アンティークトルソー
「そいつは偽物だ!試験官じゃない、俺が本当の試験官だ!!」

なんか突然現れた男の人がそう言ってサトツさんを指差して色々言ってるけど・・・それはあんまり気にしないでグーグルアースを開いて、今の地図を開いている状態から設定を"ナビ"に変更して、取り敢えずサトツさんを『目的地』に設定する。こうする事で、仮にサトツさんから離れても私のいる『現在地』から『目的地』までこのグーグルアースがちゃんとナビをしてくれる。霧凄いから迷子になると困るし。そう思ってスマフォを弄ってた私に、隣にいたリヴァイさんが訝しげな声で私を呼んだ。「おい、・・・」

「ありゃぁなんて生き物だ?」
「いや、なんてもなにも・・・普通に人に化けられる魔獣ですよ。あの猿の方にも知性があるから全く別の種族とも共闘出来るわけですね。怖い場所ですねー。此処、ザバン市からたったの100kmしか離れてないんですよ?」
「そういやそうだったな、・・・おっかねェ世界だな。」

リヴァイさんの言葉に「本当ですねー」って答えながら・・・ん?って思う。でもリヴァイさんの所では100kmどころか壁一枚挟んだ所に人を食べる巨人がいたんじゃなかったっけ?そっちの方が怖いんじゃないかな・・・言えば、「それもそうか」って納得されたけど。・・・なんて離してる内に、現状に変化が訪れた。

突然視界の端を複数の何か薄い・・・カード?みたいのが横切ったと思ったら、そのカードは真っ直ぐに4枚がサトツさんへ、3枚がさっき現れた魔獣に向かった。そして3枚のカードはさっきの魔獣の顔に・・・う、うわぁ。なんか、さくって・・・よくトランプでキュウリを切る、みたいな。そんな簡単さでもって突き刺さって、でももう片方の4枚は全部サトツさんに捉えられていた。

それを見て、一体誰がこんな事したんだろうってトランプが飛んできた方を見てみたら・・・最初に受験生の腕を切り落としてた、えーと・・・あ、ヒソカだ。ヒソカくんが、なんかよくマジシャンの人とかがするみたいにトランプの束をシャーって右から左にやってた。そうして「くっくなるほどなるほど」って笑うと、魔獣が殺されちゃったのを見て今まで死んだふりをしてたあのサトツさん似の猿が逃げ出した。だけどヒソカくんはその猿にもまた同じようにトランプを放った。

そうしてそれに猿が死んじゃったのを見届ける事無く、「これで決定」って、サトツさんが本物の試験官だって言ったけど・・・ヒソカくん、初めから気付いてたんだろうな。リヴァイさんも同じ事思ってるのか、すごーく嫌そうに顔しかめてる。

「試験官というのは審査委員会から依頼されたハンターが無償で任務に就くもの我々が目指すハンターの端くれともあろう者が、あの程度の攻撃を防げないわけがないからね
「・・・えっ、あの人ってハンターだったんですね!」
「褒め言葉と受け取っておきましょう。しかし、次からはいかなる理由でも私への攻撃は試験管への反逆行為とみなして即失格とします。よろしいですね。」
「らしいな。後でライセンス使った効率のいい就活の仕方でも聞けると良いが・・・」

サトツさんとヒソカくんの言葉に吃驚して、でも空気を読んでひそひそとリヴァイさんと会話をする。なんか近くにいたゴンくんとキルアくんが不思議そうな顔と怪訝そうな顔を向けて来たけど、だ、大丈夫かな・・・後で時間できたらお話聞けないかな・・・サトツさんの言葉に「はいはい」って笑うヒソカくんを尻目に、ひっそりとそんな事を思う。と、ヒソカくんが殺した魔獣の死体に、何処からともなく大きい鳥が何羽も飛んできた。その鳥は一気にその死骸に群がると、したいの肉にくちばしを突き刺し肉を引きちぎり、みるみるうちにそれを飲み込んで行った。うわぁ、これはエグイなあ。

「あれが敗者の姿です。私を偽物扱いして受験者を混乱させ、何人か連れ去ろうとしたんでしょうな。こうした命がけの騙し合いが日夜行われているわけです。何人かは騙されかけて私を疑ったんじゃありませんか?」

周りの反応を見れば、案外騙されかけた人も多かったから案外ヒソカくんファインプレーだったのかな、ってひっそり思う。けど、直ぐにでもヒソカくんのあれはどちらかというとサトツさんにちょっかいかけたかっただけなのかなあって思いなおす。・・・うん、でも結果オーライか。そうして、ようやくこの場所から移動するらしい。サトツさんの「それでは参りましょうか、二次試験会場へ。」って言う言葉に、ぞろぞろと受験者達が動き出した。のを、見送りながら。

「ちっ・・・汚ねぇな。」

リヴァイさんが顔を歪めてぼやいた。その視線の先にあるのは、受験者の人達がコンクリートで固められたこの地下通路付近の地面から、ぬかるんだ土の上へ移り、その泥が走る度にズボンとかに跳ねてる光景だ。そんなリヴァイさんに視線を向けて、私はわざとにやにやした顔を作った。そしたらリヴァイさんは仕方ねェなって顔で1回溜息を吐くと、周りの受験者の人が全員走り去ったのを確認してから「後ろ向け」って言って私が後ろを向いてから私の背中に手を乗せた。刹那。

音もなく私の服の上から至る所・・・身体の足や腰、そして背中から胸や両脇にまでベルトが巻かれ、腰の両脇にはワイヤーの射出機や、無数の剣の刃を収納している箱型の鞘と、そこに付属するカードリッジ式のガスボンベ。      リヴァイさんが、元々いた世界で使っていたっていう"立体機動装置(りったいきどうそうち)"が瞬時に装備された。・・・因みに、服装も今リヴァイさんが来てる兵装?になった(クラバットはないけど)。
これはまぁ、当然リヴァイさんの念能力なわけだけど・・・・・・・・・いつの間にかリヴァイさん、自分も立体機動装置装備してる。

「よし、とっとと行くぞ。もうナビは動かしてるな?」
「はい、ばっちりサトツさんに『目的地』設定しました。」
「霧が濃い、逸れるなよ。俺が迷子になる。」
「あはは、その時はちゃんと見付けてあげるから大丈夫ですよー。」

のんびりしてる間に、周りに誰もいなくなっちゃった。サトツさん歩くの早いなー・・・なんて思ってから、とっとと追い付こうと私達も行動を開始する。

両手に剣を持って、その剣の柄に設置されてるトリガーに手をかける。このトリガーはこの立体機動装置の操作装置も兼ねていて、そのトリガーを引くと、アンカーが付いたワイヤーが射出機から噴射される。そうしてそのアンカーが遠くの木に突き立てられてから、今度はこのワイヤーを高速で巻き取りガスを噴射する事で空中を移動する。走る速度よりも圧倒的に早いこの立体機動装置なら、直ぐに前を行くサトツさん達に追い付く。

地面には足を付かず、木と木の間を空中を飛ぶ事で移動しながら、スマフォのナビを確認していたら、目的地のサトツさんまでの道の間に見付けたものに、「ぁ、」って声を上げちゃった。それにリヴァイさんが怪訝に「どうした?」って聞いて来たけど・・・不意に遠くから聞こえてきた"音"に、リヴァイさんが眉を寄せた。

「あの、えっと・・・いや、」
「なんだ、言え。」
「あの、列の後ろの方の人達が、・・・別の道に、逸れて・・・」
「・・・それでこの音か。」

聞こえてくる、爆音、悲鳴、そして肌を刺す殺気。私達は真っ直ぐサトツさんの列に向かってるから間もなく着くけど・・・チラ。リヴァイさんの顔を覗き見れば、難しい顔を見付ける。リヴァイさんはその顔のまま「此処の生き物の危険度はどの程度のもんだ?」って静かに聞いて来たけど、それに素直に「・・・まぁ、人を、食べる生き物な訳ですからね。」って答えれば、少しの沈黙の後、

「・・・・・・・・・チッ」

舌打ち。そんなリヴァイさんに見えないように、私はへにゃって顔を崩した。でもしっかりリヴァイさんに気付かれてたみたいで、「おい」って睨まれちゃったけど・・・でも今はそんな事気にしなかった。やっぱりリヴァイさんは優しい。優しい、素敵な人。そんな人に拾ってもらえて、私、本当に幸せだなあ。思えば、こんな状況でもやっぱり緩んだ顔は中々引き締まらなかった。そんな私にリヴァイさんはまた1度舌打ちをすると、近くの木の枝の上に着地して問う。

「受験者はどっちだ?」
「・・・結構バラけちゃってますね。それでも生存者が多い方は、」

言いながら、私もまたリヴァイさんの隣に着地してスマフォの画面と、実際の方角を指差しながら言う。「あっちと、あっちです。あっちの方はもうサトツさんのいる所より地下通路の方が近いです」そう言って画面をスライドさせていくけど・・・本当に皆結構バラけちゃってて、全員を道に誘導する事はもう不可能だ。だから生存者がより多い・・・助けられる人数が多くなる取捨選択をした私の言葉にリヴァイさんは「そうか」って短く答えただけだったけど、ぽんって1度頭を撫でられた。

「二手に分かれるぞ。俺は地下通路に近い方へ生き残った奴等を誘導する。お前はそっちの集団を列に戻せ。」
「分かりました。」

言いながら、スマフォの目的地を『サトツ』さんの他に『リヴァイ』さんも設定しておく。こうしておけばリヴァイさんが何処にいても電話で私の場所まで誘導できる。そんな事をしてる私の横で、ぽつり。リヴァイさんが・・・なんか、ちょっと不穏な感じの声を出した。「・・・確か、」

「後列にはあの気味の悪い奴がいたな。」
「え、誰の事ですか?」
「最初に受験者の腕を切り落としていた奴だ。・・・ヒソカ、つったか。」
「あぁ、そういえばやたらリヴァイさんのお尻見てましたよね。」
「うるせェ止めろ思い出させるな、気持ち悪ぃだろうが。」

本気で気持ち悪いって顔をして鳥肌を立てて腕をさすったリヴァイさんに謝った。確かにあれは、傍から見てても物凄く気持ち悪かった。物凄く不気味だった。あの時のあのヒソカくんの雰囲気とかを思いだしながら、だけどはて、と思う。でもどうして顔とかじゃなくってお尻見るんだろう。・・・、

「そんなに良い形だったんですかね、リヴァイさんのお尻。」
「いや、ケツじゃねェ。」
「え?お尻見られてたんじゃないんですか?」
「いや、目的はケツでも判断基準は・・・・・・・・・いや、ケツだ。忘れろ。」
「は?」

何言ってるんだろうリヴァイさん。思ったけど、なんかリヴァイさん、本気で気持ち悪いって顔してるから言うのは止めておいた。それから一応リヴァイさんのケータイに今私の見てる地図の画像を送信する。ただ人のケータイに送れるのはあくまで『現在地』と『目的地』が表示されてるだけの地図画像であって、目的地    それも今回の目的地は"人"っていう動く場所    までのナビ機能はないから、そこはリヴァイさんの技量と勘にかかってくるけど。まぁ・・・リヴァイさんなら問題ないと思う。
思いながらリヴァイさんを見れば、たった今私が送った地図の画像を眺めてからす、っと。今度は私の方へ視線を向けた。

「一応、この試験には死ぬ覚悟を持って臨んできた奴等だ。俺等が義理を持つ必要はない。無茶はするな、可能な限りで動け。シャッターは下りちまってるが、俺はあの地下通路の所まで誘導したら連絡する。お前は俺が戻るまでにと列に誘導する手筈を整えておけ。」

言われた言葉に頷く。つまり私の仕事は、リヴァイさんが戻ってくるまでの間に列から逸れた1人でも多くの受験生を集めておけって事だ。そういう細かい人集めはグーグルアースのある私の方が効率がいい。・・・って言っても、私も逸れた人全員を見付けられるわけじゃないんだけど。・・・・・・・・・気の毒だけど、この世界ってこういう物騒な感じの事多いし、諦めてもらうしかない。ふ。小さく息を着いた私に、リヴァイさんが言葉と続けた。「あとな、」

「分かってると思うが、ヒソカとは極力戦うなよ。」
「あ、はいそれは勿論。近くにいたら即座に隠れます。ちゃんとグーグルアースにも『注意報』設定しといたので大丈夫です。」
「・・・・・・・・・まぁ。お前なら億が一にも見つかる事はないだろうが、気をつけろよ。」

私のスマフォの中でも特に便利な機能の一つだ。大雨警報とか竜巻警報とか、そんなのみたいなもの。私が設定した『危険物』って人が近くに来ると注意報が発動して何処にいるかを即座に知らせてくれる機能。勿論その注意報は無音で、私にだけ分かるように振動してくれるようになってる。その危険人物一覧の1番上に『ヒソカ』って名前が表示されてるのをリヴァイさんに見せれば、微妙な顔されたけど。えっへん、念能力の中でも絶だけは自信あるからね、私。それ以外はそんなにだけど。

そんなやりとりをしてから、だけどす、と気を引き締める。そうしてリヴァイさんの「行くぞ」っていう声を合図にお互いの右こぶしをぶつけ合うと、同時に私達は別の方向へ立体機動装置のワイヤーを飛ばした。
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