落書きじゃなきゃ書けない
(どうしてこうなった・・・)
狭い、つっても2人くらいなら余裕で入れるシャワーブースの中。宣言通りに背中を流されてる俺は、やけに丁寧に背中を洗うリヴァイに頭を抱えたくなった。どうしてこうなった。なんか・・・わけの分かんねーままリヴァイと風呂に入る事になったけど、なんっかこいつ等と喋んの上手くいかねえんだよな。なんか、ゴンとは別の意味でペースがつかめないっつーか・・・

・・・つーか、この部屋から出てくるを見つけて何故かさっと隠した右手は、だけどささやかに背中に隠して、ポケットに入れただけだ。だけど気付かないふりなのか何なのか、それには一切触れてこないこいつ等に、ちょっとだけ腑に落ちなさを感じる。と会うほんの1分くらい前に、見覚えのない奴等を2人殺っちまって、それで、・・・・・・それで、と。そこまで思って、チラリ。俺の背中にシャワーをあてるリヴァイに視線を向ける。・・・もリヴァイも、気付いてねェのかな。そんなわけねぇと思うんだけど、・・・

「なぁ。」
「あん?」
「おっさんさ、俺の右手の汚れ。何か知ってる?」
「・・・・・・・・・」

少しの沈黙の後、パァン!「いってぇ!!」なんかやたらいい音で頭ひっぱたかれた。意味わかんねー!!っつーか、やっぱり叩かれるまで叩かれるってわかんねーし、やっぱコイツ、結構強いんだろうな。なんて頭の隅っこの方で考えてたら、「バカにしてんのかクソガキ」ってスッゲー顔で睨まれた。・・・・・・いや、まぁ。どう見ても血だけど。
だけどそれを口に出して言うのもなんかアレで・・・もごもご。視線を反らして口を動かせば、はぁ。溜息の音が聞こえた。

「そりゃ触れてほしいことか?」
「は?・・・いや、別に、」
「なら、それはお前にとってそれ程価値のある話だったか?」
「、」
「俺には関係ねぇよ。」

・・・・・・・・・まぁ、ねぇけど。思いながら、でも、知ってんだなって思った。人を殺す事が、俺にとってそれ程価値のある事じゃ無いって事。ゾルディックって名前を此奴の前で出した覚えはねェけど、どっかで聞いたのかもしれないし、手にべったり血をつけたままでいる俺にそう気付いただけかもしれない。でも多分、こいつも慣れてるは慣れてんだな。こんな能天気そうに見えんのに・・・とは、また殴られそうだから言わねーけど。
ざばっ。背中を流されて、とっとと髪洗ってでよ、と。そこまで思ってリヴァイさの手にあるシャワーに手を伸ばせば、ひっこめられた。・・・おい、何やってんだこのオッサン。思ってジトリと視線を向ければ、シレッとした視線を返された。

「おい、ついでに髪洗ってやる。下向け。」
「はぁ?!いらねーよそんくらい自分で・・・っつーか出てけよ!」
「うるせェ下向け。」
「っ!?」

無理矢理後頭部を鷲掴まれて下を向かされた。それに文句を言おうとした瞬間、ざば!勢い良くお湯を頭に落とされて、何かもう面倒臭くなったから大人しくしてる事にした。わしゃわしゃ。思ったより丁寧に泡を転がされる感覚にが少し気持ちいとか思ったけど、不意に視界にちらついたリヴァイの腕・・・つーか、手首から肘の内側にかけて無数にある"それ"に瞬いた。「・・・?」

「リストカット?」
「は?」

俺の呟きに声を漏らしたリヴァイは、でも直ぐに「目ェ閉じてねェとシャンプー入るぞ」っつって来たけど、俺はシャンプーより、リヴァイの左腕を埋め尽くす何十もの横線が気になって仕方が無い。それに、よくよく見てみれば腕以上に足首や太ももの方がその痕が多い事に気付く。それに「なぁ。なんでオッサン、リストカットなんてしたんだ?」リヴァイの言葉を無視して顔を上げてリヴァイを見れば、さっきより何か・・・眉間に眉寄せて、ビシ!「!!?」

「ってぇ〜〜!!!!!」
「目を瞑れと言っただろうが。」

思いっ切り目ン中にシャンプー飛ばされた。し、信じらんねェ!普通あんな泡だらけの右手の泡飛ばすか?!つーか!・・・つーか、また全然見えなかった。リヴァイの右手がベッ!って親指を芯に他の指を弾いて俺の眼にシャンプーが入って来るまで、全然反応できなかった。・・・コイツ、すっとぼけたオッサンにしか見えねェのに、やっぱり普通のオッサンじゃねェ。
くっそー。嫌な悔しさを感じながら、「で、何だよその痕」って目を押さえながら憎々し気に問えば、「・・・あぁ」と何でも無い声。

「リストカットとは厳密には違うが・・・まぁ、似たようなもんか。」
「似たようなも何も・・・どうみてもそうだろ。つーか、リストカットにしてはそれ、何か大分酷くね?」

ようやくおさまって来た痛みに目を開けて今度は大人しく下を向けば、両足に無数にある普通に刃を滑らせたにしては深すぎる傷跡に瞬いて問い掛ける。問い掛けて、そんな俺にリヴァイは別に隠すでもなく「まぁ、削いだからな」なんて。大分シレッと返されたもんだから、あぁなんだ削いだのかって聞き流しそうになった。が、「はっ削ぐ?!」

「何でまた・・・拷問の訓練とか?」
「お前、なんだそりゃぁ・・・そんなおっかねェ事俺がするわけねェだろうが。」

すっげ嫌そうな顔された。あ、なんだ違うのか。・・・いや、真ぁ確かに拷問にしちゃ傷も浅いし、そりゃねーか。にしても・・・この無表情の仏頂面でおっかねぇとか、こいつどこまで本気で言ってんのかわかんねーな。なんか見れば見る程服の上からじゃ分かんなかったけど、体中にガッシリギッシリ付いた筋肉と、その上の傷跡だらけの皮膚を眺めてれば、今度はリヴァイの方から言葉を投げてきた。

「お前の傷は、その訓練とやらの傷か?」
「ん?おー。」
「そうか、痛かったな。」
「は?いや、まぁ、痛かったけど・・・」

別に、死ぬほどじゃねぇし今は痛くねぇし。そんなことを考えながら答えれば、わしわし。頭を撫でられた。それがなんか・・・むず痒いっつーか、変な感じ。そんな俺の事なんてつゆ知らず、「お前、今楽しいか?」なんて聞いてくるリヴァイに呆れる。「は?何でオッサンと風呂はいんのが楽しいんだよ?」言えば、「違ェ、ゴン達の事だ」って・・・な、なんかすげー呆れたって目ぇ向けられたんだけど、な、なっとくいかねー!・・・思いながら。だけどここで突っ込んでも面倒くせーだけだって「・・・まぁ、たのしーよ」って答えるだけにとどめれば、「ならよかった」。
静かに返されて、なんとなく居心地が悪い。わしゃわしゃ。耳の裏の頭皮まで丁寧に泡でもみ込まれながら、ふと、疑問が過る。

「アンタは、死にたかったわけ?」
「あ?」
「リストカット。」
「アホか。死ぬなら首を切る。それに、死ぬなんて怖ェだろうが。絶対ェしねぇよ。」

あっさり返されたから、きっとそうなんだろーけど・・・じゃぁ、あれか?よくありがちな生きてる実感がほしかったからとか、なんか俺にはちょっと分かんねー次元の理由か?そんなキャラには見えねェけど。思っていれば、「流すぞ」って声の後、上からシャワーのお湯をかけられる、流れるシャンプーが目に入る前にそれを伏せれば、ふと上から落ちてくる声。

「俺は、結構普通なんだ。」
「は?」
「俺も、案外普通の人間だったって事だ。」
「いや訳分かんねーよ。」

突然何言ってんだコイツ。
その思考のままの表情を浮かべて、ようやくシャンプーを流し終わったところで顔を上げれば、だけどリヴァイの表情を見て口を噤む。まるで、何かを噛み締めてるみたいな顔だった。それは苦虫のようでも、無念のようでも、歯痒さのようでもあった。結局俺が何を考えたって分かる事じゃねーんだけど、・・・でも、なんとなく、今回は話を反らす事にした。

「なぁ、おっさん。」
「なんだ、クソガキ。」
そっち(・・・)の傷は、何の痕なんだ?」

リストカット以上に、気になる痕が、あった。腹の辺りに横一文字、背中までほぼぐるっと覆うようにほぼ一直線に伸びるケロイド。切ったにしては荒々しい、打ったと言うには生温い、そんな痕だ。まるで巨大な獣に腹に喰い付かれた・・・いや。どころかこれは、噛み千切られたような、ような痕だった。
それを思いながら聞いた俺に、リヴァイは「あぁ」って。まるで何でもない事みたいな声を上げた。「これは、」

「巨人に喰い殺された痕だ。」
「・・・は?」
「冗談だ。」

うっそりと口元に笑みを携えて静かにそう言った。そんなリヴァイを前に、どうしてか俺はそれ以上の何を聞く事も出来なかった。ただ、「湯冷めすんなよ」とだけ言ったリヴァイに「ガキ扱いすんな」とだけ返して、さっきのリヴァイの表情を思い出しては、本当は、とも思った。本当は、死にたかったんじゃねぇのか、コイツ。と。
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