左は握手しない方
ノック音の後、さっきの店員さんが「すいませーん、相席お願いしてもいいですか?」って入ってきたから正面のリヴァイさんを覗き見る。・・・ちょっと嫌そうな雰囲気はだしてるけど、仕方ないって顔かな、これは・・・分かんないけど。だから「あの、リヴァイさんいいですか?」って聞いてみたけど、ちょっと長い沈黙の後に「・・・・・・チッ」って舌打ち返された。から、「あ、大丈夫ですー」って店員さんに返した。

返して、店員さんが私達にお礼を言ったのを聞いてから食事を再開した私達の耳に、ドアの外から店員さんの「お客さんどうぞー」って声が聞こえて着て、間も無く。扉の外からガチャッて鍵が閉まるような音がした。そしてその後直ぐにウィ〜ン・・・って、この部屋が動き出した。多分、エレベーターが下がって地下に向かってるんだと思う。思って、さっき入って来た人の方に顔を向けてー・・・・・・・・・!!?

「ッ、ぅ゛・・ゴホッ!!」
「ぐッ・・・ッッ!!」

噎せた。しかも2人で(いやリヴァイさんはギリギリ耐えてたけど)。慌てて椅子から降りて向かいの席のリヴァイさんの方に駆けてその腕を掴んで、入って来た人から2人して背を向けて背を丸めた。脳裏にべったりと張り付いているのは、なんか主に顔とか首にちょっと刺すにはあり得ない太さの針をブスブス突き刺している来訪者の姿だ。恐ろしい。

「りりりりばッリヴァイさんっ、ちょ、あれ何ですか化け物ですか?おばけですか?!おばけですか!!?」
「馬鹿言うな。お、おばけじゃねェよ、相席頼まれただろうが。それに見ろ、足もちゃんと生えてんじゃねェか。・・・生えてんだろ?」
「え、いや、みてないですけど・・・で、でも生えてましたよ、ね?」
「・・・お前、ちょっと振り返って確認してみろよ。」
絶っっ対いやですよ!!
「おまっ、吃驚しただろうが。急にデカイ声出すな、後な、あんまり刺激するんじゃねェよ。呪われたらどうする。」
「あのさぁ。盛り上がってる所悪いけど、俺、ちゃんと足生えた人間だよ。」

びくっ!後ろから聞こえて着た声に震えた。ギギ、って音がしそうなくらいぎこちない動きで振り返る。な、なんか思ってた声と違った。なんか思ってたより普通に人間の声だった。なんかもっとこう・・・ガラガラごろごろした声だと思ってた。・・・っていうか、やっぱり見間違えじゃなかった!思いながら、ついさっきこの部屋に入ってきた人・・・人?いやいや、なんか気持ち悪い針だらけの人にビシッ!っと指を向けた。

「う、うそだ!!」
「そうだ、お前みたいな気持ち悪い人間いてたまるか。・・・あれだ、あれ。お前、あれだろ、魔獣だろう。」
「それだ!!」
「いや、だから人間だって。・・・いや、でも意外だなあ。リヴァイ、お化けとか怖かったんだ。」
「バカ言え。戦っても勝てなそうなもんは誰だって怖いだろうが。・・・・・・あ?お前何で俺を知ってる。」

絶対人間じゃない!顔色が生きてるとは思えないようなあり得ない色してるし、なんかほら、あれ!フランケンシュタインとかそんな感じだもん!思いながら言った私とリヴァイさんの言葉に冷静に人間だって言ったその人は、何故かリヴァイさんの名前を知ってた。・・・どころか、なんかちょっと知り合いみたいな雰囲気だしてる。
それにギョッとリヴァイさんを仰ぎみれば、1度知らねえよって言わんばかりに首を振ってから、だけど直ぐに思案顔を作った。

「いや、待てよ・・・その声、聞いた覚えがあるな。」
「えっ・・・ちょ、リヴァイさん・・・こんな特徴ある・・・・・・・・・ひ、ひと?忘れるとか、ちょっと・・・ボ「あ゛?」「ごめんなさい。」

謝った。去年の夏にゴキブリが出た時みたいな眼で睨まれた。・・・因みに名誉の為に言うと、ゴキブリが出たのは私達の所為じゃない。私達の部屋はこの上なく、そりゃぁもう馬鹿じゃないかなって言いたいくらい綺麗にピカピカにしてある。ゴキブリが生息する余地なんて無いくらい。それでも出たのは、隣に住んでる人の所為だ。滅多に部屋に帰らないらしいその人には今まで1度も会った事無いけど、それ程清潔に保ってる訳でもないらしいその人の部屋でゴキブリが発生した。で、私達の部屋に遊びに来ちゃったわけだ。

・・・あの時はリヴァイさん、怖かったなあ。なんて。たった今睨まれた形相にすすす、とリヴァイさんの隣から気持ち離れた。だけどそんな私の横で未だに眉間に眉を寄せて思案してるリヴァイさんを見て、自称人間らしい針だらけの人が言う。

「いや、まぁ分かんなくても仕方ないか。ちょっと待って。」

言った直後、何のためらいもなくその人は耳に刺さってた針を摘まんでズズ・・・って。なんか耳から引き出すには長過ぎるそれを引き抜いた。そのあんまりな光景に思わず「ひぃっ」って悲鳴を上げて、たった今離れたばっかりだったリヴァイさんの腕にしがみ付く。・・・嘘、盾にして隠れた。瞬間ギョッとしたリヴァイさんに睨まれたけど。

そんな私達をその人は意にも介さずに、1本、また1本と抜いて行くけど・・・抜く度になんかビキビキって顔から出るにはあり得ない音を出して、音以上にあり得ない感じに顔の皮膚なのか骨なのか分からないけど、兎に角顔がボコボコ浮いたり引っ込んだり蠢くそれに慄いた。きききっきもちわる!!本気で気持ち悪い!!リヴァイさんも真っ青だ。
そして最後の最後。黒くて長い髪の毛がバサッと何処からか現れて重力に従って落ちて・・・唖然とした。

「・・・イ、イルミ?・・・何って面してやがった、テメェ・・・ありゃあ。」
「何って、変装だよ変装。良く出来てたでしょ?」
「気持ち悪いな・・・飯が食えなくなっちまっただろうが。」
「お化け見るよりはましだと思うけど。」

さっきまでの喋り方と変わらず、平坦な声で喋るのは、さっきのどう控え目に言ってもお化けにしか見えなかったあの人だ。本当に、さっきまでは化け物顔だったのに・・・今はなんか・・・能面みたいな顔はしてるけど、してるなりに整った顔立ちをした男の人だった。年齢は・・・二十代半ばって所、かな?さっきの針だらけだった時はモヒカンだったその髪は、今はちょっと羨ましいくらいのサラサラストレート。・・・・・・・・・や、やっぱり、この世界って、変。
そんな事を考えながら、チラリとお肉に眼をやって・・・う、で、でも残すの勿体ないし・・・。思って、目の前の2人に視線を戻す。

「でも意外だなあ。リヴァイ、一般企業に就職したいとか笑い話してなかった?」
「笑い話じゃねェよ。だからライセンス取って就活するんだろうが。」
「・・・は?・・・・・・・・・あー・・・うん、いいんじゃない?ま、頑張ってね。」
「?あぁ、頑張る。」

・・・え?何だろう今の反応。リヴァイさんの言葉に微妙な反応を返した・・・えーと、イルミ?くん?に、凄い既視感を覚えた。なんか・・・私がハンター試験受けるって言った時、喫茶店で常連さんにされた反応にそっくりだった。それに1度瞬きをして、だけど取り敢えず私の分のお肉だけでも食べちゃおうって、大分無くなった食欲に鞭打ってナイフとフォークを動かした。そんな私に、イルミくんがくるっと視線を向ける。

「で?そっちの子が噂の愛娘ちゃん?」
「もぐもぐ、ごっくん。・・・えっ、いつの間にリヴァイさん私のお父さんだったんですか?あ、パパ?」
「おい、お前には俺がそんなに老けて見えんのか?こいつ等が勝手に言ってるだけだ。」
「いやいや鏡見て下さいよ、リヴァイさんは間違いなく童がー・・・あ、いや、あの、『等』って何ですか。」

童顔って言おうとした瞬間また睨まれて、別の気になる方に話を変えたけどすっかり臍曲げちゃったリヴァイさんは「別に」って言ったきり何も言ってくれなくなった。・・・・・・そんな私の事を、なんか・・・瞬き一つしないでなんか・・・ジッと見て来るイルミくんに、ちょっと居心地が悪くなる。そんな私に多分気付いてるけど気にしてないだけのイルミくんは、ようやく観察が終わったのか「・・・ふーん・・・」って声を上げて首を傾げた。

「なんて言うか・・・普通だね。念も使えないみたいだし。」
「まぁ、確かに普通だが・・・念能力者だぞ、コイツ。」

イルミくんの呟きにシレッと答えたリヴァイさんに、「え?」ってようやく1回だけ瞬いたイルミくん。・・・なんか・・・また凄い見られたから、私の方も対抗する為にちょっと食事を中断してスマフォを取りだして1枚写メっといた。それに不思議そうな眼を向けて着たイルミくんを無視して写真をするする動かして、未だに「だってオーラ垂れ流しだよ?明らかに一般人じゃん」とか「器用なんだよ」とかって話してる2人の傍らで、再び食事を再開させながらお行儀悪くスマフォに『表示された』データを見る。・・・

イルミ・ゾルディック[操作系能力者]24歳独身。身長185cm、体重68kg、A型・・・うわっ、おっきいおっきいと思ってたけど、イルミくんってリヴァイさんより20cm以上おっきいのに体重3kgしか変わらないんだ・・・やっぱりリヴァイさんって色々つまってるなあ。思いながら、口の中にあったお肉を飲み込んでからイルミくんを見る。

「お兄さん、名前なんて言うの?」
「イルミ・ゾルディック。」

実際聞いてみて、うわ、本当にあってるって密かな感動を覚えた。・・・覚えてたのに、「まあいいや。取り敢えず俺、これからギタラクルだから。」って言ってまた針をブスブス顔とか首とか色んな所に突き刺して、またビキビキとか変な音を立てる顔にその感動は一瞬にして冷めた。因みに食欲も完全に失せた。・・・あ、あと一口なのに・・・あ、後一口だけ、なんとか・・・

そんな葛藤をしてる私の目の前で、リヴァイさんなんて堂々と「気持ち悪ぃな」って顔歪めて舌打ちまでしてる。だけどそんなリヴァイさんの反応を気にした様子も見せず、イルミくんの方は「いやぁ」って呑気な声を出す。

「それが弟が母さんと俺の弟刺して家出しちゃってさー。ちょっと調べたらその弟、ハンター試験受けに着てるみたいなんだよね。俺も丁度仕事の都合でライセンス必要だったし、母さんに心配だから見守っててやってくれって頼まれたんだ。」

・・・ん?今ちょっと変な事言わなかったこの人。思ったのはリヴァイさんも同じだったみたいで、少しの沈黙の後。だけど「・・・・・・それであの変身か。」って聞いたのは多分、大人の対応って言う奴だ。でなきゃ只単に面倒臭くなっただけだろうけど。「いや、変装だよ。」って答えたイルミくんに、いや、今のはリヴァイさんの言葉の方が正しいと思うってひっそり思う。・・・と、

チンッ

その音と共に、この部屋の降下が止まってパネルに『B100』って表示された。そうして直ぐに開いた扉に、「あ、着いたみたいだね。それじゃ、またね。」ってとっととドアから出て行ったイルミくんに「あぁ・・・」って答えたリヴァイさんと、ばいばいと手を振った私のテーブルには、残されたお肉。因みに私のお肉は最後の一口だったから口に無理矢理ねじ込んだけど、余ってるのはリヴァイさんの分だ。・・・・・・・・・、「タッパーに入れてお弁当にします?」「やめろ、みっともねェ」・・・ですよね。物凄く申し訳ないけど、置きっぱなしにしとこう。
1度手を合わせてご馳走様をしてから、私達もまたこの部屋から出る。・・・出ながら、3歩先を歩くリヴァイさんに言う。

「・・・リヴァイさんのお友達、変わってますね。」
「友達じゃねェ、ただの客だ。」
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