捩じれた言い種
「さて一応確認いたしますが、ハンター試験は大変厳しいものもあり、運が悪かったり実力が乏しかったりするとケガしたり死んだりします。先程の用に受験生同士の争いで再起不能になる場合も多々ございます。それでもかまわない      という方のみ、着いて来て下さい。」

前を歩く髭の人にぞろぞろと受験者の人達が付いて歩く中。・・・えぇ?やっぱりハンター試験ってそんな感じなんだ・・・それは、かまうでしょ。よくはないよ・・・いや、受けるんだけど。思って入れば、「承知しました。」って言うあの髭の人の声。「第一次試験404名、全員参加ですね。」・・・へぇ。受験者って404人もいるんだ。結構多いなあ・・・どのくらいの人が合格できるんだろう?・・・・・・100人くらいかなあ?もうちょっと少ないかな。考えてる内に、段々と歩くペースが速まって行く。

「申し遅れましたが、私、一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内いたします。」

・・・ん?言われた言葉に首を傾げれば、「二次・・・・・・?って事は一次は?」っていう、私の心・・・っていうか、他の人達の心を代弁したかのような言葉に「もう始まっているのでございます」って答えた髭の・・・あぁ、いや。サトツさん。サトツさんは、最初の歩くペースから走る早さにその速度を変えて言う。

「二次試験会場まで私に着いて来る事。これが一次試験で御座います。」

その言葉を聞いて、ちょっと眉を下げた。・・・えぇー?そう言う事なら自転車とかバイクとかそう言うの持ってくればよかったかもしれない。はぁ、溜息を吐けば、「おい、迷子になるなよ」って、この密集して走る集団の中でリヴァイさんが言う。確かに、これだけ人が多いと油断したらはぐれちゃいそうだなあ・・・思いながら「はーい」ってだけ返事を返す。にしても、

「場所や到着時刻はお答えできません。只私に着いて来ていただきます。」

ハンター試験って本当不思議だなあ。最初は筆記テストか何かだと思ったのに、次の会場に向かうだけのテストなんて。確かにこれはハンター試験についての資料を探しても見つからないわけだって納得した。
・・・って、言ってたけど。スマフォで時間を確認すればもう既に3時間は走ってるし、流石にこれは長過ぎな気がする。そう思ってはぁ〜って盛大に溜息を吐けば、隣を走ってたリヴァイさんがちらって視線を向けて来た。それに何かと思えば、「おい。この道あとどれくらい続いてるのか調べろ。」って言われて瞬いた。だけど直ぐに言われた言葉を理解して「え?あ、はい。」って答えてポケットからスマフォを出す。で。

「じゃーリヴァイさん肩車して下さい。」
「・・・・・・・・・」
「いやそんな嫌そうな顔しないで下さいよ。私の身長じゃ通路の奥までちゃんと写真撮れないじゃないですか。」
「・・・・・・・・・チッ、とっとと乗れ。」

物凄く。そりゃぁもう物凄く嫌そうに顔をしかめたリヴァイさんは、だけどわざわざ立ち止まってくれる気配は見せない。それにまぁ、そうだよね・・・って思いながら、馬跳びの要領でリヴァイさんの両肩に手を付いてそのまま身体を持ち上げて、その勢いのままリヴァイさんの両肩に自分の両足をひっかけて肩車完成。・・・でも、本当結構勢い付けて飛び乗ったのに全然動じないな、リヴァイさん。いや、不機嫌そうではあるけど。

リヴァイさんの小さい頭のてっぺんに両手を付きながら、私達の事をギョッとした眼で見る周りの受験者さんを見下ろしてそんな事をぼんやり思ってたら「おい、俺はタクシーじゃねェぞとっととしろ」ってドスの利いた声が上って来た。あ、はいごめんなさい。謝ってから、パシャ。両腕を目いっぱい持ち上げて、このトンネルの奥の方までの写真を撮る。そうしてザッと見トンネルの写真だな、って程度の写真が撮れてる事を確認してからリヴァイさんから降りて、アプリ『グーグルアース』を開く。

そうすればその写真の上から、この写真の・・・このトンネルの地図が表示される。このトンネルの長さ、広さ、形は勿論、この場所が世界地図の中の何処に位置する場所なのかも。

      本来、当然ながらスマフォにこんな機能はない。
場所の写真を撮っただけで、その場所の詳細なデータが直ちに分かるような機能、ある筈がない。勿論カメラに映しただけでその写した人物のプロフィールを表示させる機能も、その食べ物に使用された原材料や成分を表示させる機能も。この、主に地図機能に特化したアプリ『グーグルアース』は、名前の由来こそ本家からだけど、これは私の念能力だ。
他にもいくつかあるけど、食べ物関連の物なら『クックパッド』、人物とかのプロフィールになると『ウィキペディア』って具合だ。

わざわざ私がリヴァイさんに肩車してもらったのは、まぁ…簡単な制約で、写真をパッと見た時にそれが『場所の写真』だって判断できる程度の写真を撮らないとちゃんとした位置とか距離が分からないからだ。私の身長だと受験者の人が大量に映り込んで、場所というより『受験風景』の写真になりそうだったから。・・・思いながら、写真に表示されたデータをぼんやり見下ろして言う。

「えーと、・・・大体60kmって所ですね。トンネル自体は全体で100kmあって、既に40kmは進んでるので。・・・あっ、げぇ。でも最後の20km階段に変わってますよこれ。」
「・・・この世界の人間ってのは100kmくらい余裕で動けるって事か、気持ち悪ぃな。」
「次の会場に向かうだけって言ってましたもんね、やっぱり凄いですねー。」

凄いですねーとか言ってるけど、正直。日本にいた頃の私なら、40kmなんてとてもじゃないけど走れなかった。しかも3時間でなんて益々不可能だ。だけど今それが出来ているのは、この世界に来て身体の作りが大幅に変わったからだ。

と言っても、この世界に着て突然飛躍的に身体能力値が上がったわけじゃない。突然、劇的な変化があったわけじゃない。此処までなるのには相応の努力が必要だった。だけど、そんな事は当り前だ。当り前じゃなかったのは、この世界に来て、鍛えれば鍛える程・・・まるでゲームで経験値を積んでレベルが上がって行くみたいに成長が止まる事無く進んだって言う事だ。普通、人の身体って言うのはどんなに鍛えてもそこに限界は来る。成長は止まる。でも、この世界では違うのだ。

鍛えれば鍛える程、強くなる。実際に限界はあるのかもしれないけど、今現在もの経験に見合っただけ成長してる。そして実際、リヴァイさんの馬鹿みたいな修行のお陰さまを持って、今私は私がいた世界の常識ではありえない程の身体能力を得てる。

・・・それがちょっと嫌だなあ、とは、言えないけど。本当、リヴァイさんに拾われてから凄い扱かれたもんなあ。そのお陰で今私が生きてると思えば・・・感謝すべきなんだけど、いや、感謝はしてるけど。・・・でもちょっと・・・女の子として、この体力はなあ。便利だけどなあ。ううんって、ちょっとモヤモヤしてる私の横で、涼しい顔で走るリヴァイさんがぼやく。

「馬でも買ってくればよかったな、面倒臭ェ。」
「えぇー?馬より車の方がいいですよ、あとバイクとか。」
「馬鹿言え、あんなおっかないもんに乗れるか。鉄の塊だぞ、あれ。」
「えぇ?絶対馬の方が怖いですよ、落馬とか。・・・・・・あ。そう言えばリヴァイさん、昔飛行船乗るのも怖がってましたもんね。」

言えば、「煩ェ。」って決まり悪そうに、ちょっとだけ不貞腐れたような返事が返ってきた。そんなリヴァイさんに笑いそうになったのを堪えて、でもあの時の事を思い出す。「こんな風線みたいのに人間が乗れるわけねェだろう、殺す気か、って・・・・・・ふっ、」言いながら、とうとう耐えきれなくなって笑った。あ、あの時のリヴァイさんは面白かった。顔色もちょっと悪かったし、冷や汗まで流してた。
聞けば、リヴァイさんのいた世界は、あまり科学技術が発達していない世界だったらしい。移動手段って言ったら徒歩か馬って言うのが主流だったって話だ。だからこの世界で飛行船を初めて見た時は随分驚いたらしい。・・・驚いて、絶対一生乗らないって心に決めたらしい。だから私を拾うまではずっと移動って言ったら船か電車だけだったって言ってた(電車に乗るのにもかなりの覚悟を要したって言ってたけど)。・・・「ふ、ふふっ」、だ、ダメだ・・・考えれば考える程笑えて来た。

「・・・・・・おい笑うな、俺は真剣だったんだぞ。」
「ふはっ、あははっ、だ、だから面白いんじゃないですか・・・ふっ、く・・・」

あ、ダメだ本笑いになって来た。・・・「あ、あはっ・・・」パァン!「いたい!!」打たれた。後頭部ひっぱたかれた。とっても良い音した。周りにいた・・・なんか禿げてる・・・あぁ、いや、坊主の人がぎょっとこっちを見て着た。叩かれた場所を撫でながら恨めしげにリヴァイさんを睨め付けたけど、素知らぬ顔で無視された。酷い。・・・と。不意にリヴァイさんが私の方へ振り返った。

「おい、一応聞いておくが、大丈夫か?」
「100km走ですか?いや、まぁ・・・多分?」
「お前な・・・まぁいい。無理そうなら早めに言え。」
「おんぶでもしてくれるんですか?」
「馬鹿言え、立体機動装置貸してやるっつってんだ。」
「あ、成る程。」

言われた言葉に納得する。隣を走る、特に何の荷物も持っていないリヴァイさんの、だけど立体機動装置って言う道具はリヴァイさんがいた世界で彼自身が使っていた"巨人と戦う機器装備"だ。確かに前に進むだけならこの狭いトンネル内でも立体機動装置はちゃんと機能するし、それを使えば殆ど労力も無く進める。

それを思って、・・・あ、じゃぁとっとと限界ですって言っちゃおうかなって怠け癖をいち早く見抜いたリヴァイさんが、「適当な事言ったら置いてくからな」って睨みつけて来た。・・・「いやだな、そんな事言うわけないじゃないですかー」残念。・・・でも、本当多分、としか言えない。正直100kmって分かった所で、走るとどのくらいに感じるのかとか全く分からないし。そんな事を思いながら走っていたら、

絶対ハンターになるんじゃー!!くそったらァ〜〜〜!!

突然そんな大声が後ろの方から聞こえて来てびくっ!って震えた。・・・結構後ろの方から聞こえて着た声だと思うけど、トンネル内に反響して結構大きく聞こえる。それに後ろを振り返ってみたけど、受験者の列の割りと前側にいる私にはその姿は確認出来なかったけど。・・・・・・・・・そっか、

「・・・なんか、やっぱりこの世界の人も100kmは辛いみたいですね。」
「一応同じ人間だったんだな。化け物と走ってる訳じゃなくて安心したな。」

本当ですねー。あははって笑いながら言った私に、だけど少ししたらリヴァイさんが深い気に顔を歪めた。それに何かと思えば、「・・・湿った空気が気持ち悪ぃ、前行くぞ。」との事。・・・確かに、結構密集して走ってるから、他の受験者の人達の汗とか息で蒸し暑い。しかも私(達、とは敢えては言わないでおくけど)の身長だと周りの人達に囲われて、尚の事それを感じる。意識したら何だか私の方までそれをちょっと不快に感じて来て「あ、はーい」って答えると同時に走る速度を速めた。



・・・その時、私達は気付かなかった。走りながら突然肩車をし出す、息一つ乱さず呑気に喋りながら走る、汗も流さずペースを速めて先頭へ向かう。(オメーらの方がよっぽど化け物だっつの!!)っていう、他受験者達の心の声に。
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