いって事かぁ・・・・・・「リヴァイさんの奢りですか?」「合格できたらな」よし、頑張ろう。そんな会話をしながらクックパッドでレシピを探していれば、表示された詳細な作り方を読む。・・・えーと、

「まずは喉を切って血を抜くみたいですよ。それから豚をお湯で洗いながら毛を削いで、その後でお腹を裂く前に内臓の中を綺麗にするみたいですね。」
「切らずにどうやって内臓を・・・・・・・・・あぁ、クソか。」

人が折角オブラートに包んで言ったのに・・・まぁ、そうなんだけど。「死んだ生き物に浣腸するってのもゾッとしねェな」・・・いや、事実だけど・・・事実、だけど・・・じろり。リヴァイさんを見て、だけどいや、うん。リヴァイさんはこういう人だって思いなおして、早々に料理を開始する。あんまりのんびりしてブハラさんがお腹いっぱいになっちゃっても困るし。

えーっと、まずは血を抜くんだよね。丁度近くに川あるし、そっちは大丈夫かな。血を抜いて、喉のその切り口から食道を剥がす・・・うーん、でも「これだけおっきいと血を抜くのも大変ですね・・・」呟いて、リヴァイさんを見る。

「リヴァイさん、あの、さっき削ぐなって言ったんですけど、やっぱり削いでもらえます?鼻の下から、首の血管が切れるように。」
「分かった。」

背中とか側面から喉を切るとと完成した時の見栄えが悪くなるからと思って鼻の下から喉を切ってもらって、それから淡々と料理を続けていく。・・・だけど、流石グレイトスタンプは身体が大きいだけあって1つ1つの作業に時間がかかる。大きい分簡単に進むけど、それでも大変だ。特に・・・

「あの、・・・リヴァイさん、大丈夫ですか?」
「何がだ。」
「いや、あの・・・此処の処理だけでも私がしましょうか?」

此処の処理、っていうのは・・・まぁ、お尻とかその辺りの処理なんだけど。伺うようにそれを言えば、リヴァイさんは1度瞬いて、「まぁ、汚ェが・・・」って言ったけど、直ぐにまた刃をグレイトスタンプに向け直して、続ける。「さっきまで生きていたんだ、これが普通だろう。」

「喰う為に殺したんだ。最後まで面倒みてやんのが礼儀だ。」

そう言ってまた調理を再開したリヴァイさんに、私もまた「そうですね」って。そう言って手を動かす。・・・リヴァイさんのこういう所を、すごいなって、思う。これだけじゃない。リヴァイさんは、どんなに目を逸らしたい惨状からも、絶対に目を逸らさない。その強さに憧れてやまない。・・・・・・

「・・・かっこいいなあ。」
「は?」
「んー・・・リヴァイさんは素敵だなあっていう話です。」
「馬鹿言ってねぇで手動かせ。」

褒めたのに。ほんきで。だけど怒られちゃったから黙々と手を動かす事にした。身体が大きいだけあって本当に大変な作業だけど、その分内臓を傷付けるリスクも少ないから良い所も悪い所も半々かもしれない。・・・此処に来る前までの私なら、豚の眼とか蛙の解剖ですら気分が悪くなってそうなものなのに、今ではこういう事も・・・まぁ、正直気分がいいものじゃないけど。それ出来るようになったのは、毎回思うけど大きい変化だよなあ。

そんな事を考えながら、綺麗に内臓を取り除いて中を洗って下処理の終わったグレイトスタンプに火を通す。味付けはさっきメンチさんにあの小屋の中にあった調味料もろもろを使わせて貰って、それでタレを作った。全体や中までしっかり焼けるように、焦げないように注意しながら、川でさっき取り除いた内臓を傷付けないように丁寧に洗って行く。そんな私の隣で同じようにそれらを洗うリヴァイさんが私を見た。

「・・・で?この残った内臓はどうするんだ?まさか、棄てんのか?」
「いや、ちゃんと調理しますよ。ちゃんと綺麗に洗ってから、・・・ほら。」

言って、スマフォに映った内臓の調理方法とか完成した写真を見てもらう。そうしたらリヴァイさんは「ほぅ」って声を上げた。「悪くない。」それは良かった。丸焼じゃない方はテストに出題されてないからリヴァイさんにも食べてもらおー。
あの二次試験会場に豚の丸焼を持って戻って、私とリヴァイさんはブハラさんに豚の丸焼を食べてもらう為の順番を待ちながら、何か言おうとして、だけどその言葉を迷わせていた。でもようやくそれが定まったのか、決意が生まれたのか、先にリヴァイさんの方が「・・・よ。」って・・・それはもう。それはもう静かに名前を呼んだ。・・・リヴァイさんの言いたい事は、分かってる。分かってた。だけど敢えて「・・・・・・・・・はい、なんでしょうか。」って問えば、隣で若干青い顔をしてるリヴァイさんが続けた。

「・・・俺の眼には、奴等の持つ豚は全く処理されていないように見えるんだが。」
「奇遇ですね、私にもそう見えます。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの豚野郎・・・あんなもん食うのか?正気か?」

言ったリヴァイさんは、いよいよ口元を押さえてブハラさんが豚の丸焼を食べてる光景から目を逸らした。・・・自分達で処理をしたからこそ、余計に思う。あれらを処理していない状態でただ焼いただけの豚を、いくら火を通したからってそのまま食べるなんて、正気の沙汰じゃない。いや、可笑しいのは胃袋もなのかもしれない。「・・・・・・・・・やっぱり、この世界の人は皆私達の常識では計れないですね。絶対頭が可笑しいんだと思います。」思った事をそのまま言って、なんか本当に気持ち悪そうなリヴァイさんに胃薬をあげた。・・・効くかどうかは分からないけど。

でも、蒼くなった顔でペットボトルの水と一緒に薬を飲むリヴァイさんは・・・正常だ。紛れもなく。ちょっと申し訳ないけど、このリヴァイさんの正常な反応に落ち付く私がいる。・・・よかった、私もきっと、正常だ。

・・・と。私達より先に豚の丸焼のテストで合格を貰ったゴンくんが、順番待ちをしてる私達に気付いて「!リヴァイさん!」って走り寄って来た(それに一緒にいたキルアくんとクラピカくんと・・・えーと、レオリオって人も一緒に来た)。だけどリヴァイさんのあんまりな様子に気付くと、ゴンくんは不思議そうに首を傾げて「?リヴァイさん、顔色悪いけど大丈夫?」って言ってくれたけど・・・そんなゴンくんに対して、リヴァイさんは静かに。それはもう静かに、言う。

「・・・お前らこそ、気は確かか・・・?」
「え?」
「お前らがあの試験官に出した豚の腹の中には、内臓どころか、大量のクソや小便が詰まってんだろ?それも、あの巨体に詰まってる量だぞ・・・そんなもんを、普通、他人に、出すか?喰うんだぞ?お前ら、気は、確かか?」

言っていたら益々気持ち悪くなったのか、益々顔色を悪くしたリヴァイさんの背中をさすった。摩りながら、心の中では止めて下さいって言った。ちょ、もう・・・い、言わないで下さい・・・想像したらなんか私まで気持ち悪くなってきた・・・うっ
・・・と。そのリヴァイさんの言葉に反応したのはゴンくんじゃなくて、そのちょっと後ろにいたレオリオくんの方だった。

「ちょっ、おま!なんっつー事言うんだよ?!なんか食欲無くなってきただろうが!!」
「・・・・・・・・・お前誰だ?面白ぇ面しやがって。」
「ちょ、リヴァイさん失礼ですよ!」

と、突然なんて事を!そう思って小声で窘めたけど、リヴァイさんはジっとレオリオくんの・・・顔を見てから私に顔を向けて、レオリオくんの顔の・・・まぁ、面白い部分を指差した。「だがな、・・・普通、こうなるか?」リヴァイさんが言ってるのは、なんか・・・面白いくらい腫れてる右頬の事だ。分かる・・・分かるけど・・・「それはレオリオくんじゃなくって、殴ったヒソカくんに言ってあげて下さい。」殴られただけのレオリオくんには非はない。そんな風に言ったら可哀想だ。そう思って言った私の言葉に、レオリオくんが「あん?」って反応した。

「お前、俺の事知ってんのか?」
「うん、知ってるよ。レオリオくんでしょ。」
、俺達の名前も知ってたんだよ。凄いよね!」

そう言って笑ったゴンくんにあははって笑っていたら、「はい、次!持ってきてー」って、メンチさんに豚の丸焼を持ってくるように言われて、ゴンくん達にまたねって言ってからリヴァイさんと一緒にブハラさんの元に豚の丸焼を持って行った。・・・と。そんな私達の作った豚の丸焼を見て、メンチさんが感心したように声を上げた。

「あらぁ?アンタ達随分綺麗に作って来たわねー。っていうか、それが普通なんだけど。」

言われた言葉に、固まった。普通・・・普通って、言った?普通って言われましたかこの人は?!私達の作った豚の丸焼を「うめ〜!!」って声を上げてるブハラさんの傍ら。だけど1次審査を突破したこと以上の感動に、思わず私はわなわなと身体を震わせた。「で・・・」

ですよね!!!!
「うわっ、吃驚した。」

思わず、がしっ!と。それはもう力強くメンチさんの手を握ってた。そう・・・そうだよね!これが普通・・・普通なんだよね!!それもなんか料理人?っぽい人に言われると益々私達の感覚が正しかったんだって事が証明されたみたいで凄く嬉しい。「なんかもうあんな何の処理もしてない只豚焼いただけの丸焼食べるなんて正気の沙汰じゃないって思ってたんですけど、あんまりにも周りが普通にそれを受け入れてる・・・っていうか、あんなもの平気で他人様に出すって事そのものが信じ難かったんですけど、みんな普通の顔してるから私達の方が寧ろ頭可笑しいんじゃないかって!!お、おねっ、おねえさん・・・!!!」

感動をそのままにそれを告げれば、なんかじわって涙まで浮かんできた。そんな私にギョッとしたように「ちょ、何泣きそうになってんのよ?」って目を剥いたメンチさんが、慌ててリヴァイさんを仰ぎ見た。

「っていうか!アンタの連れでしょ?アンタ何とかしなさいよ!」
「いや・・・俺も今、感動を噛み締めている。よ、安心したな。俺達は正常だ。」

メンチさんの言葉に、リヴァイさんもまたしみじみと呟いた。そんな私達にぽつり。「何言ってんのアンタ等」って呟いたメンチさんの声は、もはや聞こえていなかった。・・・あぁ、よかった・・・私達は間違ってなかった。・・・・・・・・・よかった。本当に。
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