ユートピアの砦
「ねェ。今年は何人くらい残るかな?」

俺達試験官に割り当てられた部屋でメンチとサトツさんと一緒に飯を食っていた最中。不意にメンチの言った言葉に「合格者って事?」って問い返せば、「そ。」って相槌を返された事に、今日見た受験生の事を思いだして見る。そんな俺達の傍ら「なかなかのツブ揃いだと思うのよね、一度全員落としといてこういうのもなんだけどさ」って告げたメンチに頷く。頷いて、でも、と、告げる。

「それはこれからの試験内容次第じゃない?」
「そりゃまそーだけどさ    試験してて気づかなかった?結構いいオーラ出してた奴いたじゃない。」

メンチみたいな試験官じゃ1人も残れないだろうし、とは言わなかったけど。そう言った俺の横で、メンチは「サトツさんどぉ?」ってサトツさんに話を振った。から、俺はその間にテーブルに並んだ骨付き肉を手にとってそれを頬張った。そうしてサトツさんが「ふむ、そうですね」って思案の後、「新人(ルーキー)がいいですね、今年は。」って言えば、「あ、やっぱりー!?」って声を弾ませたメンチ。

「アタシ294番が良いと思うのよね、ハゲだけど。」
「(スシ知ってたしね)」
「私は断然99番ですな、彼は良い。」
「アイツきっと我が侭で生意気よ、絶対B型!一緒に住めないわ!」
「(そーゆー問題じゃ・・・)」

思いながら、だけど言ったら言ったでまた咬みつかれそうだから黙っておいた。そんな俺にメンチは「ブハラは?」って話を振ってきたから「そうだね・・・」って少しだけ悩んだ後。でも直ぐに「新人じゃないけど、気になったのがやっぱり44番・・・かな」って、数いる受験生の中でも一際、悪い意味で異彩を放つ人物を思い浮かべた。

「メンチも気付いてたと思うけど、255番の人がキレ出した時一番殺気放ってたの、実はあの44番なんだよね。」
「勿論知ってたわよ。抑えきれないって感じの凄い殺気だったわ。」

少しだけ嫌そうに・・・っていうか、何だか苛立ったみたいに言ったメンチが、更に「でもブハラ知ってる?アイツ最初からああだったわよ。アタシらが姿見せた時からずーっと」って続けた言葉に「ホントー?」って瞬いた。俺にはそこまでじゃなかったけどなー・・・なんて思っている俺に「そ。」って頷いたメンチは、やっぱり苛立たしげに顔を歪めて言う。

「アタシがピリピリしてたのも実はその所為。アイツずーっとアタシに喧嘩売ってんだもん。」
「私にもそうでしたよ。彼は要注意人物です。」

メンチの言葉に続けたサトツさんに視線を向ければ、サトツさんは「認めたくはありませんが、彼も我々と同じ穴のムジナです。只彼は我々よりずっと暗い場所に好んで住んでいる。」っと、そう言ってす、と。少しだけ目を細めて見せた。

「我々ハンターは心の碁子かで好敵手を求めています。認め合いながら競い合える相手を探す場所・・・ハンター試験は結局そんなところでしょう。そんな中にたまに現れるんですねェ、ああいう異端児が。我々がブレーキをかける所で躊躇いなくアクセルを踏み込めるような。」

・・・確かに。長い事ハンターうやってると、44番みたいな奴もいるんだよなー。大抵は自分の未熟さゆえに自滅して行くんだけど、44番はその中でもなまじっか力があるから余計に厄介なんだよな。考えれば、至高は今までの経験上どんどん嫌な方向に傾いて行って、しん・・・僅かに空気が静まった。
そんな空気を壊したのは、わざとなのか素なのかは分からないけど、明るい声を出したメンチだった。

「ね、話変わるけどさ。299番と300番も良くない?」
「あぁ、確かにあの2人もいいオーラ出してたよねー。」
「恐らく299番が300番の師匠なんでしょうな。まだ300番は念は使えないようでしたが・・・」

うん、確かに299番はパッと見でも凄い手誰だって事が分かるくらい洗練された錬だったなあ。・・・いや。今回の念の使える受験生はみんなそうだけど。でも、1度の試験であれだけの手練が集まる事ってあるんだなあ。念を使えないまでも、今回の新人は全体的に豊作だし。その豊作の中に、300番も入ってるんだよな。まだ特別突出した所は見えてこないけど、基礎体力は十二分にありそうだ。

「あの2人が身につけていた見慣れ無い装置は、299番の念でしょうか。」
「かもねー。だとしたら具現化系か操作系、ってとこかしら。」

サトツさんの言葉にそう返してから珈琲を啜るメンチ。そのコップの中の珈琲が揺れるのを見下ろしながら、ぼんやりと谷底に落ちた時のあの2人を思い出す。あの時はあの装置を使ってたけど、実際、あの装置も相当な身体能力が無いと使えない代物の筈だ。それを使いこなせるからこそあれを使う方が簡単に上に登って来れたんだろうけど、扱い慣れてない奴にとっては遥かに自力で登り降りする方が楽だろうなあ。そう思えばやっぱり2人とも相当な手練なんだろうけど・・・、

「それにしても、なんかあの2人って変わってるよね。」
「えぇ、確かにそれは私も思いました。確かに試験には真剣に望んでいるようではあるのですが、なんと言いますか・・・まるで修学旅行か林間学校に来ている学生のようといいますか・・・雰囲気が大分・・・・・・柔らかいですね。」
「サトツさん、オブラートに包まないで素直にお気楽馬鹿コンビって言えば?ほんっと、あのすっとこコンビ訳分かんない。」

お気楽馬鹿・・・いや、まぁ、うん。確かにそんな感じだけど、そんなはっきり言わなくても・・・多分そう思ったのはサトツさんも一緒だったけど、取り敢えず触れない事にした。面倒臭そうだし。そんな事を考えている俺達の傍ら、メンチはお酒も飲んでないのに妙なテンションでバンバンテーブルを叩いて続ける。

「訳分かんないって言えば、1番訳分かんないのはアイツ等の関係よ!師弟関係って言っても傍から見たら援助交際じゃない!」
「援助交際ってそんな・・・でも確かに親子って事はないよね。兄妹じゃない?」
「はぁ?そりゃないでしょ。かといってあれで恋人とか言われてもねー。」
「それにあの2人は師弟関係、というよりはもっと・・・そう、例えば教師と生徒のような気軽さがありますね。」

あ〜・・・確かに。何か今、サトツさんの言葉に凄い納得した。ちょっと先生生徒にしても大分気がるそうだけど。でも、あの2人って、なんかお互いになんか抜けてるのに噛み合ってるんだよな。ん?寧ろ両方が絶妙に抜けてるからお互いが抜けてる事に気付いてないだけなのかも・・・思いながら、「んー・・・普通に300番が299番に弟子入りしたんじゃない?」って、さっきのメンチの言葉に返してみれば、「アンタ馬鹿?」なんか罵倒された。

「あんっな訳の分かんない2人が訳分かんないまま偶然出会うっての?ないない、絶対、ないわ。それにあんっな偏屈そうな男に、あんっな素直な子が弟子入りなんて無い無い。あれは何かしらの関係があった上での師弟関係ね。」

「ふーん、そんなもんかなあ」よく分かんねーや。・・・・・・あ、この肉美味い。
「ふはっ!!」

ブォォ・・・ドライヤーの温風を髪に当てながら、洗面台に乗せてあるスマフォの画面に次々に行事される文字を追っていれば、そのさなかに表示された文字に、いよいよ堪らず吹き出した。そしたら後ろで立体機動装置の刃を磨くリヴァイさんに「?なんだ突然吹き出して」って不思議そうな声を向けられて、振り返る。

「ふっ、ふふっ・・・リヴァイさん、具現化系か操作系ってバレてますよ。」
「あ?別に構わねェよ、見るからにそうだしな。」

そう伝えてみればリヴァイさんは1度顔を上げて一瞬だけ訳が分からないって具合に眉間にしわを寄せてから、だけど直ぐに私のスマフォに気付いたのか、直ぐに何でも無い顔にそれを戻した。
・・・まぁ、そっか。それは・・・そうだよなあ。そんな事を思いながら、スマフォの"LINE"に表示される、メンチさん、サトツさん、ブハラさんの『会話』を読む。別に試験官の人達の会話を聞い何かしようって言うわけじゃないんだけど、何か面白い事話してないかなあと思ってこのアプリで繋いでみたんだけど・・・流れてくる文字に、「リヴァイさん、私とリヴァイさん親子とか兄妹とか言われてますよ」って笑う。笑えば、「どうしてそうなる、全然似てねェだろ」って顔をしかめられちゃったけど。

「メンチさんなんて援助交際とかっていってますよ。」
「・・・・・・・・・」
「あはは、嫌そうな顔。」
「笑い事じゃねェ、事実何回か職質されそうになった過去を忘れたのか。」
「・・・・・・・・・くっ!」
「笑い事じゃねェつってんだろうが。」

い、言われても。笑いが止まらなくって涙まで出てきた。リヴァイさんって結構童顔に見られがちなんだけど、私自身もリヴァイさんと同じで東洋人独特って言うのかなんていうのか。まぁこの世界の人達の中に紛れると大分幼い顔立ちをしてるから、童顔に見られるリヴァイさんと、それでも犯罪臭を漂わせた関係に見られちゃう事有るんだよな。だから時々。本当に稀にだけど、一緒に繁華街とかモールに行ったりすると・・・「ふっ!」

「ッ・・い、いいじゃないですが・・だ、大体リヴァイさんが、ふっ、ふふっ、に、睨んだら・・・逃げてくから・・・・・・ふは!」
「おい、好い加減笑いを止めねェと止められなくするぞ。」
「!!」

言って、擽るぞって言わんばっかりに真顔で両手をわきわき動かしたリヴァイさんから距離をとってばちん!左手で口を押さえる。昔10分以上擽られ続けて死にそうになった過去が蘇って来て、開いてる右手でサッとスマフォを構えた。い、いざとなったら戦うぞ、っていう意思表示だ。
でもそれを見たリヴァイさんはひくりって顔を引き攣らせて、ついでに眉間に皺も寄せた。「テメェ・・・そこまで俺を笑いものにしてェか」被害妄想にも程がある。でも笑いは収まらないから左手は離せない。

「・・・・・・・・・よしっ!」

カチッ。ドライヤーのスイッチを切って棚に戻してから、ささっと髪の毛を梳かす。そうしてからくるっとリヴァイさんの方を振り返れば、思いっ切り嫌な顔をされたのを無視して首を傾げた。

「リヴァイさん、本当に探検行かないんですか?」
「行くわけねェだろ、おっかねェ。」
「どうせ行っても行かなくても空の上なのは変わらないじゃないですか。」
「うるせェな、思い出させるな。また足が震えて来たらどうする。」
「いやいやそんな事今まで1度も・・・1度だけしか無かったじゃないですか。」
「おい、お前今笑ってねェか?」
「わ、・・らってないです。」

随分前。飛行船を使わないと目的地にたどり着くのに途方もない時間がかかるような目的地を目指していた時、渋るリヴァイさんをほぼ無理矢理飛行船に押し込めた、最初の時。あの時の真っ青な顔をしたリヴァイさんの事を思い出せば、ふつふつと込み上げたものに口を押さえる。・・・本当、何もかも完璧な人なんていないものだなあ。
思いながら、だけどこれ以上笑うと今度は拳骨が降ってきそうだから無理矢理頭の中を切り替えた。

「もー!こんな経験そんなに出来ないんですからね!後悔したって知りませんよ!」
「とっとと行け、落ちるなよ。」
「・・・だから落ちるわけないって言ってるのに。」

何度もくりかえればもはや呆れに変わっちゃうような会話を繰り返して、だけどもうこれ以上何を言っても無駄だろうなってドアに手をかけた。リヴァイさん、高所恐怖症って訳じゃないのに・・・本当に不思議だなあ。
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