みちゆきのしぐさで
「じゃぁ行ってくるね、エレンちゃん!家の平和と帰って来た時の私の平穏は全部君にかかってるからね!」
「おい、馬鹿やってねェでとっとと行くぞ。」

エレンちゃん・・・もとい、ルンバちゃんは、リヴァイさんが買ってきて私が命名した、お馴染み全自動お掃除機械だ。名前の由来はリヴァイさんが前に話してくれた、なんか良く分かんないけど『手足が無くなっても生えてくる』らしい男の子だ。その男の子の名前を、手も足もないルンバちゃんにに付けたのだ。瞬間微妙な顔されたけど。そのエレンちゃんに玄関先でぐっと両手で拳を作って言った私に、何やってんだって感じに眉を寄せて言ったリヴァイさんに「はーい」って返事を返して外に出る。そして鍵をかけてとっとと歩きだしたリヴァイさんの背中を追いかけた。

深い緑色の、背中に色違いの2対の翼があるマント。その下に着てる『調査兵団』っていう組織の物らしい団服に、首に巻かれたクラバット。いつものリヴァイさんの仕事着は、だけどこの世界では普通にこの格好で道を歩いていてもあまり違和感を覚えない。私がいた世界ではこんな格好してる人が歩いてたら二度見しちゃうけど・・・やっぱりジェネレーションギャップならぬワールドギャップって恐ろしいって思う。

そんな事を思いながらリヴァイさんの横に並んだ私もまた、喫茶店のバイトとは別にリヴァイさんの(結構動くような)仕事の手伝いをする時用の服だ。別に仕事でもないのに何でこんな恰好をしてるかって言えば、一重にハンター試験の試験内容が『死ぬかもしれない』って言う内容らしいからだ。だから昨日、「ならきっと身体動かすんだろ?動きやすい格好で行くぞ」、って事になった。ん、だけど・・・はぁ。嫌だなあ。死んじゃったらどうしよう。・・・・・・・・・いや、それでも行くんだけど。

「そう言や。試験会場は別の大陸なんだろう?到着まで何日かかるんだ?」
「順調に行けば4日後には着くみたいですよ。あ、ちゃんと席予約しときましたよ。」

言えば、「悪いな」って返されたからにこって笑っておく。それからポケットにあるスマフォを取り出して、昨日常連さんからメールが着て直ぐに調べた会場までの道のりと日程とかを書いておいたメモ帳を開く。「それで、えーと・・・」

「4日後にあっちの大陸に着いたら、更に2日って所ですかね。試験の日の2日前には会場のある町に着きますよ」
「ほう・・・そういや、その結局会場は何処だっつってたんだ?」
「えーとですね、ザバン市の『メシドコロ ゴハン』っていう所みたいですよ。えーと、向こう着いてからの行き方はー・・・」
「・・・おい、今のは俺の聞き間違いか?定食屋みてェな名前が聞こえたぞ。」

言われた言葉に、「まぁ、飯処『ごはん』ですからね。」って努めてシレッと答えれば、無言のまま何か言いたげな視線を向けられた。・・・けど、「ちょ、そんな顔しないで下さいよ。」私の所為じゃないよ。言ってから、昨日貰ったメールの画面を開いてズイッとリヴァイさんの顔の前に寄せる。

「一応私も変だと思って聞き直したんですけど、間違いないらしいですよ。なんかハンター試験って一般の人には此処でやってるよーって知られたくないみたいで。そこに行って合言葉言うんですって。」
「・・・・・・・・・まぁ、死ぬかも知れねェ試験らしいしな。あまり公にはしないか。」

言って、顔の前にあるスマフォを私の方に押しのけたリヴァイさんに「そうですねー」って返しながら、「えーと・・・住所は、ツバシ町2-5-10・・・」って、言いながらタッチパネルを操作して打ちこんでいく。

この世界に    少なくとも今現在は    存在していないこのスマフォは、私が日本から持って来た(・・・・・・・・・)物だ。最初は良く分からないけど、受信する電波か何かが違うのかメールもネットも何も出来なかった上に、充電器だって存在してなかったから全然使えなかったこれがまた使えるようになるには、大分紆余曲折あった。

1番最初はリヴァイさんの常連さんの知り合いの機械に強いって人にこれようの充電器を作ってもらって、だけどこのスマフォその物をこの世界に適用するように改造されるのだけは嫌だったから最初は本当に起動できるってだけだった。それが今こうして普通のケータイ以上に使えるようになったのは、こっちに着て覚えさせ・・・教えてもらった念能力のお陰だけど。・・・なんて事を考えてる短い間にもパッと表示された地図に、今度は画面だけをリヴァイさんに向けた。

「地図出ましたよー。飛行船降りてもザバン市直行のバスは目的地まで行ってくれないらしいので、近くの町まで乗ってから徒歩で直接向かった方がいいらしいですよ。ナビ付ければ迷子にもならないし、飛行船が物凄く遅れたりしない限り無事に着きます。」

でもその為に余裕持って来たわけだしね、多分大丈夫。そう言ってポケットにまたスマフォをしまった私を横目に見て、歩く速さを気持ち早めた・・・というより、戻したリヴァイさんにぼんやり優しいなあって思う。元々リヴァイさんの方が歩くペース早いのにいつも私に合わせてくれるし、さっきだって私がスマフォ弄ってるからって更にゆっくり歩いてくれたり、さりげなく道路側歩いてくれたり。なんて考えながら歩く私の横で、何考えてるのかよく分からないいつもの鉄面皮で呟いた。

「でも何で直行便が目的地に行かねえんだ?」
「常連さんは参加者を絞る為だって言ってましたよ。」
「バスは目的地に行かないわ、会場案内も大雑把で宛てにならねェわ。ハンター試験ってのはそんなに志望者が多いのか?」

聞かれた・・・っていうより、本当に多分言っただけなんだろうリヴァイさんのその言葉に「どうなんですかねー?」って答えながら、ようやく辿り着いた駅でリンゴーン空港までの切符を買う。・・・あー。もしハンターライセンス貰えたらこれもタダになるんだよね、いいなあ。

ガタゴト。電車に揺られて目の前に立っていた老夫婦に席を譲ったりとか、絶対吊革に手を伸ばさないリヴァイさんに内心ほくそ笑んだり、それがバレてほっぺた抓られたりしながらようやく辿り着いた空港。チェックインを済ませて待合ロビーの椅子に座って予約した便が来るのを待ちながら、不意にリヴァイさんが言った。

「そういや合言葉がどうとかいってたが、そりゃなんて言うんだ?」
「あぁ、合言葉ですね。合言葉は、"ステーキ定食"、」
「弱火でじっくりでお願いします。」
「あいよー」
「・・・・・・・・・」

1999年01月07日、ザバン市ツバシ町2-5-10にある定食屋店内。
昨日は1日此処の近くのホテルで1泊して、ハンター試験の開催日である今日この会場だって言われた場所に来て、教えてもらった『合言葉』を言ってみたけど・・・何処からどう見ても普通の小さい定食屋さんにしか見えないそこで、これまた普通に料理人さんに返事を返された事にリヴァイさんが何か言いたげに私を見て来たけど・・・い、いや知らないよ。私言われた通りに言ってるだけだし。思いながら、でも無言を貫き通す私に、静かに。だけど確かな声でもって、リヴァイさんが言う。「なぁ、よ。」

「これは、俺の感覚が可笑しいのか?」
「・・・いや、多分普通だと思います。」

「お客さん奥の部屋へどうぞ!」

微妙な顔で私が答えたそのすぐ後に、若い店員さんに案内されるままに奥の扉に向かう。向かて、中に入ればそこは明らかに扉の外の定食屋とは全く違う雰囲気の部屋だった。壁一面が白くて、部屋の中央にはロースターの据え付けられてるテーブル。そしてそのロースターの上には分厚い牛肉2人前。振り返ってみれば、扉の上にはエレベーターにある回数を表示する機械。・・・

「うわっ、本当に着いた!フェイタンさんのお友達凄い!メールしとこ。」
「その前に写真撮っとけ。」
「あ、はーい。」

言われて、椅子に座って言われた通りにスマフォで写真を撮る。そうしてる間にリヴァイさんも向かいの椅子に座って、ジッとスマフォを見る。そんなリヴァイさんの前で撮った写真を"操作"して、・・・・・・。「変なものは入って無いみたいですねー」言えば、リヴァイさんは私のスマフォから視線を逸らして「ならよかった」ってナイフとフォークを取ってステーキを切った。

それにならって私もまたスマフォをしまってナイフとフォークを取った時、不意にドアの方からコンコンってノックオンが響いた。
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