君に秘密でカウントダウン
治世500年を誇る現在北方で最も豊かな国、雁州国。
俺が3か月前に即位した慶東国の北西に隣接するその国は、この世界にある十二国屈指の国力を誇り、今ではその国がまさかその王が即位する以前は僅か30万足らずの人民      この数字はつまり通常の10分の1以下の数字らしい      と、あまりに痩せこけた荒廃ぶりに『折山』等と呼ばれていた土地とは思えない。だからこそこの国にそれ程の繁栄をもたらした延王は稀代の名君と称されているが、そんな国の王が俺より年下の女王って言うんだから舌を巻く。・・・まぁ最も、年下とは言えそれはその王が即位する以前の話であって、見た目こそ俺より幼いものの、実際の年齢は500以上だってんだから途方も無い。

         この世界は、俺が今まで暮らしてきた日本とは違う世界。

この世界では俺が元々いた日本の事を『蓬莱(ほうらい)』と呼び(中国は『崑崙(こんろん)』と呼ぶらしい)、殆どの場合においてその2つの世界が交わる事はない。しかしそれが交わる瞬間の現象を『蝕』と言い、本当に稀にしか起こらないそれは殆どの場合において自然現象として起こる。だが、俺がこちらの世界に来たのは自然現象ではなく、作為的に起こされた物だった。最もそれを起こせる奴も麒麟と呼ばれる生き物だけなのだが。


この国には、十二の国がある。その国には必ず1人の王と、そしてそれに従属する麒麟と呼ばれる人間の姿に転変出来る神獣が1匹ずつ。其処に生きる人間や家畜は元の世界と同じだが、文化や政治形態は古代中国のそれに類似している。が、言語は全く違う上に、この世界には神仙や妖魔と呼ばれる化け物が存在している。最も俺はこの世界の言語が元々の物と違うと言う事には後から気付いたのだが、

というのも。俺は十二の国の内、慶東国と呼ばれる国の王だったらしい。この国は絶対王政のもと統治されているが、その王位は世襲制ではなく、麒麟が天意に従って選んだ王によって継承される。そして麒麟に選ばれた人間は、麒麟と契約を交わした後に正式に王となり、そして自動的に神仙になって不老長寿になる。そして神仙故に言葉の不自由は存在せず、全くの異国であるこの世界において言語で不自由する事はない。
が。不老不死と言っても不死身ではないらしい。王・・・そして一部の高位の官吏は神仙として召し上げられるが、冬器(とうき)と呼ばれる武器を使って胴や首を断たれれば死ぬし、特に王に至っては正しく王としての道を治められなければ麒麟が不死の病にかかって死に、その後を追うように王も死ぬらしい。つまり、麒麟が死ねば王は死ぬ。・・・まぁ、麒麟は王が死んでも死なない方法があるらしいが、それはまあいいだろう。

が。王たる資質ってか、条件は、必ずその国の出身である事が条件らしい。だが、俺の生まれは日本で、今までこんな世界の事は全く知らずに過ごしてきた。ならどうして俺がこの国の王なのかって言うと、この国では人間も妖魔も麒麟も、あらゆる生き物は卵果と呼ばれる木の実の形を模した卵から生まれるらしいのだが・・・本来はこの世界で生まれる筈だった人間が、誤って蓬莱に流されて、その国の女性の胎内に宿ることがあるらしい。そしてあっちで生まれた人間は、そうだと誰も気づかないまま育ち、死んでいくのが常であるのだが(ちなみにあっちに流された人間の事は胎果(たいか)と呼ぶ)・・・俺は本来こっちの世界で王になる筈の人間だったもんだから、俺の麒麟が蝕を起こしてこっちに連れて来たってわけだ。

まぁしかし。俺がこっちに来てからも相当ゴタゴタがあった。俺がこっちに来た時には既にこの慶国に偽王が立っていて、俺が即位するにはまずその偽王を倒し、その上で俺が本来の王だと言う事を証明しなけりゃならなかった。その上何故か雁国とは逆側に隣接する巧州国の王が、恐らく名君と名高い雁王が俺と同じ胎果の王であるからだろう。それと比較される事を恐れ、同じく胎果の王である俺を暗殺を試みる等、まぁえらい目に遭ってきたが・・・ようやく落ち着いて即位式を迎えたのが3か月前だ。

あれからようやくひと段落つき、今日は偽王討伐への協力や俺が即位するまでのその他諸々の手助けを惜しげなくしてくれ、何かと助力してくれた延王に礼も兼ねて挨拶に来たわけだが。改めてこう思い返して見ると、・・・

「oh...so crazy.」
「は?」
「政宗さま!」
「sorry sorry. 考え事だ、気にしないでくれ。」

呟いた俺の言葉に、それを窘めるように声を荒げた俺の麒麟(因みに麒麟は雄を『麒』、雌を『麟』と呼び、国氏を冠してその麒麟を表す号となるらしい。つまり景王たる俺の麒麟であるコイツは)景麒(となるわけだ)は眉間に眉を寄せて俺を睨み付けている。と、そんなコイツを見て目の前に座る延王・・・蓬莱での名前をと言うらしい。は「別に構わないわ」とクスクス笑った。

・・・そのの姿、つーか服装をジッと見て。そして俺の今着ている服に視線を移して見れば、出てくるのは溜息だった。パッと身でも立派だと分かる上質の布で作られたの来ている着物はしかし、簡素なものだ。それに比べて俺の服は何枚も何枚も似たような布地を降り重ねてきた上に、見るからに高そうな飾りやらなんやら不必要なものばかりを無駄に着飾っている。確かに隣国の王・・・それもこんな王になりたてのひよっこと違い、立派に何百年も国を統治している世界的にも歴史的にも大層立派な、大変世話になった王の元を訪ねるのには当然の格好なのかも知れんが・・・

「しかし羨ましいな。俺もアンタみたいなsimpleな服装にしたいもんだ。」
「だったら臣下と300年戦う事ね。」
「は?」
「この服装で折り合いを付けるのに、300年に渡る壮絶な戦いを繰り広げてきたのよ。」

思わず零してしまった言葉にの言った言葉に訳が分からず瞬けば、即座にごっほん!と、の後ろに立つ3人の臣下が同時に咳払いをした。確か白髪の男が竹中。橙髪の猿飛・・・だったか?そして茶髪よりも真緑の着物の方が目を引く毛利。竹中と毛利の方は目を伏せたまま涼しい顔を貫いて、猿飛の方は俺と目が合うと同時ににっこりと笑んできた。・・・成る程。確かに手強そうだ。

っていうか、この3人はそれで無くとも手強いだろう。
なんたって宮中諸事を掌る天官の長、天官長太宰(てんかんちょうたいさい)の猿飛佐助。コイツは何でもが登極するまでに死んだ民の戸籍簿を投げ付けて、登極に至るまでの長い時を攻め立てたらしい。・・・最も登極が遅れたのはが日本で生まれ育った胎果だったからに他ならないのだが。・・・が。何でも今猿飛はの生活態度改善にはりきっていて、毎日彼女の布団を剥ぎ取る所からそれが始まるらしい。曰く「うるっさいったならい。アンタは私のオカンか。これを知ってれば字は猪突なんかじゃなくてこっちにしてた」らしい。      だからってソイツに『猪突』なんて字を付ける王も王だが。尊敬するぜ。

祭祀を掌る春官の長、春官長大宗伯(しゅんかんちょうだいそうはく)である竹中半兵衛。コイツも中々の兵だ。コイツは元々王に発言するだけで罰せられる事がある程の低い身分で、の登極の僅か3日後に「興王か、滅王か」と自らの諡を選ぶよう発言したらしい。だから字名が『無謀』。曰く、「深く根に持って笑顔で100年でも200年でも厭味を言うタイプ」らしい。・・・流石500年も生きているとその100年単位に説得力がある。見た目は色白で痩身の優男の癖に、割と短気な奴だ。      本当に延王には感服する。天晴れと親指でも立ててやりたい。

そして軍事を掌る夏官の長、夏官長大司馬(かかんちょうだいしば)の毛利元就。コイツは直接王に何かを言ったわけじゃないらしいが、梟王の死後も「次王の赦免があるまで」と50年間鍵のかかっていない牢屋から出なかった変人らしい。その経緯で字は『酔狂』。コイツにしろ竹中にしろ猿飛にしろ、素晴らしい臣下である事をは認め、そうして王に無礼を働いた責で官籍を剥奪されたこいつ等を、どころか高い官位を与えた傍らで、このしょうも無い字。      素晴らしい。格好いい。excellentでmarvellous!俺もかくありたい。
・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「結婚してくれ。」
ブッ?!ゲホッゴホッ!!
「それは嬉しいプロポーズだけれど、王様は登極前じゃなきゃ正式な結婚は出来ないわ。」

俺の言葉に噎せ返ったのは俺の麒麟か、あるいはの臣下の3人の何れかか、あるいはその全員か。取り敢えず、相変わらず目の前で(恐らく意図的にだろう)色っぽく笑むとは対照的に物凄い形相で睨みを利かせてくる4人に肩を竦めた。・・・所で、

殿ー!政宗殿がいらしているとは真でござるか!!?」

どたどたどたと盛大な足音を立てて俺達の方へ走ってきた男に、口端が上がった。・・・アイツが雁国の麒麟、延麒。アイツも胎果で、あっちでの名前は真田幸村。・・・そしてこの麒麟。馬と鹿の間の様な生き物だから、字は『馬鹿』、らしい。

雁国が十二国の中で最も海客への差別が少ないのは、この王と麒麟のお陰なんだろう。その上雁国では、身寄りも無い言葉も通じない海客に戸籍を与えたり職を与えたりと言った措置まで取られている。全く、目標にするのが恥ずかしいくらい立派な国だ・・・が。俺だっていつまでも追うだけじゃねェぜと、ギラリ。光った眼に気付いたのか、目の前のが目を細めた事に、俺は気付かなかったが。



ニヤリ。隠す事無く口端を吊り上げた俺に、景麒・・・俺の後ろに控える俺の麒麟。小十郎が眉間を押さえて溜息を吐いた。
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