形だけ留めたいわけじゃない
ぱしゅっ。アンカーを放って、ヒュンッとワイヤーが風を切る音を聞きながら、グーグルアースが示すサトツさんのいる場所・・・ビスカ森林公園を目指して立体機動で移動している最中。不意にリヴァイさんが「。」って私の名前を呼んだ。それに「はい?」ってリヴァイさんの方を向けば、リヴァイさんは視線だけを私に向けて木々の隙間を飛びながら言葉を続けた。

「お前は別に薄情なわけじゃない、普通だ。」
「・・・・・・・・・はぁ。」
「おい、真面目に聞け。」

突然何言いだすんだろうこの人・・・って、思いながら取り敢えず返事だけ返したんだけど、バレてた。ギロッて睨まれた。それにさっと真面目な顔を作ったけど、白々しいってまた怒られた。リヴァイさんはそうしてから1度息を吐くと、だけど直ぐに前を向いた。

「お前は最初から何も変わってねェよ。特別才能があるわけでも、飛び抜けて強い訳でもない。普通に流される、普通に情を持つ、普通に自分が可愛い、ただの普通のガキだ。」

ぱちり。瞬いて、少しずつ頬が熱を持った。・・・ば、ばれてた。わざわざリヴァイさんが先に跳んでったのを確認してからゴンくんに謝ったのに、か、完全にバレてる。だけど、それ以上にじわり。少しだけ目頭が熱くなって、慌てて込み上げそうになったそれを堪えた。きゅっと唇を噛んで、俯く。

・・・この世界に来て、生きる為に色々して来た。そうして、心の保ち方も学んだ。目の前で人が傷付こうと、殺されようと、自分を保っていられるように。感情に支配されずに、自分の目的と命を優先できるように。この世界は、そう言う場所なんだって。今まで私が培ってきた常識だけじゃ、生き抜けないから。この世界は、そう言う場所だから。だから、生きる努力をして来た。

だから、ヒソカくんが受験生の人達を襲っている時。私は助けられたかもしれない命を、そうだと知っていて、放っておいた。

人が死ぬ光景を、取り乱す事無く見つめる事が出来るようになった。助けられるかもしれない命を、見殺しに出来るようになった。勿論、絶対、間違いなく助けられるなら、助けるけど。だけど、自分の力が及ばない所為で救う事が出来ないかもしれない命が失われていく光景を、ただ、眺めている事が出来るようになった。      私が、生き抜く為に。

だけどその内に、段々、昔の、最初の自分が死んでいく気がしてた。今までの私じゃ生きて行けない世界でも、だけど、今までの私じゃ考えられないような事をして、考えて、する。そうなっていく事が怖かった。人の命を諦めて、切り捨てる。そんな事が出来るようになった自分が恐ろしくて仕方が無くなる時がある。だけど、でも。「そうだと、いいなあ。」そう、信じたいなあ。

呟いて。優しいその言葉に、ひとつ。ひとつだけ落ちたそれにきっと気付いたリヴァイさんは、だけど気付かない振りをしてくれた。









「、あ。見えましたよ、あそこが二次試験会場みたいですね。」

木々の合間を抜けて見えてきた光景は、結構大きい・・・小屋?うーん・・・そんな建物のある場所だった。その小屋の中からは妙なガルルルル・・・グォルルル・・・っていう唸り声みたいな音が聞こえてくるけど、その小屋の前にいる人達の中。少し外れた場所にサトツさんの姿を見付けて、「あ、サトツさーん」って声を上げながらガスの噴射で飛ぶ方向をズラしてサトツさんの目の前に着地した。それにちょっと吃驚したのか目を見開いたサトツさんに向けて、聞く。

「あの、まだ1次試験って続いてますか?私達、間に合いました?」
「えぇ、つい先ほど着いたばかりですから。おめでとうございます。お2人は無事、1次試験を合格いたしました。」
「わぁい!ありがとうございます、サトツさんも試験官お疲れさまでしたー。」

ぺこり。深く頭を下げてから、少し後ろの方にいたリヴァイさんの元に駆け寄った。「リヴァイさーん、取り敢えず1次試験は合格出来たみたいですよー!」言えば、腕組みをして「らしいな。」って頷いたリヴァイさんに本当に間に合ってよかったですねーって笑う。でも、実際はギリギリってわけでも無かったみたい。

周りを見渡して見れば、まだ息が整わなくって肩で息をしてる人が多い。立体機動での移動は普通に走るよりも圧倒的に早い速度で移動できるから、サトツさんの言った通り、此処に着いたのは他の人達と同じくらいだったのかもしれない。そんな事を考えてたら、息を荒げるどころか汗一つ掻いてないキルアくんを見付けて手を振った。「キルアくーん!」

「やっぱりキルアくんは無事に着いたみたいだねー。」
「なっ、おまっお前等どんな手品使って来た?!最初からずっといなかっただろ?!!」
「あはは、手品なんて使ってないよ。普通に地図見て来ただけ。」
「どんな地図だよ?!」

手を振って声をかけたら、ギョッとしたような顔をしたキルアくんの方から私達の方に駆けよって来た。そんなキルアくんの言葉を聞きながら、確かに手品みたいなものかなあ・・・って思いながら答えた私に、訳が分からないって顔をしたキルアくんは、だけど私がちゃんと答える気が無いって分かると不満げに顔を歪めた。だけどそんなキルアくんの眼線が私達の後ろの方に向いたのに気付く。・・・

「ゴンくんならちゃんと来る思うよ?」
「な、なんだよ。別にゴンの話なんてしてないだろ。」
「可愛いなあ、キルアくんは。」
「かっ?!っわいくねーよ!ふざけんな!!」

ムキになって言うキルアくんは、本人が否定したって可愛い。それに思わず「あはは」って笑えば、やっぱり「あははじゃねー!!」って怒られちゃったけど。そんなキルアくんの怒りの矛先は、不意に今まで私達の事をジッと見てたリヴァイさんに向けられた。「オッサンも黙ってないで何とか言えよ!アンタの連れだろ!」言ったキルアくんに対し、リヴァイさんは腕組をしたまま思案顔をした。だけどそんな表情の変化に気付かないキルアくんは、自分の事をジッと見るリヴァイさんに対して「・・・な、なんだよ・・・」って半歩後ずさった。のを、見て。

「いや、まぁ・・・可愛いもんだと思ってな。」
「なんっだよ2人して!」

やっぱりリヴァイさんもそう思うよなあ。私達になんだか怒ってるみたいなキルアくんだけど、それが可愛くって思わず出が伸びた。そうして、なでなで。キルアくんのしらー・・・白銀の髪の毛を撫でれば、一瞬だけキルアくんの身体が強張ったのが分かった。それに触ったらまずかったかなって思ったんだけど、直ぐに伏せ眼がちに顔を逸らしたキルアくんのほっぺたがささやかに色付いてたのを見つけて、まだ撫でてて大丈夫そうだって撫で続ける。・・・・・・・・・、

「・・・リヴァイさん。」
「なんだ。」
「キルアくんの髪の毛・・・とっても気持ちいいです。ふわっふわです。」
「マジか。おい交代だ、代われ。」

信じられないくらいに触り心地の良いキルアくんの髪の毛に感動してそれをリヴァイさんに告げれば、興味を持っちゃったみたいでそう言ったリヴァイさんに「えぇー?」って不満の声を上げた。上げたら、私の目の前で私以上に不満げな「俺の頭で遊ぶな!!」って声が聞こえてきた。

なでりなでり。「これは・・・気持ちいいな」ちょっと感動してる風に言ったリヴァイさんに「ですよね!」って同意する。そんな私達に対して「お前らホント何なんだよ・・・」って、なんだかちょっと疲れたような声を出して項垂れたキルアくんには首を傾げちゃったけど。・・・と。不意に私のスマフォが僅かに震えた。それに何かと思ってその画面を見てみれば、自動的に発動したグーグルアースの地図の画面に写るものに瞬いた。瞬いて、にこり。キルアくんに笑む。

「キルアくん、ゴンくん達戻ってきたみたいだよ。」
「は?」
「ほら、あっち。」
「・・・ぁ、」

森の奥の方を指させば、ゴンくんとクラピカくんが走って来るのが見える。見えたのに、どうしてか一向に動こうとしないキルアくんに首を傾げる。傾げてキルアくんを見れば、何にか分からないけど、ちょっと迷ったような顔をしてるから、また首を傾げる。

「?行かないの?心配してたんでしょ?」
「・・・別に・・・・・・心配なんてしてねーし。」
「でも、がっかりしたんでしょ?」
「、」
「行っておいでよ。きっと楽しいよ。」

にこっ。笑めば、キルアくんはそれでも少しだけ逡巡してから、タッとゴンくん達の方に駆けて行った。それを見送りながら、へにゃって表情が緩んだ。「かわいいなあ、キルアくん。」いいなあ、あんな弟くんがいるなんて、イルミくん羨ましいなあ。そんな事を思って呟いた私に、リヴァイさんもまた「まぁ、そうだな。」って返す。

「イルミの弟っつーからどんなのかと思ったが、・・・まぁ、可愛いな。」
「?イルミくんは可愛くないんですか?キルアくんのお兄さんなのに?」
「さっきお前も見ただろう。あの通り、能面みたいな奴だ。」
「のうめん・・・」

確かに・・・あれは・・・能面みたいな顔だった。声もまっ平らだったし、本当キルアくんとは正反対。あのイルミくんの無表情を極めたみたいな顔をとキルアくんのあの子供らしい顔を比べて、本当にキルアくんは似なくってよかったなあって思う。ふらり。視線を彷徨わせてイルミくんを探せば・・・相変わらずあの気持ち悪い針だらけの顔で突っ立ってた。・・・・・・・・・あれ、本当は辛いんじゃないのかなあ。顔色も凄いし、無理してるんじゃないのかなあ。凄く捨て身の変装だ。

ジッと見つめて。だけど視線に気づかれない内にさっとリヴァイさんの方を向き直す。・・・ジ。・・・・・・・・・「相変わらず目力凄いですね」「突然喧嘩売ってんのか?」売って無い。イルミくんと違って生気のある顔ですねって言いたかった。
そんな私にリヴァイさんは数秒怪訝な顔を作ったけど、直ぐにその怪訝な顔は別なものに向けられる事になった。

「それより、この馬鹿みてェな腹の音は何だ?」

リヴァイさんの言った言葉が、ちょっとよく分からなかった。だけど数秒後にハッと、この小屋の中から聞こえてくる音の事を言ってるんだって気付いて「えっ?!」って声を上げる。

「これお腹の音なんですか?!なんか猛獣的なのの鳴き声じゃないんですか?!!」
「は?いや、これはどう聞いても腹の音だろう。」
「えぇー?リヴァイさんの耳・・・って言うか感覚可笑しいですよ。」

どういう感性を持ってるとこれがお腹の音になるんだろう・・・リヴァイさんって時々こうなんだよなあ。そう思いながら、その音の出所の小屋を見てみれば、扉の部分に『本日 正午 二次試験スタート』って書いてあるのが見えた。それにスマフォの時計を見てみれば、・・・・・・あ、もうすぐだ。

思った直後。ギギ・・・っていう音と一緒に扉が開いた。開いて、よろめいた。・・・う、うそだ・・・

「どお?お腹は大分すいて来た?」
「聞いての通り、もーペコペコだよ。」
「そんなわけで、二次試験は料理よ!!」

もはや人の大きさじゃないおっきい男の人と、その人の前に置かれたソファーに座るお姉さん。そのお姉さんが「美食ハンターのあたしたち二人を満足させる食事を用意して頂戴」って言った言葉も、もはや気にならない。し、信じられない・・・本当にお腹の音だった・・・!

ちらり。横目でリヴァイさんを見れば、どうだ。って言わんばっかりの顔を返された。返されたけど・・・いや、凄いけど。・・・・・・あれがお腹の音に聞こえるのは、「ぜったい、変。」「あ?」「なんでもないです。」リヴァイさんって、変。ぜったい。
<< Back Date::130925 Next >>