君はこれを寄り道と云う
≪おはようございます。あと1時間ほどで目的地へ到着致します。≫
≪到着後、直ぐに三次試験が開始いたしますので、皆様それまでにご準備をお願い致します。≫






「・・・・・・・・・ん、・・・おい、おきろ、・・・。」
「・・・・・・・・・」

聞こえた音に意識が浮上し、重い瞼をこじ開ける。昨日風呂で約束した通りに手を握って眠ってくれたの手を剥がし、あの無駄にデケェ音の放送でも身じろぎひとつせず静かに寝続ける姿に相変わらず寝汚い奴だと呆れる。いつものことながら、ここまで気持ちよさそうに寝てるのを起こすは気が引ける。もう少し寝かしてやりたい気もするが、あと一時間ならこのままって方が可愛そうだろう。思って。はぁと溜息を吐きだしてから上半身だけ起き上がり、横で眠るの肩を揺する。

「おい。おら、起きろ。起きろってんだ。おい。」
「・・・・・・・・・」

声をかけても揺すってもほんの少しも意識が登ってくる様子の無いに、警戒心死に過ぎだろうと頭が痛くなる。俺はコイツを、甘やかしすぎただろうか・・・。まぁ、自覚はあるが。度々思うこれを今此処でまた思っては、こめかみを抑えてはぁーっと再び深く溜息を吐きだした。・・・仕方ねェ。思って、す。両手をの耳元近くに持って行き、

ぱぁん!!
「!?!?!?!!!?!!!」

乾いた音に、さっきまでの爆睡が嘘のようにガバッと勢いよく布団を剥いで起き上がる。ただ手を叩いただけがだ、突然の発砲音にも似たその音に瞬間枕元に置いてあった自身のスマホを握り締めた姿を見れば、やはりもう少し穏やかに起こしてやった方がよかっただろうかと若干可愛そうにも思う。が。その後直ぐに隣の俺に気付けば、はくはくと口を動かし驚いた表情こそそのままだが、緊張にこわばった顔が緩まったのが分かる。

・・・まぁ、可愛いもんだ。こういう所だな、俺が甘やかしちまうのは。未だにぱちくりとデカい目を何度も瞬かせるに苦笑して、ぼさっと乱れた髪をぺしゃりと撫でつける。

「!・・・?!、!!?」
「目ェ覚めたか?」
「さ、さめた!」

滅多にはやらないが、それでもこいつを平和的に起こすのにはこの方法が一番有効なのは随分前から変わらない。落ち着かせるように自分の胸に手を当ててはぁ〜っと大きく息を吐き出したは、その後でへにゃりと顔を緩ませた。それになんとなくイラついて、その柔らかな頬をやわく抓ってやる。

「とっとと起きて顔洗え。着替えたら飯だ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・なんだ。」
「おかーさん」

頬から手を放して未だベッドに座り込んでいるの傍ら、棚からタオルを出してシャワーを浴びる準備をしていれば、ジッと見上げる顔に聞いた答えに「あ?」と眉を顰める。そんな俺ににこっと笑んで見せたは、両腕を上げて伸びをして続ける。

「って、時々間違えて呼んじゃいそうになります。」
「よせ、せめてお父さんにしろ。」

盛大に顔を歪めれば、あははなんて至極楽しそうな笑い声。その呑気極まりない顔はまぁ、現状の平和があるからこそと思えば悪くないんだが、取り敢えずデコピンをくれてやる。「いたい!!」

「えっ・・・え?!な、なんですか行き成り!」
よ。お前、家でなら兎も角、出先で爆睡キめるのはやめろ。」
「はい?」
「ここは飛行船だぞ、もう少し警戒心を持て。」

言えば、「え、まだそれ言ってたんですか・・・」なんて返されて盛大に顔を歪める。まだとはなんだ、失礼な奴だな。それに「当然だ」と返してから再びどすっと勢いよくベッドに座り、ずいとの方へ顔を寄せる。そうして今度は頬ではなく、ぐにと鼻をつまんでやる。

「それもハンター試験は危険な試験って話だろう。よく分からねェが。殺人鬼がうろちょろしてるような船だぞ、危ねぇだろうが。」
「はにゃひれくらひゃい〜!」

俺の言葉を聞いているのかいないのか、べしべしと自身の鼻をつまむ俺の腕を叩くに「ちゃんと聞いてんのか?」と訝みながらもその手を放せば、赤くなった鼻頭に一度笑う。その笑った俺に気付いたんだろう。至極不満そうにぶすっと顔を歪めたに、今度こそクッ、と笑う。耐えきれずクツクツと笑う俺に、今度こそ拗ねたが頬を膨らませてそっぽを向いた。

「だってリヴァイさん一緒だと気が緩んじゃうんですよ。絶対何があっても助けてくれるって安心感凄いですもん。」
「お前な、そもそもいい年の男女がひとつ屋根の下どころか、ひとつベッドの中だぞ。それこそ警戒しろ。」
「・・・・・・・・・ふはっ」
「笑ってんじゃねえよ、真面目な話だぞ。」

数秒前まで拗ねてたくせに忙しい奴だな。ころころと笑うはまぁ、可愛らしいが。コイツいつか俺がいない所で変な男に取って喰われちまうんじゃねェかと、余計な世話とは思いつつも心配せずにはいられない。まぁ、そう簡単に喰われるような育て方はしてきちゃいないが。そう、心配してんだぞ、こっちは。っつーのに。当の本人の意識があまりに低すぎて、毎度の俺のこの類の説教は、一度として手応えを感じた事が無い。

「いやぁ・・・あはは。分かってるんですけどね、リヴァイさんが真面目に私の事考えてくれてるって言うのは。だけど・・・ふ、ふふっ。いい年の男女・・・あはっ」

何故そこで笑う。

「でもリヴァイさんはそもそも我慢できないって・・・ふくっ!な、なるとして、そうなるならそもそも一緒に私と寝ないですよね?」
「そりゃぁ、当然だろう。」
「それでも一緒にいてへ、変な気・・・ッ、ッッ!」
「おい、そこで笑うな。」
「ふっ、・・・す、すいませっ・・・あはは、変な気それでも起こしたなら、何か理由があるって事だろうから。」

本気の笑いに入ったらしいに呆れ果てて、もう放って出てってやろうかと時計を見る。・・・と。ようやくピークが過ぎたのか、は〜〜〜っと盛大に震える息を吐き出して、目じりにたまった涙をぬぐいながら俺を見上げた。

「でも多分、リヴァイさんなら大丈夫なんです。」

・・・まぁ出さねェが。
こいつのこれが俺なら手を出さないって思ってんのか、手を出されても平気って思ってんのかは知らんが、それでもが俺に絶大な信頼をおいてくれてるっつうのは、知っている。それについては俺も同じだ。俺もまた、こいつがいれば何でもきっと上手く行くだろうと無条件に信じている節がある。これが酷い甘えだと言う事は、十二分に理解している。・・・まあいい。

「俺はシャワーを浴びてくる。その間にお前は身支度整えておけ。20分後に食堂だ。」
「はぁい。」



笑い過ぎて眠気が消えたのか、最初よりも随分はっきりした返事をしたの言葉を聞いてガチャリと扉を開ける。その明けた先でレオリオが驚いたように俺を見て、次に部屋の中を覗き見た。おい、失礼な奴だな。そのレオリオと目が合ったがひらひらと「おはよー」と手を振っていたが、お前寝間着ではしたねえな・・・。思って、ぱたんとドアを閉める。だが目の前で目を見開いたまま俺をガン見するコイツに眉間に眉を寄せた。

「おい、何だ。用があるならとっとと言え、俺はこれからシャワーを浴びる。」
「・・・・・・・・・は?」
「あ?」

聞いた言葉に明確な言葉は返って来ず、声に若干の苛立ちが乗った。

「部屋の・・・、だったよな?」
「どこからどう見てもそうだっただろう。勝手に部屋を覗くな、感じ悪ぃ。」
「いやそれは・・・悪かった、けどよ。」

言いながら、レオリオはごにょごにょと部屋がどうとか女がどうとかとはっきりしない調子でブツブツと呟く。それに「あと20秒で言わねえなら行くぞ」と言えば、レオリオの奴はグッと言葉を詰まらせた後で「聞きたい事は色々あるがー・・・取り敢えず、」と言って、続けた。

「お、お前等まさかいつも一緒に寝てんのか・・・?!つーか今ハンター試験中だぞ!?」
「・・・?何言ってる。」

突然顔を真っ赤にして怒鳴るコイツに、首をかしげる。
いつも・・・?何を言ってる、この男。

「昨日はアイツに手を握ってもらう必要があったから一緒に寝たが、普段は別に決まっているだろう。ガキじゃあるまいし。」
「・・・・・・・・・は?」
「なんだ。」
「?・・・??いや、待て。お前が何言ってるのか全然わかんねーんだが。」
「俺もお前が何を理解出来ていないのかさっぱり分からん。」

朝からおかしな奴だな。やれやれと溜息を吐き出して、用が済んだならもう行くぞと先日のシャワーブースに向かう。後ろから聞こえてきた「まて俺がおかしいのか?!」という言葉は無視をした。
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