トロイメライ中継信号
あのエレベータの部屋を出て、なんか・・・凄く広くて長いトンネル?みたいな所に集まっている人達を見て、ひそり。「・・・リヴァイさん、」って名前を呼べば、す、って視線を向けてきたリヴァイさんに、やっぱりひそひそと小さい声で喋る。

「プロのハンター?って、ヤの付く仕事か何かなんですか?なんか物凄くガラ悪いですよ。」
「馬鹿言え・・・その手の奴等に信用なんてねェだろう。それに、そっちじゃなくて此処ではマフィアだろうが。」

あ、そっか。納得して、だけどガラが悪いって事については否定しなかったリヴァイさんにハッとして、グッと両手で拳を握る。「でもガラの悪さなら十分リヴァイさんも負けてないから大丈夫ですよ!」言えば、物凄く訝しげに「・・・まさかお前、俺に喧嘩売ってんのか?」って言われちゃったから、にこって笑っておく。「まさか、売らないですよ。ボコボコにされちゃうじゃないですか。」

そんな会話をしてると、なんかちっちゃい空豆みたいな人に「どうぞー、番号札です。」って言って2枚の丸いプレートを貰った。それに「ありがとうございます。」って返してから、そこに書かれた番号を見る。299番と、300番。因みにイルミくんは301番を貰ってたから、この番号はエレベーターを降りた順番じゃなくって、エレベーターに乗った順で渡されるらしい。

そんな事を考えながら若い方の299番をリヴァイさんに渡せば、瞬間物凄く嫌な顔をされた。それに何かと思ったら、「・・・こりゃ付けなきゃねんねーのか?」との事。言われて、ちょっと納得した。リヴァイさん、服に装飾付けたりするの嫌いだもんな。特に左胸。周りを見たら皆左胸にこれつけてるから相当嫌だったんだと思う。・・・うーん、悩んで、首を傾げながら「別に持ってればいいんじゃないですか?」って返しといた。
私の言葉に胸ポケットにその番号札をしまったリヴァイさんに倣って、私もまた番号札はポケットに入れておいた。入れながら、ちらっと番号札を渡してくれた人・・・人?の方を振り返る。あの人・・・・・・・・・。

「リヴァイさんリヴァイさん、もしかしてあの人が魔獣なんでしょうか。なんかあれ、ほら、コロポックル的な。」
「発育不良の奴に対して何て言い草だ、失礼だろう。」
「・・・・・・・・・あぁ、」
「何だそのその面はゲンコツ喰らわすぞ。」
「なんでもないです。」

リヴァイさんの右手に拳が握られたのを見て、さっと頭を両手でガードする。そんな事をしてた私達の・・・後ろ、っていうより頭上から「ははっ、仲がいいんだね君達」って声がした。それに何かと思って振り返ってみれば、壁を伝うパイプみたいなのの上に座ってる・・・なんか鼻が特徴的なおじさんがいた。その人達は「やあ」って言って右手を上げると、私達の方に降りて着た。

「俺はトンパ。新顔だね君達。」
「・・・・・・・・・」
「こんにちはー。」

右手を差し出されたからさっと握手をしたら、今度はおじさん・・・トンパさんの手がリヴァイさんに向けられる。・・・リヴァイさんはその手を数秒間睨みつけた後、自分の人差し指をトンパさんの手の平に、ちょん。本当に少しだけ触れさせて即座に離してささっとウェットティッシュでその指を拭った。・・・・・・・・・し、失礼すぎる。リヴァイさん的には握手拒むのも悪いしって事だったんだろうけど、これなら寧ろ握手拒んだ方がマシだ。しかもその上もう1枚ウェットティッシュ出して「お前も拭け」って言う始末だ、とんでもない。ほら、トンパさんもちょっと顔引き攣らせてるよ。

そんなトンパさんの目の前で、だけど渡された物は仕方ないから私も手を拭いて、それを確認したリヴァイさんは「おい行くぞ」って言い残してとっとと奥の方に歩いて行っちゃった。・・・・・・・・・、

「じゃぁ、そう言う事で。」
「え?あ、あぁ・・・あー、ちょっと待って。」

私もまたリヴァイさんの後を追おうとした時、そう呼びとめられて「なあに?」って振り返れば、す、と差し出された缶ジュース。それに数回瞬いてジュースとそれを差し出すトンパさんを交互に見れば、「お近づきのしるしに飲みなよ、あっちの彼にも。」との事。いかにもな人のよさそうな顔に、取り敢えず「はぁ、どうも」って答えて受けてっおいた。

で。それを手に人混みに完全に紛れちゃったリヴァイさんを、スマフォの画面を片手に探す。そしたら隅っこにちょこん・・・って言ったら打たれそうだけど、そんな感じで壁に背を預けて不快そうな顔をしてるリヴァイさんに駆け寄る。で、「リヴァイさーん、なんかジュース貰いましたよー」って缶ジュースを掲げれば、更に輪をかけて嫌そうな顔が返ってきた。

「貰うな、気持ち悪ぃ。」
「だって悪いじゃないですか。」
「悪いも何もねェ。絶対なんか入ってんだろ。よく言うだろう、タダでも水は飲むな、貰いもんなら酒でも飲むな、だ。」
「ええ?そんなのリヴァイさんからしか聞いた事無いですよ。・・・まぁ、飲まないですけど。」

流石にあの人は怪しかったし、そうじゃなくても見ず知らずの他人から貰ったものなんてそもそも気持ち悪くて飲みたくない。思いながら、だけど行き成り毒を盛られる理由が分からなくって「っていうか、何で行き成り毒盛られないといけないんですか?」ってその思いをそのまま伝えれ見れば、ちょっとだけ思案顔を作ったリヴァイさん。・・・、

「知らねぇ。一応何が盛られたのかだけでも調べてみろ。」
「はぁ、じゃぁそうしてみます。」

答えて、缶ジュースのプルタブを開けて、その中身を地面にちょこっと零す。で、『専用』の『アプリ』を開いてからその零れたジュースを写すようにスマフォのレンズをそこに向ければ、たちまちそこに表示される成分量。その上から表示された文字を順に見て行ってー・・・・・・・・・・・・・・・・・・、

「・・・・・・・・・」
「なんだ、何か入ってたのか?」
「下剤入ってました。」

スマフォの画面を見たまま無言を貫いていた私に怪訝に聞いたリヴァイさんに答えて、2人して押し黙る。でもなんか気まずいからと思って「しかも結構えげつない効力の。」って付けたしてみたけど、残念な事に状況は変わらなかった。・・・・・・・・・下剤、だよね、これ。死ぬような毒じゃないけどこれは・・・数日はトイレから離れられない効力って・・・さ、最悪だ。・・・・・・「あの、」

「ハンター試験って、大丈夫な試験なんですか?」
「いや、・・・分からん。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・まぁ、大丈夫だろう。ハンターつったら有名だしな。そんな怪しい試験じゃないだろう。」
「そ、そうですよね。大企業が早々変な事させないですよね。」

そもそも仕事じゃなくって、資格試験の段階でだ。ブラック企業って言ったって、まだ顧客段階の人間にまでそんなブラックな所を晒したら直ぐに叩かれる筈だ。・・・だよね?ちょっとした不安を抱きながら、だけどきっと大丈夫だって自分に言い聞かせて、取り敢えず今開いてたアプリを閉じる。

閉じて、でも暫く始まりそうにない試験に別の『アプリ』を開く。そうしてまたカメラのレンズをふらふらと・・・今度は受験生の人達に向けて動かしていく。そんな事をしてる私の横で、リヴァイさんもまたひょいっとスマフォに表示されたその画面を覗き込む。

「なんか面白い奴はいるか?」
「ん、んー・・・・・・・・・あ。さっきイルミくんの弟くん?らしき人発見しましたよ。」
「ほう、どれだ?」
「あのあれ・・・えーっと、あそこの99番の白髪の子です。『キルア・ゾルディック』ですって。」

言いながら、画面に映るその『キルア』くんにピントを合わせてズームさせると、スケボーを手に退屈そうにしてる男の子が一面に表示される。それを見たリヴァイさんはジッとそれを眺めて、「・・・似てねェな」ってだけ呟いた。確かに。「なんか色彩が間逆ですよね。あ、でもなんとなく目は似てますよ。」言って、目元を指させば、ス、と目を細めた。そうして「あぁ・・・確かに生意気そうな面してやがるな。」なんて言うものだから、いやいやリヴァイさんも負けてませんよ。・・・って言おうと思ったけど、やめておいた。

・・・っと。不意にリヴァイさんが「あ?」って声を上げた。それに何かと思ってリヴァさんの顔を見れば、ジッと画面の中のキルアくんを見つめてる。「なんですか?」聞けば、やっぱり画面から眼を逸らさないまま、声だけを返される。

「いや・・・なんか・・・見た事ある気がするな。」
「え、またですか?リヴァイさん顔広いですねー。」
「そうでもない。それに単にイルミに似てるからそう感じるだけかもしれん。」

言ったきり、もう考えても思いだせないって判断したのか、ふいって視線を逸らしたリヴァイさんに「へえ」っとだけ返しておいた。そうして私もまたキルアくんから画面を移して、また面白い人いないかなーってスマフォの画面を色んな所に向けていた、時。

ぎゃあぁ〜〜〜っ!!!
なんかすごい悲鳴が聞こえて来て、思わずびくっと震えた。それに何かと思ってそっちを向けば・・・・・・うえ、気持ち悪い。なん
か、うん。両腕が胡瓜みたいにすぱっと無くなってる男の人と、その人の目の前で「アーラ不思議 腕が消えちゃった タネも仕
掛けもございません 」とかって言ってるピエロっぽい人。・・・、

ヒソカ[変化系能力者]24歳独身。身長187cm、体重91kg、B型。・・・へぇ。イルミくんとあんまり身長変わらないのに、こっちは随分重たいなあ・・・あ、でもあの体格なら良い所か。スマフォに表示されたデータを見て、遠目に本人を見て、だけど陽気に
「気をつけようね 人にぶつかったら謝らなくちゃ 」なんて言ってるヒソカくんには取り敢えずあんまり近付かないようにしようって
決意する。決意して、・・・ちらり。隣のリヴァイさんを視線だけを送る。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ハンター試験って大丈夫な試験なんですか?」
「言うな。あれだ・・・きっとSPや軍人みたいな、・・・なんかそう言うのに入りやすい資格なんだろう。俺の所でも訓令兵が死ぬ事は珍しくなかった。それに、何のリスクも冒さずにあんな都合のいいライセンスを取得する事は出来ないと言う事だ。多分。」

最後の多分が心もとないなあ、とっても。そう思ってはぁ、って溜息を吐いた時、このトンネル内にジリリリリリリリ・・・っていう、目覚まし時計みたいな音が響いた。その音源の方を向けば、なんだか執事みたいなみなりをした素敵な髭のおじさんがいた。その人は壁のパイプの上で目覚ましの音を止めると、私達受験生の方を見る。

「只今を持って、受付時間を終了いたします。」

その瞬間、辺りの空気がピーンって張り詰めたのが分かった。・・・それにえ、って思うのは私とリヴァイさんだ。え、なに?そんな緊張感持たないといけない感じの試験なの、これ。どうしよう、やっぱり前勉強しないで来たのって舐めてたかな。1年に1回しか無い試験だって言うし、きっとこの試験受けにくる人達って皆、1年もう勉強して来た人達なんだろうな。試験会場の場所すら人から聞いて此処まで来た私達って、もしかして物凄く場違いなんじゃないだろうか。

そう思ってリヴァイさんに視線を送れば、なんか・・・おんなじこと考えてそうなリヴァイさんの視線とぶつかった。・・・い、いや、うん。でも折角此処まで来たし、受けるだけ受けてみよう。ライセンス欲しいし。

「ではこれよりハンター試験を開始致します。」

その言葉に、髭の人はパイプの上から床に降りると、「こちらへどうぞ。」って言ってトンネルの奥へ歩いて行った。
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