パンプスの先にハミング
ぶっすー。と、さっきの公園から離れた広場のベンチに座ってむすくれていれば、数メートル先の自動販売機から歩いて戻ってきたぬらくんが「ほれ」とアイスココアの缶を私のおでこにぴたっと付けて苦笑して見せた。それに視線を上げて受け取ってから、でもその顔を崩さずにぷいっとそっぽを向けば、今度はやれやれって言った感じで隣に座って私の頬をむにっと摘まんだ。

「ぶっさいくな顔じゃのう。」
「そっ!そんな事は御座らん!とてもか、か、かっ、かわ・・っ」
「とーっても可愛いよねー。ね、だーんな。」

きっと可愛らしい、って言ってくれようとしたんだろうけど・・・そう言う言葉を言うのにも慣れていない幸村くんにすかさず佐助くんがフォローを入れれば「う、うむ」なんて、やっぱり顔を赤くさせながらも言ってくれる幸村くん。そんな普段なら微笑ましいって思える皆の様子も、今の私には面白くない。「ふーんだ。」

「どーせ私だけが悪い子だよー。」
「え、ちょ、・・そんな根にもたないでよ。っていうか、俺様はお嬢の味方だったじゃないの!」
「私の味方は佐助くんだけだよっ!!」
「お嬢!!」

私の頬を摘まむぬらくんの手をぷいっと顔を逸らす事で避けて拗ねてますよー、って。そうあからさまに示して見せれば、隣からは苦笑を。幸村くんからはおろおろとした顔を、佐助くんからは心外だ!って言うお言葉を頂戴して。でも確かにあの時私の見方をしてくれたのは佐助くんだけだった事を思って、バッと立ち上がって佐助くんに跳び付いた。そうすれば佐助くんの方も両腕を広げてくれて、ひしっ!抱きしめあえば、即座に「やめんか。」ってすっごく呆れたように顔を歪めたぬらくんに引き剥がされた。それに益々ぶすっとむくれて見せたけど、視界に(私と佐助くんが抱き合ってたから)顔を真っ赤にさせてぱくぱくと口を開け締めさせてる幸村くんを見たら、少しだけ溜飲も下がった。

でもそれはそれ、これはこれ。だからぬらくんに謝ったりはしないし、謝ることだって無い。寧ろ私は自分がそうだって信じた事をして、それを邪魔されちゃったわけだから不満も不満。でも、それはぬらくんも同じ事を思ってるって事も分かってるから、好い加減拗ねた風も止めてあげようとぷしゅっと缶を開けてそれを飲み込んだ。冷たくて甘いココアの味が喉を通って行くのが気持ち良くて、それを飲み込んだ後で思わず目を細めた。

それを見て私の『遊び』が終わった事を察知したぬらくんは、「やれやれ・・・頼むからそういう洒落にならん冗談はやめんか」って嘆息した。のを見て、幸村くんと佐助くんが(あれ演技だったの?!)って言う風なぎょっとした顔を作って見せたのに笑った。2人とも可愛いなあ。不満は不満だけど、あんなあからさまに態度に出す程じゃなかったんだけどなー。そう思えば自然と顔がにこにこと笑んでしまって、その笑顔のままぬらくんに視線を向けてそういえば、と聞いてみる。「ねぇねぇ」

「そういえば、リクオくん風邪ひいちゃったんでしょ?大丈夫?」
「ん?心配なら見に来るか?今日なら鴆がおるぞ。」

その嬉しい提案と不意に出て来た名前に「!ほんとう?!いく!!」とぬらくんの両手を握って顔を輝かせれば、「よし、んじゃぁ行くか」とぬらくんのお家に向かって歩き出す。そんな私達の後ろをハッとしたように付いて来た2人は、だけど不思議そうに私に聞いて来た。「殿、」

「鴆・・・殿?とは、一体どういった方なのでござるか?」
「え?しらないよ?」
「は?え、知り合いだから会いたかったんじゃないの?」
「?ううん。初対面だよ?」

多分鴆くんの方は私の事も知らないんじゃないかな、と。そう言って笑えば、佐助くんに「えぇー?じゃぁなんで会いたいのさ?」なんて、本当に訳が分からないって言う顔で見られちゃった。だけど「私はいつだって色んな子に会いたいよ」って、思った通りの事を言えば「はいはい。」って呆れられちゃったけど。
そんな佐助くんにニコリと1度笑んでから、頭の中に思い描くのはぬらくんの家族達。「・・・ふふっ」

「鴆くんも会いたかったけど、あの黒羽丸くんともまたお話したいなあ。黒田坊くんもちょっと興味あるんだけど、雪女ちゃんもいいよね。氷麗ちゃんって名乗ってるんだっけ?」

私の言葉に相槌を打ったり、アイツはああだ、とか。コイツはどうだ、とか。まるで自分の事みたいに妖怪たちの事を語るぬらくんは本当に楽しそうで、誇らしそうで。いいなあ、って。やっぱりぬらくんも持霊になってくれたらいいのにな、なんて。ちょっとだけ残念にも思ったりした。
だけどそんな思考の最中。不意に通り過ぎようとしたお店を見て、「あっあ!」と思い至ってぬらくんの着物の裾を引っ張って立ち止まるように促した。そうしてうきうきした気分を隠さずに、そのお店を指差しながら続ける。「待って待って!」

「コンビニ行こう!私、ピノ食べたい!」
「あん?んーじゃぁとっとと買って、」
「私、ピノ食べたい!」
「・・・・・・・・・へいへい。ちょっと待っとれ。」

にこにこ。顔全部に笑顔を作って期待を込めた目でぬらくんを見ていれば、少しの沈黙の後にはぁっていう溜息といっしょにその言葉が返された。だけどその溜息はなんだか・・・そう。小さい子供のわがままに付き合ってあげるお兄ちゃん、みたいな感じで。ぬらくんはそのまま「良い子にしとれよ」と頭を一撫でしてからコンビニの方に、足取り軽く歩いて行った。・・・のを見送って。佐助くんが「へー」って、妙に感心したような声を上げた。

「あの人財布なんて持ち歩いてなさそうに見えたけど、そう言うとこしっかりしてんだね。」
「え?ぬらくんはお財布なんて持って無いと思うよ?」
「は?」
!!?

私の言葉にぽかんと口を開けた佐助くんの横で、何故か幸村くんが雷に打たれたような顔をしてるのに首を傾げて。そんな私を見下ろしていた佐助くんが、ものすごーく怪訝そうに顔を歪めて「ちょ、・・・え?じゃぁあの人・・・何しにこんびに行ったの?」なんて。そんな事を聞いて来るものだから、ぱちりと瞬いてしまった。何しに?「私のピノをとりにだよ。」言えば、「そのとる、って・・・まさか、盗る、じゃないよね?」って問い詰められて、あぁ、なんだその事かってようやく佐助くんの顔に納得した。所で、

殿・・・」

なんだかすごく深刻な顔をした幸村くんに「なぁに?幸村くん。」とにこり、笑む。そうすれば幸村くんはそんな私に少しも表情を和らげる事無く、所か厳しいくらいの面持ちで、とても静かに、続けた。

「まさか・・・殿は、ぬらりひょん殿に物取りを依頼なされたのですか?」
「いやだなあ、幸村くん。知らないの?」
「は?」
「ぬらりひょん、っていう妖怪はね。ひとのお家に上がって、ご飯を食べたり飲んだりして、そうして帰っていく妖怪なんだよ。」

きりりっ!。そんな表情で人差し指を立てて先生でもしているように幸村くんに真っ直ぐに向き合って言えば、横から「なんつーはた迷惑な・・・」なんて茶々が入って来たけど気にしない。「だからね、」と。そう。幸村くんが侍として生きているのと同じように。佐助くんが忍者として生きているのと同じように。ぬらくんもそうして生きているんだよ、と。ゆったりとした口調で告げる。。

「ぬらくんがそれをするのは当り前の事で、それが妖怪としての彼の生き方なんだよ。」
「そっ、そうなので御座るか?!」
「そうなの。しかも、家から出て来る時に誰もそれに気付かないんだよ。凄いでしょう?」
「ま、まことでござるか?!そ、それは何か、ぬらりひょんという妖怪独自の能力で?!」

さっきから一転。キラキラした表情ではしゃぐ幸村くんの疑問に「うん、そうらしいよ」と笑えば、「おぉぉおおお!!」なんて感動の雄叫びを上げた。でもそんな幸村くんを何だか微笑ましいような心地で見つめていれば、横からひそり。佐助くんが幸村くんに届かないような声で「あーあー・・・まぁた口先三寸口八丁で旦那騙して・・・」なんて呆れたように言ってくるものだから、「失礼だよ!私は幸村くんを騙したりしないよ!」ってぷりぷり怒っておいた。

そんな事をしていたら、不意にぴとり。ひんやりしたものがほっぺたに当てられて、びくっと震えた。「つ、つめたいよ!」言って振り返れば、にんまりと笑んだぬくらんが私の事を見下ろしていた。そんな私の横で佐助くんが、「ほんっとアンタの気配って全然分かんないんだけど、俺様自信なくしちゃう」なんてギリギリしてるのには笑っちゃったけど。ぬらくんはそんな佐助くんにふふんと自慢気に笑ってから、ひらひらとピノの箱を揺らして見せた。

「ほれ。とって来たぞ。全く、ほんとにちゃっかりしとるのう。」
「そう言いながらぬらくんだってしっかりアタリメ持ってきてるじゃない。」

そう言って「ありがとー」って、そうぬらくんからピノを受け取ろうと手を出したら、ひょいっとそれを遠ざけられてしまった。それにぱちぱちと瞬いてぬらくんの事を見上げたら、ぬらくんはニッと笑んで見せた。「で、」

「ものは相談なんじゃが。これの礼に、ちと頼まれてくれんか?」
「?うん、いいよ。」

私の返事にちょっとだけ呆れた風に笑って見せたぬらくんに瞬いて。けれど直ぐに私の少し前を歩きだしたぬらくんに、ようやく手元に届いたピノの箱を開けて、中に入っていた可愛いアイスにぷすりと棒を突き刺した。・・・ん、おいしい。
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