裏庭のエトセトラ
コンビニのドアを潜りながら、何とはなしに右手を握り開きを繰り返す。未だにビリビリと痺れている気すらする指先に、出るのは溜息ばかりだった。・・・さっき、不本意ながらとは言えと交えた刃の感覚に、思い出すだけでもひたりと冷や汗が浮かぶ。・・・ほんっと、あんなんは二度と勘弁してほしいもんじゃ。・・・今日のワシの武勇伝聞いたら、首無と鴉天狗辺りは腰を抜かすだろうのう。

あの時仮にどっちもが引かず譲らずと続けたとして、正直アイツに勝てる自信なんてもんは欠片もない。それでも殺されるっつーことは万に一つもないだろうが、怖いもんは怖い。それに、さっきのあの巨大な手裏剣。のO.S.に相違ないだろうあの力は、あの猿飛が憑依していた。

O.S.ってのは、物質に霊を憑依させる巫術だと聞いた。そしてその術は、術を使うシャーマンの力の他。その物質と霊に何かしらの関連性や思い入れのあるものを使用する事で、より強い力が発揮されるのだと。あの巨大な手裏剣の媒介になっている物はよく見えなかったが、だがあのO.S.の発する途方もない程の闇はよく理解出来た。

そしてその闇は、まず間違いなく猿飛自身の力が多少なりとも反映されている。いや、の事だから本来の猿飛自身の力を正しく反映、もしくはそれ以上の力を引き出してるんだろう事が知れる。きっとあれが猿飛の本性とも言うべき力なんだろう。

全く。あんな小童がなんつー力もっとんじゃ。
力つーと、まだ1度もみた事はないが、真田の方も相当な力を持っているのが分かる。が。あの闇その物の様な黒く昏いの瞳と同じ力を持つ猿飛。弾けるように明るく、しかし穏やかな熱を灯したの心と同じ力を持つ真田。どっちにしても、「・・・相性良すぎじゃろう・・・」が自分の力との相性で持霊を選んでるって事はないんじゃろうが、それにしてもあやつの強運とも言うべきその出会いにはいっそ感嘆すらする。・・・じゃが、いつだったか、が言っていた。

どんなに近くにいても一生縁もないままに通り過ぎてしまう事が殆どの世界で、しかし魂が似た波長の者同士は惹かれあうものなのだと。それが生きていれば稀に起こる"偶然の再会"であり、そして初めの"出会い"なのだと。それを思えば、成る程確かにあやつ等が惹かれあうのも頷ける。


そんな事を考えながら、堂々とピノと・・・そしてワシのツマミにあたりめを手に、コンビニを出る。

顔を上げれば、さっきと変わらない位置でそこで穏やかに、心許し合い会話をしている3人組に、ちょっとした嫉妬。の持霊になる事を拒んだのはワシじゃが、それでも、全くそれを望まなかったかと言えば嘘になる。じゃが、寧ろ・・・しかしもうワシはこれを選んで、違えるつもりもない。ならばもう、どうしようもない。望んだ事、全てを選びとれる程、ワシはもう若くもなければ好き勝手を許される身でもない。沢山のものが与えてくれるそれらに、ワシには応える義務がある。じゃが、

例えばもし、の持霊になれるのがワシだけだったなら。ワシにしかできない事だったなら。その時は、何をおいてもと共に在ったのじゃろうが。それでも・・・、いや。これ以上考えるのは詮ない事じゃな。


徐々に奴らとの距離を縮めながら、ワシに気付いた様子の無い真田と猿飛に、少し口端が上がり少しは溜飲も下がる。どうじゃ。まだまだワシの方がやるじゃろう、なんて。あんな小童どもに大人げないと言われようが、知った事ではない。・・・まぁ最も、の方は当然のようにワシの存在に気付いとるんじゃろうが。・・・思った所で。むくりと芽生えた悪戯心。

何の小細工もせずにの隣まで歩いて行って、しかし明鏡止水を解く前にシレッとひんやりと冷たいピノの箱をの白く柔らかそうな頬に押し付けた。瞬間。びくっと震えて「つ、つめたいよ!」なーんて。完っ全にワシがいた事には気付いてた不平不満を可愛らしくぶつけて来たもんだから、っとにコイツは・・・なんて思いつつも、悪戯の成功にはにんやりと笑ってしまう。

そんなワシの(真田と猿飛にとっては)突然の登場に真田は目を見開き、猿飛の方はギリギリ歯軋りでもしそうな程に嫌な顔で「ほんっとアンタの気配って全然分かんないんだけど、俺様自信なくしちゃう」なんていうもんじゃから、ふふんと得意げに笑っちまった。そうじゃろうそうじゃろう、ワシ、凄いじゃろう。思いつつ、から放したピノの箱をひらひらと掲げて見せる。

「ほれ。とって来たぞ。全く、ほんとにちゃっかりしとるのう。」
「そう言いながらぬらくんだってしっかりアタリメ持ってきてるじゃない。」

そう言いながらも「ありがとー」なんて嬉しそーに笑うもんだからうっかり渡しそうにもなったが、直ぐにピノへ伸ばされた手からひょいっとそれを遠ざけた。それにぱちぱちと瞬いてワシを不思議そうに見つめるを見返して。ニッ。口端を吊り上げて「で、」と。つい先ほど思い付いた『おねだり』を口にする。

「ものは相談なんじゃが。これの礼に、ちと頼まれてくれんか?」
「?うん、いいよ。」

全く。・・・あっさり了承してくれんのぅ。
まだ頼みごとを聞いてもいないのに呆気なく頷いて見せた、の正しい自信に苦笑すら漏らしそうになりながら。じゃが、きっと数時間後にはそれでも絶対的にその頼み事を達成させる事が出来るの実力に、脱帽する事になるんじゃろう。
<< Back Date::130303 Next >>